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 2008年8月10日に韓国・釜山慶南競馬場で行われたコリアオークス(韓国産3歳牝、ダート1800メートル・韓国G2 14頭)に現在釜山に遠征中のミスターピンクこと内田利雄騎手が騎乗。惜しくも勝利こそならなかったが、アーチレーサー Arch Racer(牝3、コ・ホンソク厩舎)に騎乗し、5番人気ながら2着に入る活躍を見せた。14頭中5番人気という数字だけを見れば2着というのもそう驚くことではないだろう。しかし、騎乗したアーチレーサーの獲得賞金は上から数えて9番目、距離の実績も乏しく人気になる材料が少ない。実はこの5番人気は内田騎手が手綱を取ることが評価されてのもので、その期待に見事応えての2着だったのだ。それほどまでに今、釜山ではミスターピンクは絶大な支持を集めている。

 
釜山慶南競馬場スタンド全景
 
検量後にカートで運ばれる騎手
 2005年の宇都宮競馬場廃止後、岩手からスタートした内田利雄騎手による短期所属替えの渡り鳥稼業はすでに4年目に入っている。そう聞くともうそんなに経つかと思う反面、もっと長く今のスタイルを続けているという印象も同時に浮かぶ。それだけ訪れる各地に溶け込んで活躍し、常に新たな驚きを我々に見せていることの表れなのだろう。今年の3月から滞在したマカオ・タイパ競馬場ではマカオホンコントロフィーを制し、日本人初のマカオG1制覇の偉業を成し遂げた(注1)。そして、マカオでの大きな勲章を引っさげてこの6月からは日本から最も近い海外の競馬場のひとつである、韓国・釜山慶南競馬場での騎乗をスタートした。歴史の浅いこの競馬場が、内田騎手が現在のスタイルを始めたのと同じ2005年に開場したというのも何か運命めいたものを感じてしまうと書いても大げさではないだろう。

 失礼を承知で書かせていただくと、開場して3年の釜山の騎乗のレベルはまだまだ発展途上。それ故に釜山に遠征するということを聞いたときには、これまでの内田騎手の実績から考えて、いきなり勝ちまくってしまうのではないかと思ったほどだ。日本ではそう見られない豪快な斜行が当たり前のようにあることや、極端な道中のペースダウンにてこずりながらも初日に初勝利を挙げると、約1ヶ月が経とうかという頃には、「みんなの動きが見えてきた」といよいよ本領を発揮。成績が上がることで騎乗馬の数も質も上がってくるともう止まらない。8月9日終了時点で78戦19勝、連対率は37%というハイアベレージを記録。この日も6戦1勝2着3回と成績を伸ばしており、冒頭で触れたように、騎乗するだけで人気になるというのも頷ける。

 
コリアオークスの騎乗について調教師と打ち合わせ
 
カートでおどける内田騎手
 好調の背景には成績では語れない内田騎手の順応力とでもいおうか、コミュニティに溶け込む面も避けて語れない。韓国では外国籍ジョッキーはあまり調教には乗らないようなのだが、日本と同じように熱心に調教に跨ることで調教師から大きな信頼を得ることができた。さらに競馬を離れた普段の生活でも厩舎スタッフと打ち解けることができたのも大きい。所属先での内田騎手の周囲への溶け込み方には、毎度毎度驚かされる。すっかり釜山ではいなくてはならない存在となった内田騎手に、主催者から8月末までの予定だった騎乗期間の延長の声がかかるのも当然の流れ。幸か不幸か計画していた岩手での騎乗が叶わなくなった(注2)ことから延長は渡りに船で、今年年内は釜山で騎乗を続ける模様だ。

 釜山の騎手たちにしてみれば、内田騎手のライセンス延長は目の上のタンコブがさらに腫れたようなものだ。しかし、まだまだ経験が浅く技術を吸収することに貪欲な釜山の若い騎手たちにとっては、この延長はまたとない機会となったようだ。通算3000勝を超える内田騎手はこれ以上ないお手本となり先生となり、まさにこれから発展していくであろう釜山の競馬にとって不可欠なものをもたらしているといえる。この点について内田騎手は「どんどん聞いてくれれば教えるし、それによって競馬の質があがることはうれしい」と目を細める一方で、「教えたところですぐに出来るもんじゃない。やれるものならやってみな、という気持ち」と勝負師特有の眼光の鋭さを見せた。一朝一夕に積み重ねたものではないプライドが、「若い頃のような闘争心が持続できている」と内田騎手に刺激を与えているようである。

韓国ではサラブレッドの競走はソウルと釜山の2箇所で行われている。ソウルと釜山の距離は東京〜大阪間とそう差はなないのだが、釜山の歴史の浅さもあってか競走の交流というのはまだ少ない。今回行われたコリアオークスは、昨年までソウルで開催されていたものが、今年から釜山で交流競走として開催されることとなったもの。今回ソウルから遠征してきた2頭のうち、4番人気に支持されたバラムクイーン Baram Queen(牝3、ソ・ボンソク厩舎)の手綱を取ったのは、以前に南関東で外国人短期免許枠で騎乗経験のあるオーストラリアの富沢希騎手だった。バラムクイーンはスローペースを後方で追走しながら、直線で4差を詰めて4着となり、日本人騎手2名が掲示板に名を連ねる結果となった。
 
第3レースを勝った富沢騎手
 「スローペースになって思い描いていた競馬ができなかった」と内田騎手は結果に悔しがる一方で、この結果にソウルから遠征のソ・ボンソク調教師が絶賛。無論自身が管理する馬が好走(もう1頭も3着)したことも大きいが、何より内田騎手のパフォーマンスに元騎手であるソ調教師は驚きを隠せなかったようだった。ソ調教師は騎手時代にオーストラリアで騎乗したことがあり、富沢騎手とはその頃からの縁だそう。異国の地で結果を出し続けることの難しさを知っているからこそ、内田騎手の凄さが肌感覚で判るのであろう。機会があれば内田騎手にソウルでも騎乗して欲しいと求めると同時に、もっと日本の競馬と接して自分たちを高めたいと声高に語っていた。

 今回の訪問で、釜山は今、内田騎手を擁していることを誇りに思っているという印象を受けた。コリアオークスに騎乗する内田騎手をドキュメンタリーのカメラが追いかけ、レース前にはインタビューも行われていた。パドックや返し馬では必ずと言っていいほど「ウチダサン!ガンバッテ!」と日本語で声がかかる。内田騎手の通訳を担当する女性も「内田さんとの仕事ができるのは素晴らしいこと」と目を輝かせていた。
 望んでなった渡り鳥稼業ではない。各地の地方競馬の存続の危機にあたり、こういった選択肢もあるということを先駆者として示すと同時に、同じような境遇の騎手がこれ以上生まれて欲しくないという想いで、サーカスのキャラバンの如く日本やアジア各地を回っている。年初以来、日本での騎乗が見られないのは実に寂しいことだが、ツルやツバメといった渡り鳥が、訪れる先々の人々に笑顔を与えているように、釜山の関係者やファンに笑顔をもたらせているのだとしたら、それは我々にとっても誇らしい。
 内田騎手の他、釜山には渡瀬和幸騎手(兵庫)も遠征しており、ソウルでは倉兼育康騎手(高知)がリーディング上位で活躍中だ。機会があれば応援に行くのもいいだろう。釜山ではれば国内線感覚で行ける距離だが、それ以上に日本人騎手の活躍がその距離を縮めてくれるはずだ。
 
コリアオークスのパドック 流し目は健在
 
コリアオークスの直線
 
最終第6レースを勝利した内田騎手
 
勝利して引き上げてくる内田騎手
注1 
注2 
岡部幸雄騎手(当時)が勝利したマカオダービー(1994年)は当時未格付け。
岩手競馬の短期騎乗受け入れは1シーズンに1名となっており、今シーズンはすでに牧野孝光騎手(荒尾)が行使しているため。
取材・文・写真●土屋真光

着順
馬番
馬名
性齢
騎手
重量
調教師
タイム
人気
1
9
ジョロチャンス JeoLho Chance
牝3
Jo C H
53
Kim S S
1.57.8
1
2
1
アーチレーサー Arch Racer
牝3
内田利雄
53
Ko H S
1.58.7
5
3
2
ゲートウェイ Gate Way
牝3
Lim S S
53
Seo B S
1.59.0
6
4
11
バラムクイーン Baram Queen
牝3
富沢希
53
Seo B S
1.59.1
4
5
6
ミョンプムジュルジュ MyeongPumJilJu
牝3
Choi S D
53
Yoon Y G
1.59.7
8
6
12
デハンドルプン DaeHan DolPung
牝3
Kim T J
53
H Lim
2.00.0
3
7
4
ジャジュンミョンニョン JakJunMyeongNyeong
牝3
Chae G J
53
Baik K Y
2.00.3
12
8
5
テュギュヘギョルサ TeukGeupHaeGyeolSa
牝3
Koo Y J
53
Kim J S
2.00.5
9
9
10
サンプンゲドッダンベ SunPungE DotDanBae
牝3
Kim T K
53
Oh M S
2.00.6
11
10
3
ガヤゴンジュ Gaya GongJu
牝3
Kim E S
53
Oh M S
2.00.7
2
11
7
ガルセッギョタプ GalSaek GeoTap
牝3
Jo C W
53
Kim C O
2.00.7
10
12
14
ブギョンサラン BuGyoeng SaRang
牝3
Jo S G
53
Choi K H
2.00.8
14
13
13
アチンノユル AChim NoEul
牝3
Kim M S
53
Baik K Y
2.01.0
13
14
8
ウシュンパーティー USeung Party
牝3
You H M
53
Mun J B
2.01.9
7


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