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レースハイライト
 

2011年3月27日(日) 帯広競馬場

競走成績Movie

三度目の正直で悲願達成
2頭の一騎打ちは紙一重の勝負

 ばんえい記念前日の最終レースは、ソリから砂煙が立ち昇る状況。電光掲示板に表示された馬場水分は0.5%だった。帯広地方は10日以上も降水ゼロ。走路上はまさにカラカラの砂漠状態となっていた。
 しかし競馬場が暗くなったころから雪が降りだして、夜8時頃にはコースの色は真っ白に。「去年と同じだなあ」と、誰かの声がした。そういえば、昨年もばんえい記念の前夜は雪だった。
 ただ、昨年と違ったのは雪の量。今年のほうが少なく、さらに気温も高かった。第1レース開始時に1.8%と表示されていた馬場水分は、北海道らしい青空と西からの風にさらされて、時間を追うごとに少しずつ失われていった。
 そして16時35分、ついに馬場水分は1%を切る数値に。ばんえい記念ではパワーがより重要になることが濃厚になるにつれ、昨年の1、2着馬、ニシキダイジンとカネサブラックの馬連オッズは数字が小さくなっていくようだった。
 定刻の17時15分、帯広競馬場全体が高鳴る鼓動に包まれるなか、ばんえい記念のゲートが開いた。今年は昨年と違って全馬が第1障害をスムーズにクリアしたが、何度も止まり、そして少しずつしか前に進めないのは例年と同じ。その苦闘を経て、10頭が第2障害の前に到達した。あとは底力の勝負だ。
 まずはニシキダイジンが動きだし、ほぼ同時にカネサブラックも仕掛けていく。もう1頭の上位人気馬ナリタボブサップは、まだ息を整えている最中だ。
 ほぼ並んで山に挑むニシキダイジンの藤野俊一騎手、カネサブラックの松田道明騎手は、ともに腰を深く落として手綱を引き、大きな反動をつけて馬に推進力を与えている。少しずつ少しずつの“がぶり寄り”を重ね、先に第2障害を克服したのはニシキダイジンのほうだった。さほど遅れずにカネサブラックもクリアして、その後は両馬による二転三転の争いが展開されていった。ニシキダイジンが進めばカネサブラックが止まり、カネサブラックが進めばニシキダイジンが止まる。どちらが先にゴール板を通過するかは、そのときの運がすべてだろうと思えてくるほど、2頭の闘いは互角だった。
松田道明騎手
ばんえい記念に向けてハミを替えたり馬体重を調整したり、陣営がうまく仕上げてくれたので馬の状態は抜群でした。帯広記念(3着)ではニシキダイジン(1着)が第2障害を上がるのを見てから仕掛けましたが、そのレース後に「ばんえい記念では早めに行こう」と考えました。それで今日は馬の気分に任せて、(第2障害前で)最初に馬の気合が入ったところで勝負をかけたんです。カネサブラックで(ばんえい記念を)獲れると信じてずっとやってきましたから、今の気持ちはうれしいというよりホッとしたという感じですね。勝ったのはカネサブラックですが、10頭全部が精一杯がんばったからいいレースになったんだと思います。これからもみんなと一緒に、いいレースをしていきたいです。
松井浩文調教師
今の気持ちは「よかった」という一言です。今年こそカネサブラックで、と思っていましたから。でも一時期調子を落としましたし、直前こそ3連勝していましたが、調教を強くすると良くないタイプだし、この状態でばんえい記念に臨んでいいものか、常に不安がありました。普段のカネサブラックはおとなしいタイプですが、レースでの気合がすごい馬。来年は10歳になりますが、また来年も勝つことができたらと思います。

 観客も横歩きをしながら大声で2頭の名を叫ぶ。競馬場を包み込んだその声は、応援よりは祈りというほうがふさわしいのかもしれない。観客と騎手の気持ちと叱咤激励を受けながら進んでいく両雄。その攻防のなか、先にゴールラインをまたいだのはカネサブラックだった。しかし体がそれを越える手前で歩みが止まる。その間にニシキダイジンもゴールラインを踏み越えた。しかしこちらもソリの後端まで一気に越えられない。両騎手の心臓の鼓動が伝わってくるような一騎打ち。そこから一瞬先に動きだしたのはカネサブラックのほうだった。そのまま最後まで押し切って、三度目の正直で悲願達成だ。続いて2秒9差でニシキダイジンもゴールラインを突き抜けた。そのあとは20秒以上の差がついたのだから、いかにこの2頭が抜けた存在だったかがわかろうものだ。
 その勝負からおよそ1分後。10頭目にタケタカラニシキがゴールラインを通過したところで、観客からは大きな拍手が出走全馬に贈られた。これがばんえい記念の醍醐味のひとつといえるだろう。激闘を目の当たりにした満足感にひたる観客と同様に、各騎手にも最善を尽くしたという充実感がうかがえた。
 「この熱戦が東北まで届いてほしいね」
 とは、大河原和雄騎手。ばんえい競馬の関係者には東北地方出身者が多い。また、東北地方在住の馬主さんも多いそうだ。一所懸命さがストレートに伝わってくる激闘譜を奏でた人馬の姿と想いは、きっと大地震の被害を受けた地域にも届いていることだろう。
取材・文:浅野靖典
写真:三戸森弘康(いちかんぽ)

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