レースハイライト タイトル
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2011年10月10日(祝・月) JRA東京競馬場 ダート1600m

心をひとつに岩手競馬を支援
世界で戦った底力を見せる

 震災の影響で競馬自体の再開すら危ぶまれた岩手競馬だが、例年より1カ月以上遅れたものの5月14日に無事に開幕。そしてここまで5カ月、売上げは対前年比こそ下がっているものの、震災後に組み直された計画額をクリアする形で開催が行われてきた。
 一方の中央競馬では、震災の影響で中止となったぶんの開催日数を取り戻すべく順次追加開催が行われ、10月10日にも東京競馬場1場での追加開催を実施。
 そして例年どおりであれば、この10月10日に盛岡競馬場で予定されていた岩手競馬最大のレース、マイルチャンピオンシップ南部杯JpnTが、「岩手競馬を支援する日」として東京競馬場に場所を移しての開催が決定。南部杯の売上げの一部が岩手競馬支援のために、またこの日の売上げの一部が被災地支援のために、それぞれ拠出されることも発表されていた。
 こうして初めてJRAの主催によって行われることになった南部杯だが、当日の東京競馬場は、まさに“岩手の南部杯”という雰囲気を演出していた。「チャグチャグ馬コ」や「盛岡さんさ踊り」の披露、じゃじゃ麺など岩手グルメの販売、岩手物産展や岩手特産品の抽選会などなど。またメインの南部杯に先駆け、第9レースには「メイセイオペラ記念 かけはし賞」、第10レースには「トーホウエンペラー記念 かがやき賞」と、岩手が生んだ名馬を冠したレースも行われた。そして地方競馬の、特に岩手競馬のファンや関係者にとってうれしかったのは、南部杯のファンファーレとして、例年どおり岩手で使われているものを東京競馬場でも聞くことができたことではなかっただろうか。
 JRAの南部杯に設定された地方枠は5頭。そのうち2頭が岩手の優先枠とされ、例年であれば南部杯のトライアルとなる青藍賞の勝ち馬ゴールドマインと、その青藍賞こそ6着に敗れたのの、昨年の岩手三冠馬ロックハンドスターが出走。そのほか地方勢は高知からイーグルビスティー、ワキノカイザーの2頭が遠征してきた。
 とはいえレースでの注目はやはり中央の実績馬で、ともにジャパンカップダートとフェブラリーステークスという中央の両ダートGTを制しているトランセンドとエスポワールシチーの直接対決が焦点。ドバイワールドカップ2着以来のトランセンドが単勝1.6倍の断然人気で、帝王賞JpnT2着以来となるエスポワールシチーがやや離れて6.3倍で続いた。場所は東京競馬場に変ったが、ダートグレード戦線の有力馬が、この南部杯で秋のGT・JpnT戦線への復帰戦を迎えるという位置づけは例年と変わらない。
 レースは見ごたえのあるものとなった。エスポワールシチーが逃げ、トランセンドは2番手から。3番人気のダノンカモンも直後に続いた。直線に入るとエスポワールシチーが一旦は突き放しにかかったが、残り100メートルあたりでダノンカモンがこれを交わして先頭へ。しかし3番手に後退したトランセンドがしぶとく差し返して勝利をもぎ獲った。アタマ差の2着にダノンカモン。中団から自慢の末脚を繰り出して追い込んできたシルクフォーチュンが半馬身差の3着入り、ゴール前で力尽きた感じのエスポワールシチーは1馬身半差の4着だった。
 勝ちタイムの1分34秒8は、09年のフェブラリーステークスGTでサクセスブロッケンが出したコースレコードにコンマ2秒と迫るもの。スタート後最初の1ハロンは12.0秒だが、2ハロン目が10.9秒、3ハロン目から6ハロン目が11秒台という厳しい流れ。地方馬同士のレースではありえないハイペースで、さすがに地方勢は途中からついていくことができず下位に敗れた。中でも岩手のファンに夢を与えるべく復活を期して出走したロックハンドスターは、スタート後の芝からダートコースに入るあたりで右前脚を骨折。予後不良という残念な結果となった。
 勝ったトランセンドだが、「スタートは普通に出たんですけど、休み明けもあって反応が鈍くついていくのがやっとで、1600メートルずっと追いっぱなしみたいな状態でした」と藤田伸二騎手。安田隆行調教師も、「直線に入って、今日は3着かなと思った」という。また藤田騎手は、道中ハミが掛からず遊びながら走っていること、この馬にとって1600メートルは距離が短いことなども語った。そうした不利な要素を跳ね除け、ギリギリのところでも勝ってしまうのだから、世界を相手に2着の底力をあらためて見せつけた結果といえよう。
 トランセンドの今年の大目標はジャパンカップダートGTの連覇とのことだが、JBCクラシックJpnTにも登録して、馬の体調次第では使う可能性もあるという。日本テレビ盃JpnUを圧勝したスマートファルコンは、次走JBCクラシックを明言。日本テレビ盃で競走除外となったフリオーソも脚元の様子を見ながらJBCクラシックへ向け調整が続けられている。さらにエスポワールシチーもとなれば、今年のJBCクラシックでは現役ダート4強の直接対決が実現するかもしれない。
 そしてこの日、本来ならマイルチャンピオンシップ南部杯が開催されるはずだった盛岡競馬場では、「競馬で心がひとつになる日。」というキャッチフレーズのもと、地方全国交流の重賞・絆カップを新設。また、全国の地方競馬から東北出身の騎手を招待し、2レースのポイント制で争われる『東北ジョッキーズカップ』も実施された。
藤田伸二騎手
1番人気にこたえられてホッとしています。体はだいぶできてると思ったんですが、気合乗りがちょっと足りないのが心配で、反応もよくありませんでした。ハナにはこだわってなかったですし、エスポワールシチーの出方次第で競馬をしようと思っていたので、理想どおりの競馬ができたと思います。ここを使ったことで、次はもっと強い競馬ができると思います。
安田隆行調教師
直線では苦しく見えましたけど、あそこから伸びてくるというのは、トランセンドの底力を再認識しました。世界の超一流メンバーを相手に2着だったので、ここは負けられないと思っていました。勝利をもぎとったという感じだったので、馬を讃えてあげたいと思います。2番手からの競馬で勝ったのは、今後に向けて大きなプラスだったと思います。来年もまたドバイに行きたいと思っています。

息詰まる攻防はゴール前まで続いた(写真右端がトランセンド)
 絆カップは、岩手デビューで現在は船橋所属のリュウノボーイが、目下の岩手リーディング村上忍騎手の手綱で勝利。東北ジョッキーズカップは2戦ともに2着だった大井の高野毅騎手(福島県相馬市出身)が優勝した。
 絆カップは全国の地方競馬で場外発売が行われ、各地の競馬場では岩手競馬を支援するためのイベントも行われた。また南部杯が行われた東京競馬場では、場内の101投票所にある岩手競馬専用馬券売り場でトークイベントなどが行われ、岩手競馬を盛り上げた。
 中央・地方、すべての競馬場とその関係者、そしてファンが、岩手競馬を支援するために心をひとつにする日となった。

取材・文:斎藤修
写真:いちかんぽ(森澤志津雄、国分智、川村章子)、NAR