未来優駿 タイトル
 10月中旬~11月上旬にかけて行われる各地の2歳主要競走(計7レース)を約3週間のうちに短期集中施行するシリーズ(2008年創設)。

 3歳馬によるダービーウイーク同様、各地の主要競走が短期間で楽しめる贅沢感や、先々への期待感を醸成できることが当シリーズ最大の魅力。また、11月以降のダートグレード競走(兵庫ジュニアグランプリ・全日本2歳優駿)への出走意識を高めることで、競走体系の整備促進にも資することが期待される。


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抜群のダッシュ力で他馬を圧倒
破格のタイムで無傷の7連勝

 『未来優駿』第4戦は、福山2歳優駿。過去4年すべて1番人気馬が優勝しており、いずれの馬も、その後の重賞戦線で活躍している。これからの福山競馬を担う馬が今年も現れるのか注目の一戦だ。
 レースは一騎打ちムードが漂っていた。デビューから6戦全勝のカイロスと、同厩舎のイワミノキズナとの4度目の対戦。これまでイワミノキズナはカイロスに全敗している。しかし前走、勢いが落ちたカイロスを目がけ猛然と追い込み、半馬身差まで追いつめた。本番で逆転の可能性も十分あると思わせるレースぶりだった。そして最終的な単勝オッズは、カイロスが1.1倍。イワミノキズナが3.3倍と続いた。
 しかし終わってみれば、カイロスのスピード能力をまざまざと見せつけられる結果となった。
 「メイライトの出方次第で、2番手も想定していた」と佐原秀泰騎手はレース後にコメントしたが、スタートから競り合うこともなく、あっさりとカイロスが先手を取り、自分の形に持ち込んだ。一方、スタートに課題のあるイワミノキズナは後方2番手からのレースとなった。そうなると、イワミノキズナがどこで動き始めるかが注目となるわけだが、予想どおり、向正面に入ると岡崎準騎手のムチが飛び、一気に前へと進出した。4コーナーあたりでは2番手でレースを進めていたメイライトのすぐ後ろまで迫ったが、そこからカイロスとの距離が縮まらなかった。懸命に追いかけるイワミノキズナを尻目に、カイロスの佐原騎手は「よっしゃー!」と雄叫びをあげ、左手が大きく上がった。
 勝ったらウイニングランをすると決めていたという佐原騎手は、スタンドのファンの声援にあらためて応え、喜びを爆発させていた。
 そして、着順掲示板に確定ランプが灯り勝ちタイムが表示されると、検量室前にはどよめきが起きた。「1.19.2」という、2歳馬としては破格の走破タイムだったからだ。過去4回のこのレースの勝ちタイムはいずれも1分22秒台で、これまでカイロスは1分21秒台を2回マークしている。それゆえレースレコードは想定されていたのだが、実際に叩き出したタイムは古馬オープンクラス。コースレコードに0秒1まで迫っていたのだった。
 これでデビューから7連勝。無敗で重賞タイトルを手にしたカイロス。昨年もクーヨシンでこのレースを制した佐原騎手は、「これまで負けなしで来ているぶん、去年より緊張した」と安堵の表情を浮かべた。「前走はイレ込みが原因で力を出し切れなかった。今日は落ち着いていた」と自信を持ってレースに臨んだことを振り返った。直線も、「差を詰められる気がしなかった」という完勝。そして、スタートダッシュについては「驚くほど速い。今までついてこられた馬がいない」と騎手自身も舌を巻くほどだ。
 また、ワンツーフィニッシュとなった高本友芳調教師は、「短い距離ならカイロスに分があると思っていた」と。しかし「長い距離ならイワミノキズナに適性がある」と今後はこの2頭を別路線で歩ませたい意向を語った。
 カイロスの次走は、兵庫ジュニアグランプリJpnⅡ(11月29日・園田)を目標とのこと。そしてその後は、JRAにも挑戦したいと遠征にも意欲的だ。「このスピードは全国にも通用する」という佐原騎手の言葉を信じ、福山の快速馬としての活躍を期待したい。
佐原秀泰騎手
こんなにいい馬に巡りあわせてもらい感謝しています。メイライトがどれけ早いかと思っていましたが、こちらの速さが全然違いましたね。前回はあの走りでも凌ぎきってくれたのは力がある証拠だし、今日はすべてにおいて理想的でした。これから有名になれるように、馬と共に全国に旅立ちたいです。
高本友芳調教師
前走はテンションが高くてゲートもよくありませんでした。でも中間でゲート練習もしたし今日は落ち着いていましたね。普段は癖もなく素直な馬ですが、レースになるとスイッチが入るんです。初めて見たときはとても小さかったんだけど、ここまで成長してくれるとは思いませんでした。


取材・文:秋田奈津子
写真:桂伸也(いちかんぽ)