レースハイライト タイトル
dirt
2013年12月25日(水) 名古屋競馬場 2500m

長く脚を使い惜敗続きに終止符
鞍上のムチに応え差し切り勝ち

 12月25日、水曜日。世間ではクリスマスという一大イベントがあり、多くの企業などでは御用納めの2日前。名古屋グランプリJpnⅡが実施されたのは、そのような日の昼間である。果たして入場者数はどのくらいのものなのか。そんなことを案じながら正午頃に名古屋競馬場に着くと、予想以上に人がいる。メインレースのパドックは、祝日に行われることが多い名古屋大賞典JpnⅢやかきつばた記念JpnⅢと同じくらいではと思えるほどの人垣で、馬上から観客席を見た愛知所属の某騎手も「今日はかなり入っていますね」と印象を述べていた。
 そのメインレースの人気は、5頭のJRA勢が分け合う形。その数字にはちょっとした特徴があった。
 発走の1時間半ほど前における3連単の1番人気は、エーシンモアオバー、シビルウォー、ランフォルセの順での組み合わせ。しかしエーシンモアオバーは、そのとき単勝4番人気だったのである。昨年のこのレースでは、同馬に騎乗した岡部誠騎手が、自身初めてのダートグレードレースの勝利に涙を流した。そんな地元騎手を応援する気持ちも票数のなかに含まれていたのではなかろうか。そしてその組み合わせは、最後まで1番人気を保った。
 それにしても、JRA所属馬の人気は割れていた。最終的な単勝オッズは、ナイスミーチューが2.9倍で1番人気。3倍台でエーシンモアオバー、シビルウォー、ランフォルセが続いて、トウショウフリークは6.1倍。上位拮抗を示す数字は、絶対的な中心馬が不在であることの裏返しだったともいえる。
 さて、このレースで展開のカギを握るのは、逃げて結果を残してきたエーシンモアオバーとトウショウフリークの走り。ゲートが開くとその2頭はしばらく併走していたが、「ちょっと掛かった」と武豊騎手が振り返ったとおり、最初のゴール地点あたりからトウショウフリークが後続をぐんぐんと離していった。対するエーシンモアオバーは2番手となったが、3番手には大きく差をつける形。それでもそのスピードは徐々に落ち着いて、2周目のゴール地点に戻ってきたときには、前後の差はそれほど大きくなくなっていた。
 しかし各馬が向正面半ばに達したとき、先頭を行く武豊騎手の手がトウショウフリークの首筋に置かれたままなのとは対照的に、後続各馬の鞍上は激しいアクションを始めた。それがもっとも大きく、長い時間だったのが、シビルウォー鞍上の内田博幸騎手。向正面中央あたりから続いた叱咤激励は、直線入口で先頭に立ったあともゴール地点まで続いた。逃げたトウショウフリークは3馬身差で2着を死守。最後に勢いよく差を詰めてきたナイスミーチューはクビ差及ばず3着だった。
 それでも上位5頭は、実力的にほとんど互角と言ってもいいだろう。GⅠ/JpnⅠを争う馬たちは強力だが、それに続く層も厚い。地方勢が割って入ることはできなかったが、JRAと同日開催だった昨年(12月24日・祝日)より4割ほど多い2,760名という入場人員、2億円以上上回る4億5339万6900円というこの日の総売得額は、上位拮抗の戦いに期待し、そして堪能した人々が多かったことの現れでもある。

内田博幸騎手
先行したいとは思っていましたが、行けなかったので徐々に差を詰めて、2周目の向正面でムチを入れて上がっていきました。そのあとは少し手応えが怪しくなったので、またそこで気合を入れて。一度、先頭に立ってしまえば止まる馬ではないですからね。8歳ですが、本当に偉い馬。まだまだやれると思います。
戸田博文調教師
勝ちきれないレース続きでしたが、いい感じでは来ていたんですよ。リズムが合うと強い競馬をしますから、今日みたいな内容が理想かな。むしろコーナーがたくさんあったほうがいいのかもしれません。馬は体がそれほど消耗していなくて若さがありますから、今後もこの路線で頑張っていきたいです。

トウショウフリーク(左)とエーシンモアオバーが集団を引いて周回する

取材・文:浅野靖典
写真:川村章子(いちかんぽ)