未来優駿総括 タイトル

生産者の気合が伝わる勝ち馬
地方デビューする世界的名血

 6年目となった『未来優駿』。福山競馬が残念ながら3月限りで廃止となり、その代わりということでもないのだろうが、これまで地区交流で行われていた金沢の兼六園ジュニアカップが地元限定戦となって未来優駿にラインナップされた。なお、以下文中での成績等は、すべて11月7日現在のもの。
 それでは、まずは前年勝ち馬のその後から。
 盛岡・若駒賞を制したロックハンドパワーは、3歳シーズン初戦のスプリングカップを1番人気で制したものの、その後はやや低迷。夏に休養があり、秋に復帰した2戦目イーハトーブマイルでは3着。ダービーグランプリに出てくれば巻き返しに期待だ。
 園田・兵庫若駒賞のエーシンクリアーは、大晦日の園田ジュニアカップ、年明け初戦の3歳特別を制したまでは順調だったが、菊水賞を前に剥離骨折があり戦線離脱。4カ月ぶりの復帰戦となった兵庫ダービーは中団ままの8着だった。しかし10月10日の笠松・岐阜金賞を制して復活。11月24日、水沢・ダービーグランプリに出走予定となっている。
 佐賀・九州ジュニアチャンピオンを大差圧勝したロマンチックは、花吹雪賞、飛燕賞を含めその後も連勝を続けていた。しかし脚部不安があって放牧に出され、3月10日のレースを最後に休養したままとなっている。
 福山2歳優駿を無敗のまま制したカイロスは、その後遠征した兵庫ジュニアグランプリJpnⅡで9着、地元に戻ってヤングチャンピオンでも2着だったが、福山所属としての敗戦はその2戦のみ。年明けから再び連戦連勝で、廃止前に例年より繰り上げて行われた福山ダービーまで7連勝と突っ走った。その後は大井に移籍。初戦となった3歳特別を制し、優駿スプリントトライアルではハードデイズナイトに1馬身3/4差の2着と好走した。1200メートル戦でそのスピード能力を発揮し、9月、10月に古馬B1・B2特別を2連勝と着実に成長を見せている。

インサイドザパーク(13年東京ダービー)
 船橋・平和賞を制したインサイドザパークは、末脚勝負の脚質ゆえ追い込んで届かずというレースも目立つが、東京ダービーでは鮮やかな追い込みを見せてダービー馬の称号を得た。そしてジャパンダートダービーJpnⅠでも地方最先着の4着と好走。連戦連勝というタイプではないだけに、今後も重賞などでハマった時にあっと言わせるという場面がありそうだ。


 名古屋・ゴールドウィング賞を制したウォータープライドは、3歳になっても順調に重賞タイトルを重ね、東海ダービーでは50歳の兒島真二騎手に初めてのダービーのタイトルをもたらした。しかし笠松・クイーンカップを取消したあとの2戦で最下位惨敗が続いているのが気になるところ。

ウォータープライド(13年東海ダービー)

 門別・サッポロクラシックカップのプロティアンは、その後に中央入り。しかし結果が残せず、この秋からホッカイドウ競馬に戻ってきている。
 昨年の未来優駿勝ち馬7頭のうち3頭が地元のダービー馬となって、それを含めて6頭が3歳でも重賞を制しているというのは、かなりの活躍といってもいいのではないだろうか。


 今年の『未来優駿』の勝ち馬は、じつに血統が多彩だ。おなじみサウスヴィグラス産駒は、佐賀・九州ジュニアチャンピオンのマツノヴィグラス。新種牡馬の産駒が2頭いて、スクリーンヒーロー産駒が盛岡・若駒賞のライズライン、セイントアレックス産駒が門別・サッポロクラシックカップのドントコイとなっている。サンデーサイレンスの血を持った馬は相変わらず少なく、ライズライン(父の母の父)と、金沢・兼六園ジュニアカップのフューチャースター(父の父)の2頭のみ。特徴的なのは、7頭中5頭の母馬が外国からの輸入馬だということ。これについては長くなるので最後に触れることにする。まずは各レースを簡単に振り返ってみる。

 盛岡・若駒賞は、2番人気のライズラインが逃げ切って、1番人気のラブバレットに2馬身半差をつけた。1番枠から強気に逃げたベテラン小林俊彦騎手の好判断といえよう。岩手では2歳時はダートも芝も両方使ってみるという馬がほとんどなだけに、この時期はまだ力の比較が難しい。
若駒賞 ライズライン
強気に逃げたベテラン小林俊彦騎手の好騎乗

 金沢・兼六園ジュニアカップは、2番人気のフューチャースターが、1番人気フリオグレイスーに2馬身差をつけての勝利、3着には大差がついた。その後、フューチャースターは中1週でJBC当日の百万石ジュニアカップに2番人気で出走し、3コーナー過ぎで先頭に立ったものの、1番人気のイグレシアスに直線で競り落とされ、さらに離れた3番人気のアキレウスにも交わされて3着だった。イグレシアスとフリオグレイスーは同馬主ゆえかこれまで直接対戦がなく、フューチャースターとその2頭が目下のところ金沢のこの世代3強といえそうだ。
兼六園ジュニアカップ フューチャースター
1番人気に2馬身差をつけての勝利

 園田・兵庫若駒賞は、1番人気トーコーポセイドンと2番人気オープンベルトの馬連複が1.1倍という人気で、そのとおりの決着。逃げたトーコーポセイドンに対して、オープンベルトは好位を追走したが、最後まで差を詰めることができず1馬身半差。3着馬には4馬身差がついた。
兵庫若駒賞 トーコ―ポセイドン
兵庫若駒賞は人気どおりの決着

 佐賀・九州ジュニアチャンピオンは、東眞市厩舎の4頭が単勝ひと桁台と極端に人気が集中し、5番人気馬の単勝は36.3倍というもの。東厩舎の2番人気マツノヴィグラスが逃げ切って勝つには勝ったが、それ以外の3頭の走りが案外だった。半馬身差の2着には単勝169倍のケンシスピリットが食い下がり、ワイドを除く連勝馬券はすべて万馬券という波乱の結果となった。それにしてもこのレース3連覇となった東厩舎の2歳馬の層は厚い。
九州ジュニアチャンピオン マツノヴィグラス
東眞市厩舎はこの競走3連覇

 門別・サッポロクラシックカップは、重賞ではないということもあり、JpnⅢのエーデルワイス賞、北海道2歳優駿とも日程が近く、必ずしも世代のトップクラスが集まるということにはならない。それゆえ力の比較も難しく、今回は6、3、5番人気という決着。1番人気馬は最下位に敗れた。逃げ切り勝ちとなったのはドントコイで、これで7戦3勝。角川秀樹厩舎は毎年2歳重賞での活躍が目立ち、今年もクリノエリザベスがリリーカップを制している。
サッポロクラシックカップ ドントコイ
2頭の兄も道営で活躍した


平和賞 ナイトバロン
 船橋・平和賞は、北海道から船橋に移籍初戦となったナイトバロンが5番手追走から直線で前を楽にとらえるという圧巻のレースぶり。アメリカからの持ち込み馬で、ノーザンファームの生産、馬主はクラブ法人のキャロットファーム。血統についてはあとで詳しく解説するが、これほどの血統馬が地方デビューというのは驚きで、幼いころにどこか不具合があったのかもしれない。
ナイトバロンの父はBCクラシック2連覇のティズナウ
本田正重騎手は重賞初制覇

 名古屋・ゴールドウィング賞を8馬身差で制したのはリーダーズボード。デビューから一方的なレースばかりで8連勝。2着馬につけた着差の合計が、なんと49馬身(大差が2度あるのでタイム差からの推定)。今年、無敗のまま未来優駿を制したのはこの馬だけ。管理する川西毅調教師は、勝率36.5%で今年も全国1位、勝利数でも全国3位となっている。
ゴールドウィング賞 リーダーズボード
今年、無敗のまま未来優駿を制したのはこの馬だけ



 それでは最後に、勝ち馬7頭中5頭の母馬が外国からの輸入馬という血統について触れておく。
 若駒賞、ライズラインの母イージーラヴァーは、カナダ産でチリで走りGⅡのタイトルがある。社台ファームに輸入されたが、これまで目立った産駒は出ていなかった。現3歳が社台ファームで生産された最後の産駒で、2歳のライズラインは新冠・土井牧場の生産となっている。
 兵庫若駒賞、トーコーポセイドンの母クルザダアメリカーナはブラジル産で、2歳時にブラジルでGⅠ勝ち。その後アメリカでも走った。日高町・オリオンファームに輸入され、ひとつ上の3歳馬は父フサイチペガサスの持ち込み馬。トーコーポセイドンは2年目の産駒となる。
 九州ジュニアチャンピオン、マツノヴィグラスの母ブライティアバードは小林昌志さんがアメリカで生産して輸入。中央未勝利ののち船橋に移籍してC級で3勝を挙げて引退。マツノヴィグラスは4頭目の産駒となる。
 サッポロクラシックカップ、ドントコイは父も母も新ひだか町・グランド牧場によるアメリカでの生産馬。輸入された母ナナツボシの現役時は、中央で新馬戦を勝ったものの、2勝目、3勝目は旭川での条件交流。しかし繁殖牝馬としての成績がすばらしい。初仔のイチバンボシ(父スマートボーイ)は道営所属として船橋・平和賞4着があり、その後川崎に移籍して現在は南関東B級で現役。1年空いて現3歳のストーミングスター(父ストーミングホーム)は道営デビューでイノセントカップを勝ち、中央入りして今年のニュージーランドトロフィーGⅡで12番人気ながら3着と好走。そして3頭目の産駒がドントコイになる。父セイントアレックスの母フェスティバルはグランド牧場の自家生産馬として中央でデビューし、門別のエーデルワイス賞GⅢ、北海道2歳優駿GⅢを連勝。日本での勝ち星はそれが最後となったが、アメリカに現役馬として渡って牝馬のGⅢを制した。そのままアメリカで繁殖となり、北米2冠馬アフリートアレックスを付けて産まれたのがセイントアレックスだ。残念ながらレースに出走することなく種牡馬として輸入され、ドントコイの世代が初年度産駒となる。
 血統的にすごいのは、平和賞のナイトバロンだ。父ティズナウは現役時にブリーダーズCクラシック2連覇を果たし、種牡馬として何頭もGⅠ馬を出している。すでに発表されている来年の種付料は75,000ドルというアメリカの人気種牡馬。母バロネスサッチャーは、アメリカで勝ち星こそGⅢまでだが、GⅠで2着が3回。その父は、日本に輸入されて初年度産駒が今年大活躍のヨハネスブルグ。バロネスサッチャーは、ノーザンファームが輸入し、持込馬として産まれたのがナイトバロン。その年にはディープインパクトを付けたが不受胎(もしくは血統登録なし)。昨年はダイワメジャーをつけて、今年牝馬が誕生している。
 未来優駿の勝ち馬を見ただけでも、地方デビュー馬といえど近年では血統レベルが相当に高いものになっていることがわかる。


文・斉藤修
写真・いちかんぽ、NAR