2014年11月19日(水) 浦和競馬場 2000m

絶対のピンチから末脚一閃
念願のグレードタイトル奪取

 冬の訪れを感じさせる冷たい風の吹く中で行われた第35回浦和記念JpnⅡは、その寒さとは裏腹に、地方競馬ファンにとって熱いレースとなった。大接戦のゴール前、並んだ3頭はすべて南関東所属馬。1着は船橋のサミットストーン、2着は大井のグランディオーソ、3着は浦和のトーセンアレスと、地方馬のワンツースリーで決着したのである。地方馬がダートグレード競走で3着までを独占したのは、2009年のクイーン賞JpnⅢ(船橋)以来。牡牝混合での古馬のダートグレード競走となると、2002年のマイルチャンピオンシップ南部杯GI以来となる(馬インフルエンザの影響で中央全馬が除外となった2007年のブリーダーズゴールドカップを除く)。
 ゲートが開くと、予想通り単勝1番人気のエーシンモアオバーが先手を主張した。好スタートを切ったグランディオーソが2番手、サミットストーンが内の3番手につけた。ランフォルセとグランドシチーも好位を追走し、トーセンアレスはやや離れた中団から、2番人気のシビルウォーは後方からレースを進めた。
 2周目の向正面で仕掛けたのはトーセンアレスで、一気に前へと押し上げた。一方先行勢は、3コーナーで逃げていたエーシンモアオバーが早くも後退。その直後につけていたサミットストーンは行き場がなくなり、「逃げ馬が予想以上に早く止まって、壁になって出られなくなった。これはまずいと思った」と石崎駿騎手。
 4コーナーからは、早め先頭に立ったグランディオーソと、外から迫るトーセンアレスが後続を離して一騎打ち状態となった。しかし、直線を向いて進路が開いたサミットストーンが内ラチ沿いから一気に脚を伸ばし、激しく競り合う2頭をゴール前で差し切った。
 アタマ差の2着にはグランディオーソ。「完璧な競馬ができた。あれで差し切られてしまうんだから勝った馬が強い」と御神本訓史騎手は仕方なしの表情。トーセンアレスの張田京騎手は、「交わせると思ったんだけど……。もう一息」と溜め息交じり。ここ2戦ダートグレードで好走していただけに悔しいクビ差の3着だった。
 謹差での勝利だったが、勝負どころでのピンチを考えると着差以上の強さだったと言えるのがサミットストーン。レース後、関係者から祝福を受けていた矢野義幸調教師は「やっと勝てた」と気持ちがこもった一言を呟いた。
 サミットストーンは、今年金沢から船橋・矢野厩舎に転入し、地方馬の代表格として注目を集めてきた。ダイオライト記念JpnⅡで3着と地力の高さを見せ、大井記念で南関東重賞を初優勝。7月のマーキュリーカップJpnⅢで4着、そして前走の白山大賞典JpnⅢでは勝ったエーシンモアオバーと0秒1差の惜しい2着と、あと一歩のところまで来ていた。そして今回、前走の雪辱を果たすとともに、待望の交流重賞初制覇を飾った。
 2014年、地方馬によるダートグレード優勝は、かきつばた記念JpnⅢのタガノジンガロ(兵庫)以来2頭目となる。「年度代表馬の可能性もあるのでは?」と矢野調教師に言葉をかけると、「ほんと?!じゃあ今年あともうひとつがんばらないといけないね」とニコリ。サミットストーンの次走は、東京大賞典GI(12月29日・大井)の予定だ。「今日のレースを勝てたことで次が楽しみになりました。手応えはもちろんありますよ!」と石崎駿騎手。暮れの大一番では、地方競馬ファンの期待を一身に背負うことになりそうだ。
石崎駿騎手
状態もすごく良くて期待以上の走りをしてくれました。ゲートが悪い馬ですが、今日はクリアしてくれました。いいポジションがとれたし道中も手応えが良くて、動く準備もできていたのですが……。最後は必死で、直線が短いので届くか心配でしたが素晴らしい脚でした。今日のレースは収穫になりましたね。
矢野義幸調教師
4コーナーでは差が開きすぎたと思ったけどよく届いてくれました。盛岡(JBC)遠征をやめて脚を温存できたことが今日の末脚につながりました。この馬の強さはバテないところと長い脚が使えるところ。でもこんなキレる脚は初めてでしたね。右回りの方がいいので次走も期待したいです。


取材・文:秋田奈津子
写真:川村章子(いちかんぽ)