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2014年12月23日(祝・火) 名古屋競馬場 2500m

実績の舞台で前走敗戦から巻き返す
人馬一体で人気馬をクビ差封じる

 前週に大雪の影響で開催中止という事態に見舞われた名古屋競馬。この日は穏やかな晴天に恵まれて場内は大勢のファンで賑わっていた。天皇誕生日の祝日に合わせて様々なイベントを用意していた主催者側も、これにはかなりホッとしている様子だった。
 そんな名古屋競馬の大一番、名古屋グランプリJpnⅡは、過去3年の優勝馬が揃い踏みとなり、名古屋巧者たちが2500メートルをどのように競い合うのか期待が高まった。
 前日から割れていた人気だったが、パドックに各馬の馬体重が表示されると、さらにファンの頭を悩ませた。トウショウフリークのプラス23キロをはじめ、有力馬の多くが10キロ以上の馬体重の増減を示しており、「これは、どう考えたらいいんだろう」などとパドックからはどよめきが起こっていた。最終的には、断然の実績を誇るニホンピロアワーズが単勝2.5倍で1番人気に支持され、5番人気までが10倍を切る混戦模様となった。
 しかしレース後、ウイナーズサークルに立っていたのは、単勝13.3倍で6番人気のエーシンモアオバー陣営だった。そして、手綱をとった地元の岡部誠騎手には一際大きな拍手が送られた。2年前にこのコンビで名古屋グランプリJpnⅡを制した際は涙のインタビューだったのだが、今回は、はちきれんばかりの笑顔で集まったファンの声援に応えた。
 トウショウフリークとエーシンモアオバー、どちらが逃げるのか。注目の先行争いはエーシンモアオバーが押して先手を取りきった。その直後にニホンピロアワーズがピタリとつけ徹底マークの様子。スタート直後は控えたもののかかり気味だったトウショウフリークは我慢しきれずに1周目の向正面で先頭に立った。「この馬のリズムを崩さなければ大丈夫」と、エーシンモアオバーの岡部騎手はこの状況にも慌てずに2番手でレースを進めた。
 2周目の向正面半ばでトウショウフリークが早くも失速すると、エーシンモアオバーとニホンピロアワーズの一騎打ち。3コーナーでは一瞬手ごたえが怪しく見えたエーシンモアオバーがもう一度盛り返し、直線では2頭の激しい追い比べに。最後はエーシンモアオバーがクビ差しのいで優勝を手に入れた。
 道中は中団に位置取り、直線で末脚を伸ばしたシビルウォーが半馬身差で3着。地方馬として期待された3番人気のグランディオーソ(大井)は初コースが影響したようで4着にとどまった。
 「直線は意地と意地とのぶつかり合いでした。抜かせないぞという馬の気持ちが伝わってきて、自分もそれに応えなきゃと。最後まで歯を食いしばってがんばってくれたし、馬も人間も根性見せましたね」と、まさに人馬一体の攻防を岡部騎手は興奮した様子で振り返った。
岡部誠騎手
4年連続乗せてもらっていますが今日も若々しくて、毎年いい状態を作ってきてくれます。どんな展開になるか分かりませんでしたが、自分の形を作って走らせてあげることを心がけました。3コーナーで相手の手応えが良かったのでダメかと思ったけど、もう一度ハミをとってくれてがんばってくれました。
沖芳夫調教師
いつも3~4コーナーで並ばれる時に気持ちが萎えて失速することが多かったのですが今日はがんばっていたので、ひょっとしたらという気持ちでした。前走はスタートで待たされたことが影響しましたが、今日はゲートにゆっくり入れてプレッシャーがないようでした。名古屋との相性もいいんでしょうね。



 果敢な逃げ戦法が印象的なエーシンモアオバーだが、沖芳夫調教師によると「精神的にとてもデリケートな馬」だそうだ。「当日輸送だと馬体重は減らないので、金沢や名古屋には実績があると思う。前日輸送をしなければいけない競馬だと飼い食いが落ちて10キロ以上減ってしまうことが多い」とのこと。今後も、長距離遠征や輸送のタイミングがポイントとなりそうだ。
 8歳にして今年ダートグレード2勝目を飾り、まだまだ衰え知らずのエーシンモアオバー。9歳となる来年もベテランの意地を見せてくれることだろう。今後は休養に入り、順調ならば春から始動となる。

取材・文:秋田奈津子
写真:岡田友貴(いちかんぽ)