当コーナーでは、地方競馬に関するイベントや注目レース等の気になる話題を写真と共にご紹介します。

全国的に充実した短距離路線
3歳馬がファイナルを制する快挙

2015年7月23日

 5年目を迎えたスーパースプリントシリーズ(以下、SSS)で目立ったのは、短距離血統の活躍。当たり前と思われるかもしれないが、地方競馬では一般的に言われている血統的な距離適性が当てはまらないことがよくある。それを思えば、今年は、なるほどと思うような血統の活躍が目立った。
 園田FCスプリントのサクラシャイニーこそ、父が皐月賞2着など中距離で活躍したサクラプレジデント、母サクラフューチャーもサクラローレルの半妹という中距離血統だが、ほか3つのトライアルの勝ち馬は、いずれも短距離血統だった。
 川崎スパーキングスプリントを逃げ切ったカベルネフランの父アサクサデンエンは1400~1600メートルで活躍し、ほかに産駒は昨年の兵庫ジュニアグランプリJpnⅡを制したジャジャウマナラシや、2013年の東京2歳優駿牝馬を制したブルーセレブなどがいる。
 グランシャリオ門別スプリントのポアゾンブラックは、父がスプリンターズステークスGⅠを制したマイネルラヴで、マイル以下もしくは2歳時の活躍馬が多い。
 名古屋でら馬スプリントを勝ったワールドエンドの父サウスヴィグラスは、ご存知の通り近年のダート競馬の、特に短距離路線を席巻している種牡馬。サウスヴィグラスについてはまたあとでも触れる。
 そしてもうひとつ、今年の特徴としては人気通りの決着が多かったということ。ファイナルの習志野きらっとスプリントも含めて5戦、すべて勝ったのは単勝1番人気馬。2着も2~4番人気に収まった。
 血統的なことも、人気・実績どおりの決着だったことも、このシリーズが5年目を迎え、地方競馬全体として短距離路線が充実してきたゆえの結果といえそうだ。

 川崎スパーキングスプリントは、行ったまま前2頭での決着。勝ったカベルネフランはB級の牝馬で51キロ、2着キョウエイロブストはA2級で55キロ。このレースはA1級57キロ、A2級55キロ、B1級以下53キロ、牝馬2キロ減、3歳馬2キロ減というクラス別定で、過去にA1級馬が連対したのは2013年1着同着の2頭だけ。一般的に中長距離より短距離のほうが斤量の差が結果に与える影響は大きいといわれるが、この川崎900メートルという超短距離戦では、まさにそのとおりの結果となっている。ただ今年はA1級馬の出走が3着に入ったコアレスピューマだけだったように、年によってはA1級馬の出走自体が少ないという事情もある。それにしてもコアレスピューマはSSS初年度のこのレースの勝ち馬で、今年が4度目の出走。11歳での3着というのは褒められていいだろう。

 園田FCスプリントには毎年他地区から有力馬の遠征があり、今年は一昨年の勝ち馬エスワンプリンス、昨年の勝ち馬エプソムアーロンが出走してきた。しかし勝ったのは1番人気に支持されたサクラシャイニーで、高知所属馬による2連覇となった。特に高知からは毎年のように元中央オープン馬やダートグレード好走馬が出走してきて、高知からの遠征馬がこのレースのレベルを上げていると言ってもよさそうだ。実際に今年まで5年間の3着内馬15頭のうち5頭が高知所属馬で、2012年以外は毎年3着以内に入っている。

 グランシャリオ門別スプリントは、中央から転入初戦の北海道スプリントカップJpnⅢで2着と好走していたポアゾンブラックが人気にこたえての勝利。それにしても今のホッカイドウ競馬の短距離路線のレベルは高い。一昨年、昨年ともに北海道スプリントカップJpnⅢ4着からこのレースを連覇していたアウヤンテプイが今年は2着。そして昨年のエトワール賞でアウヤンテプイを負かしていたグランヴァンが同着での2着。いずれも習志野きらっとスプリントに出走すれば好勝負の可能性はあったと思われるが、残念ながら今年は北海道からの遠征はなかった。

 名古屋でら馬スプリントは、ワールドエンドが連覇。レースハイライトでも触れられているとおり、それ以前にはラブミーチャンの3連覇があり、このレースは5回で2頭の勝ち馬しか出ていない。しかも勝ち方はいずれの年も危なげのない一方的なレース。さらに、父サウスヴィグラスの5連覇ともなった。地方競馬ではときに2000メートル級の重賞でも勝ち馬を出すサウスヴィグラスだが、やはり活躍が目立つのは短距離。ラブミーチャンもワールドエンドもそうであるように、500キロを超える大型で筋肉質の父の体型をそのまま受け継いだような馬の活躍が目立つのもサウスヴィグラス産駒の特徴だ。

 そしてファイナルの習志野きらっとスプリントを制したのは、3歳馬のルックスザットキルで、優駿スプリントからの連勝となった。優駿スプリントはSSSに含まれていないものの、勝ち馬には習志野きらっとスプリントへの優先出走権が与えられる。しかしながら習志野きらっとスプリントに3歳馬が出走したのはルックスザットキルが初めてで、そういう意味でも快挙となった。
 ルックスザットキルにとっては初めての古馬との対戦で、これまでとは違う厳しいペースに戸惑うのではないかと思ったが、川崎スパーキングスプリント1、2着馬のうしろに控えて直線交わし去るという、堂々としたレースぶりだった。主戦の早田功駿騎手は優駿スプリントがデビュー9年目にしての重賞初制覇で、ルックスザットキルとともに今後の飛躍が期待される。
 先にも書いたとおり、SSSは「距離1000メートル以下のレースで構成される」とあり、1200メートルの優駿スプリントはこのシリーズに含まれていない。しかし3~4コーナーを一度だけ通過する「ワンターンのスプリント戦」ということで、すでに勝ち馬には優先出走権はあるのだから、このシリーズに含めることを検討してもいいのではないだろうか。南関東は所属馬の頭数も多く3歳のこの時期でも距離別の重賞を組むことができるが、それ以外の地区ではそうもいかない。そういう意味では、優駿スプリントを3歳馬による全国交流として、SSSのトライアルに組み込むということは検討してもいいのではないだろうか。
 一方で、昨年はトライアルの勝ち馬(川崎スパーキングスプリントは1、2着馬)すべてがファイナルに出走したが、今年は地元南関東以外でトライアルの勝ち馬が出走したのは、園田FCスプリントのサクラシャイニーだけだった。
 昨年は北海道からアウヤンテプイが出走(4着)したが、これまで北海道からファイナルに出走したのはその一度だけ。この時期、関東地方は梅雨明けで最高気温が30度超えとなることも珍しくなく、涼しい北海道から長距離輸送があっての猛暑では消極的にならざるをえない、という話は以前から聞いていた。昨年のファイナルでは1番人気に支持されながら9着だったワールドエンドも夏負けがあったとのことで、今年は自重。ちなみに今回4着の高知のサクラシャイニーも夏バテぎみだったとのこと。
 近年地方競馬では、このSSSも含め、ダービーウイーク、グランダム・ジャパン、未来優駿、スーパージョッキーズトライアルなど注目のシリーズが増え、それらの兼ね合いから時期をずらすということも難しいが、全国から強豪の出走を期待したいファイナルが、気温が上昇するこの時期に行われるということではちょっと悩ましい。


文:斎藤修
写真:いちかんぽ