2016年7月18日(祝・月) 盛岡競馬場
第1戦
第2戦
第3戦

第1戦

第2戦

第3戦

1勝2着2回のチームWESTが優勝
個人優勝はSJTに続いて永森騎手

 昨年に続いて、全3戦にて実施されることになった騎手対抗戦『ジャパンジョッキーズカップ』。昨年はチームJRAが優勝を飾り、ポイント数の合計で争われる優秀騎手賞は、JRAの戸崎圭太騎手が受賞した。
 騎手招待競走は各地でいろいろと実施されているが、日本のトップジョッキーが集う戦いとしては、冬に川崎競馬場で行われる『佐々木竹見カップジョッキーズグランプリ』と並ぶ、最高峰の舞台。そこに“チーム戦”という要素を加えて“日本版シャーガーカップ”といえる趣向になっている。
 第4レース後に行われた出場騎手紹介セレモニーでは、チームJRA(内田博幸騎手=キャプテン、戸崎圭太騎手、ミルコ・デムーロ騎手、川田将雅騎手)、チームEAST(岩手・村上忍騎手=キャプテン、北海道・五十嵐冬樹騎手、大井・真島大輔騎手、金沢・田知弘久騎手)、チームWEST(兵庫・川原正一騎手=キャプテン、愛知・丸野勝虎騎手、高知・永森大智騎手、佐賀・山口勲騎手)の各チームキャプテンにマイクが向けられ、それぞれ優勝を目指して、というコメントが聞かれた。
 とはいえ競馬は、それぞれの騎手が与えられた馬をどれだけ上位まで導いていけるかという要素が大きい競技。しかし川原騎手はさすがベテラン。第1戦でチームワークを意識した騎乗を披露してくれた。
 「僕の馬はちょっと力量的に厳しい感じでしたし、スタートしてからも前に行く脚がなかったので、チームプレイに切り替えましたよ。こういうレースでは大きい着順を取らないようにしないと」と、10番人気馬を後方3番手から8着に流れ込ませたレースぶりを解説してくれた。
 その第1戦は、好スタートから先手を取った内田博幸騎手が5馬身差で逃げ切り勝ち。「メンバー的に3番手くらいからかなと思っていたら先手を取れて、しかもだんだん後ろが離れていきましたからね」と、本人としては予想外の勝利だったようだ。
 対照的に首をひねったのが戸崎騎手。「行き脚がつかなくてぜんぜんダメでしたけど(12着)、けっこう人気していたんですよね?」という、その馬は単勝1番人気。そして馬連複の1番人気は、戸崎騎手と単勝4番人気のデムーロ騎手との組み合わせだった。
 この日の盛岡競馬場は昨年よりも入場者数が1000人ほど多く(4513名)、1日の総売上げはおよそ2億5千万円多い、10億2027万4000円だった。騎手紹介セレモニーではウイナーズサークルの周囲に何重もの人垣ができ、パドックも階段状になっているところは満員だった。そのあたりの影響もあるのか、全体的にJRAの騎手に人気が集まる傾向があったようだ。
 2着に入ったのは永森騎手。検量室に戻ってくるなり「人気の馬に乗ると、こうなんですよ」と苦笑いをしていたが、単勝オッズは3番人気。永森騎手の騎乗馬は、専門紙では本命の印が多くついていたのだが、それもJRAの騎手にファンの注目が集まっていたことの証左といえるだろう。
 続く3着は村上騎手。「EASTは専門紙のシルシ的に厳しい感じがあるんですよね。でも、とりあえず3着でなんとかなったかな」と、団体戦を意識したコメント。1カ月前に行われたスーパージョッキーズトライアル(SJT)ではピリピリした空気が存在したが、今回はすべての騎手がリラックスムード。笑顔も会話もたくさん見聞きできる空間だった。
 とはいえ、そこはトップジョッキーたちの戦い。内田騎手が「インコースは砂が深いですね」と話していたことは出場騎手の誰もが分かっていたようで、ダート1600メートルで争われた第2戦は、最内枠からスタートした田知騎手が、徐々に馬場の中央に馬を動かしながら先行策を取った。
 それを制して先頭に立ったのは、川原騎手のモズフウジン。この馬は前走がSJTの第1戦で、逃げ切り勝ちをおさめていた馬だった。「逃げないと持ち味が出ないみたいだからね」。川原騎手はそのときの走りを踏まえて逃げ宣言。そのとおり主導権を取ったのだが、徐々に並びかけてきたのは、2走前に同じレースに出て2着だったイルポスティーノ。4コーナーで並びかければ、そこは個人対個人の戦いになる。最後は半馬身差をつけ、山口騎手のイルポスティーノの勝利となった。
 「この馬はSJTのとき、自分の前を走っていたんですよ。気が悪いところがある馬だなという記憶があったので、それを考慮して先行して脚をためていったらうまくいきました」と、会心の勝利という笑顔を見せていた。 しかし、「川原さんは同じチームでしたよね?」山口騎手もやはり団体戦のことを気にかけていた様子。第2戦が終了した時点では、チームWESTがチームJRAに23点差をつけてトップに立っていた。
 そのレースについて、騎手待機室で見ていた山本聡哉騎手に感想を聞くと「みなさん、ペースが遅い遅いと言っていましたが、このクラスにしては速かったと思いますよ」とのこと。逆に騎乗した村上騎手は「向正面の流れは遅かったですね」とレース後にコメント。同じ岩手所属馬によるレースでも、乗り手が変わると流れも変わるというところがあるようだ。
 間にマーキュリーカップJpnⅢをはさみ、第3戦は芝1700メートルが舞台。岩手以外の地方騎手にとっては、慣れない芝という点が課題となりがちだ。岩手の芝で何回も騎乗している五十嵐騎手でも「乗るたびに違和感がありますね」というのだから、先日のSJTが初めての左回りだった田知騎手はなおさらだろう。永森騎手も「左回りはむずかしいです」と、苦手意識があるようだった。
 それが影響したのか、永森騎手は4コーナーで大きく外を回るコース取りになり、クビ差で2着。単騎逃げの作戦を取った戸崎騎手が逃げ切った。
優秀騎手賞
(個人優勝)

永森大智騎手
(高知)
上位人気馬に多く乗せていただけましたし、この優勝は馬に助けられたおかげです。でも、ひとつくらいは勝ちたかったですね……。今回は未勝利でしたが、札幌(WASJ)では自分の技術を精一杯使って、地方競馬、高知、そして自分をアピールしてきたいと思います。
優勝チーム
キャプテン

チームWEST
川原正一騎手
僕としては、最初から個人の優勝よりもチームの優勝を狙っていましたよ。4人が堅い絆で結ばれていたことで、うまくいったんだと思います。持っている騎手(永森騎手)のおかげでもありますね。賞金は年功序列で差をつけてもいいんですけど、きちんと4等分しようと思います(笑)。

 「最後は併せ馬のような形になって、それがよかったみたいで押し切れました。でも、意外に単勝はつかないですね」と、戸崎騎手は大型ビジョンの払い戻し画面を見て、不思議そうな顔をしていた。同馬担当の阿部厩務員がレース直後に「勝てるなんて全然思っていなくて、うれしすぎて震えていますよ」と話していたほどの馬が単勝3番人気というのは、やはりこのレースらしい部分なのかもしれない。裏を返せば、昨年の優勝者である戸崎騎手に対するファンの期待の高さがあったのだろう。
 そして4着には丸野勝虎騎手が入線。第2戦の4着に続いての善戦に「SJTでは全然ダメでしたけど」と大笑い。そんなレース後の雰囲気からは、各騎手がハイレベルの戦いを楽しんでいる様子が伝わってきた。
 第3戦終了後、チームJRAの騎手は緑、チームEASTの騎手は青、チームWESTの騎手は赤のTシャツ姿でパドック脇に集合。しばらくののちに発表された結果は、チームWESTが優勝。個人優勝は永森騎手となった。
 永森騎手には副賞として、いわて純情豚が授与された。昨年は戸崎騎手がそれを岩手競馬に寄贈し、マイルチャンピオンシップ南部杯JpnⅠの日に盛岡競馬場の来場者に豚汁としてふるまわれたが、今年もその賞品は岩手競馬に寄贈されることになった。永森騎手はSJTに続いての優勝。「日本一ツイている男」と川原騎手が評した永森騎手が存在感を示した、ジャパンジョッキーズカップ2016だった。

取材・文:浅野靖典
写真:佐藤到(いちかんぽ)