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連載第45回 1997年 帝王賞

『観客総立ち!夜のコンサート』
1997年 帝王賞 コンサートボーイ

Movie(映像ファイルサイズ:19.5MB)
 1995年に中央競馬と地方競馬の相互交流が本格的に始まり、翌1996年に「ダート競走格付け委員会」が発足。中央競馬と地方競馬の統一ダートグレード競走が1997年4月よりスタートした。
 帝王賞はそれよりも前、1986年の第9回から中央競馬招待競走として行われていたが、トムカウント、テツノカチドキ、チャンピオンスター、そして笠松のフェートノーザンなど、地方競馬史にその名を残す名馬によりダート競馬の矜持を保っていた。
 しかし1990年、ついにオサイチブレベストがJRA所属馬初の帝王賞優勝馬となると、翌年はチャンピオンスターが巻き返し、92年にはJRAのナリタハヤブサとラシアンゴールドが1着同着、93年は大井のハシルショウグンと、JRAダート路線の整備とともに次第にJRA勢の躍進が目立つようになってきた。
 以降、スタビライザー、ライブリマウント、さらにホクトベガと3年連続でJRA勢に席巻されるようになる。そして前述の統一グレードの制定。GⅠとなった帝王賞は名実ともにダートの日本一決定戦となった。
 1番人気に推されたのは武豊騎手が騎乗するJRAのバトルライン。兄サンダーガルチが95年のアメリカ2冠馬という良血だが、ユニコーンSでの降着で躓き、そこから這い上がってきた。2番人気は岡部幸雄騎手が騎乗するJRAのシンコウウインディ。GⅠに格付けされたフェブラリーSに勝った“JRA初のダートチャンピオン”。3番人気は石崎隆之騎手が騎乗する船橋のアブクマポーロ。7連勝で前走大井記念に勝ち、ダートGⅠに駒を進めた当時まだ期待の新星。4番人気は騎乗停止となった内田博幸騎手の代打で的場文男騎手が騎乗する大井のコンサートボーイ。3歳時南関東クラシック全て2着という“準3冠馬”。その後も東京大賞典や川崎記念で2、3着を繰り返していた。5番人気は松永幹夫騎手が騎乗するJRAの古豪キョウトシチー。前年の東京大賞典を制している。
 騎手、出走馬ともにトップクラスが名を連ねる、真のダート日本一決定戦のゲートが開いた。
 勢い良く飛び出したのはコンサートボーイ。それを外からバトルラインが交わして1コーナーへ、そして南井克己騎手が騎乗する95年の勝ち馬ライブリマウントが2番手へ。コンサートボーイはイン3番手の絶好位に収まった。
 コンサートボーイの外にキョウトシチーが並び、アブクマポーロは後方8~9番手。逃げるバトルラインは前半1000メートル60秒3のハイペースで飛ばし、3コーナー手前では後続を引き離す。
 3~4コーナーでライブリマウントが後退し、コンサートボーイが差を詰める。キョウトシチーも遅れはじめ、アブクマポーロが外をまくり気味に上がってくる。
 4コーナーから直線へ。先頭はバトルライン。そして直後にコンサートボーイ。的場文男騎手は「1コーナーから前のバトルラインさえ交わせれば勝てると思っていた。前のバトルラインよりも後ろのアブクマ(ポーロ)が怖かった」と。
 的場騎手が懸念していた通り、バトルラインを交わして先頭に立つと、すぐ外にアブクマポーロが迫っていた。最内で粘るバトルラインだが脚色は外のコンサートボーイとアブクマポーロの2頭が勝っていた。残り100メートルを過ぎ2頭の一騎打ちに。激しい叩き合いはゴールまで続き、コンサートボーイがクビ差の接戦をものにした。
 1馬身差の3着にバトルライン、4着キソジボールドは9馬身差離れていた。コンサートボーイ、アブクマポーロ、バトルラインの3頭による激しい叩き合いに、当日大井競馬場に来場していた約6万人のファンから大声援が飛んでいた。
 アブクマポーロに騎乗していた石崎隆之騎手は「前半ついていけなかった。最後は経験の差」と。その後の活躍はご存知の通り。コンサートボーイとアブクマポーロの直接対決も、このレースを境に逆転することとなる。
 翌98年の帝王賞はアブクマポーロが勝ち、バトルラインが2着。この時3着のメイセイオペラが99年の帝王賞に勝っている。なんというか、因縁めいたものを感じる。
 この後本格的な“統一グレード”の時代に突入。他のダート競走の多くがJRA勢に席巻される中、帝王賞ではマキバスナイパー、ネームヴァリュー、アジュディミツオー、フリオーソとその後も地方所属の勝ち馬が生まれている。しかしそれも2010年にフリオーソが勝って以来6年途絶えているのは寂しい限りである。
文●日刊競馬・小山内完友
写真●いちかんぽ
競走成績
第20回 帝王賞 平成9年(1997年)6月24日
  サラブレッド系5歳以上 1着賞金7,100万円 大井 2,000m 晴・良
着順
枠番
馬番
馬名
性齢
重量
騎手
タイム・着差
人気
1 3 3 コンサートボーイ 牡6 57 的場文男 2.04.9 4
2 5 6 アブクマポーロ 牡6 57 石崎隆之 クビ 3
3 8 11 バトルライン 牡5 57 武豊 1 1
4 1 1 キソジゴールド 牡9 57 橋本美純 9 7
5 2 2 グランドツアラー 牡7 57 工藤勉 ハナ 11
6 6 7 キョウトシチー 牡7 57 松永幹夫 クビ 5
7 6 8 シンコウウインディ 牡5 57 岡部幸雄 3/4 2
8 8 12 テツノセンゴクオー 牡6 57 鷹見浩 1 6
9 5 5 アマゾンオペラ 牡7 57 佐藤祐樹 3 8
10 4 4 アイアイシリウス 牡5 57 脇本一幸 1 1/2 10
11 7 10 ライブリマウント 牡7 57 南井克巳 2 9
12 7 9 ウィナーズステージ 牡9 57 森下博 8 12
払戻金 単勝940円 複勝170円・150円・110円 枠連複1,480円 馬連複1,650円 枠連単3,270円 馬連単4,570円