dirt
2017年4月19日(水) 大井競馬場 1200m

迷いのない逃げから粘り込む
ダート短距離路線に新星誕生

 ダート短距離のJpnⅢ、東京スプリントが強風吹き荒れる大井競馬場で行われた。昨年までこの路線を牽引していたダノンレジェンドが引退し、混沌としているスプリント戦線。これから秋に向けてどのような勢力図になるのか、どの馬が中心となっていくのか考える上でも注目の一戦だ。
 その中で、これからのダートグレード戦線を大いに盛り上げてくれるであろう新星が現れた。JRAの5歳馬、キタサンサジンだ。出走馬10頭中、唯一、重賞初挑戦であり、大井コースやナイターなど初物づくしにも関わらず、単勝2.4倍と1番人気に支持された。梅田智之調教師は「1番人気になる実績ではないのに、まさかのプレッシャーがかかりました」と驚いた様子だったが、期待したファンの目は正しかった。
 ゲートが開くと、好スタートを切ったのはダノングッド。しかし、キタサンサジンの内田博幸騎手は何が何でもの構え。大外枠から押してダッシュをきかせ先頭を奪った。ダノングッドが2番手となり、3番手にゴーディー、地方馬では人気最上位のレアヴェントゥーレは大きく出遅れたものの、好位の直後まで盛り返した。レーザーバレット、ドリームバレンチノ、ブライトラインという有力JRA勢は中団から後方でレースを進めた。
 直線に入り、懸命に粘りこみを図るキタサンサジン。それを目がけて外から一気に伸びてきたのはブライトライン。2頭が並んだところがゴールとなったが、キタサンサジンがアタマ差凌いで逃げ切り勝ちを収めた。
 同じく接戦となった3着争いは、レーザーバレットが先着し、4着がダノングッドという結果となった。
 キタサンサジンのオーナーは、昨年のJRA賞年度代表馬、キタサンブラックのオーナーでもある演歌歌手の北島三郎さん。そして、鞍上は元大井所属の内田騎手ということで、表彰式はいつも以上に大きな声援が飛び交った。梅田調教師からは「北島オーナーの馬で10勝以上しているのですが、実は、一緒に口取り写真を撮れたことが一度もないんです。いらっしゃる時になぜか勝てなくて。だから今日はとても嬉しいです」という話が聞かれた。この勝利は、陣営にとって特別なものとなったようだ。
 現在5歳のキタサンサジンは、ここまで21戦して3着以内を外したのが4戦のみと安定感抜群の成績を残してきた。「いつも一生懸命走ってくれる馬です。そのひとつひとつが身になって成長しています。去年の今頃は1000万クラスを走っていたのに、強くなってくれましたね」と梅田調教師は愛馬を褒めた。
 そして、その強さや持ち味を最大限に生かし勝利に導いたのが、大井コースを知り尽くしている内田騎手だ。北島オーナーから「大井だったら内田騎手で」という話があり、このコンビが実現したとのこと。「オーナーの気持ちに応えることができて本当に嬉しいですし、大井で勝てたことが、これからの自分の自信にもつながります」と内田騎手は嬉しそうに語った。
 次走については未定だが、秋のJBCスプリントJpnⅠを目指してローテーションを考えいくようだ。
 地方馬最先着は浦和のレアヴェントゥーレで6着。「スタートで後ろ脚がひっかかる感じになり何が起きたか分からなかった。状態が良かっただけに悔やまれます」と吉原寛人騎手は残念そうだった。短距離のダートグレードでは、黒船賞JpnⅢに続いてJRA勢が上位独占。地方勢からも新星の出現が望まれるところである。
内田博幸騎手
初ナイターでしたし前でリズム良く走らせたかったので逃げようと思っていました。スタートでトモを滑らせ少し遅れましたが、スピードがありましたね。持久力もあるので最後まで踏ん張ってくれました。広いコースの方が合っていると思います。運のあるオーナーにあやかって優勝させてもらいました。
梅田智之調教師
馬の強さと騎手の手綱さばきと、何よりオーナーの勢いで勝てたと思います。仕上がりも良く休み明け3戦目で一番走れる状態にありました。逃げればしぶといと内田騎手に伝えていたので、その特徴を生かしてくれました。直線は声を出しながら見ていましが最後のアタマ差はオーナーの見えない力でしょう。

地方馬最先着は浦和のレアヴェントゥーレで6着

取材・文:秋田奈津子
写真:早川範雄(いちかんぽ)