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2017年7月12日(水) 大井競馬場 2000m

東京ダービー馬が殊勲の勝利
地方馬に7年ぶり5頭目の栄冠

 まだ梅雨にもかかわらず、開催初日から真夏のような暑さが続き、砂煙の舞う良馬場でレースが行われていた大井競馬場。この日は15,000人以上のファンが訪れ場内は大盛況。メインレースになるとその熱気は最高潮に達した。
 今年のジャパンダートダービーJpnⅠを制し、見事3歳ダートチャンピオンに輝いたのは、東京ダービー馬、船橋のヒガシウィルウィンだ。地方馬によるこのレースの制覇は、2010年のマグニフィカ以来7年ぶり、史上5頭目の快挙である。
 JRAからは、今年も強力なメンバーが集まった。全日本2歳優駿JpnⅠの優勝馬リエノテソーロと、北海道2歳優駿JpnⅢを圧勝したエピカリスは不在だったが、兵庫チャンピオンシップJpnⅡを制したタガノディグオ、ユニコーンステークスGⅢを快勝したサンライズノヴァなど、勢いと実績のある7頭が参戦。しかし、東京ダービーの後、ヒガシウィルウィン陣営は「中央勢相手でも通用する」と口にしていた。その言葉通りライバル達をまとめてねじ伏せたのだった。
 ゲートが開き先手を主張したのは大外枠のノーブルサターンだ。その後に、ローズプリンスダム、サンライズソア、シゲルコングと続き、ヒガシウィルウィンはそれらを見る好位の内。1番人気のサンライズノヴァは中団の位置取りで、向正面半ば過ぎからじわじわと前に上がっていた。
 3コーナーあたりから一気にペースが上がり、ヒガシウィルウィンの本田正重騎手の腕が大きく動く様子が見えた。「追ってはいましたが手応えも良かったし、前と離されないようにとだけ考えていました」(本田騎手)。
 直線では各馬が横に広がっての追い比べとなったが、内から先頭に立ったサンライズソアを、外からグイグイと追い詰めたヒガシウィルウィン。ゴール前でクビ差とらえて優勝を手にした。
 3着には直線で末脚を伸ばしたタガノディグオ。人気を集めていたサンライズノヴァは6着に敗れた。戸崎圭太騎手は「距離がどうかなと思っていましたが、直線は伸びなかったです」とコメントを残した。
 東京ダービー馬がJRA勢との激戦を制した姿に場内は大興奮。ウイニングランでは、大きく温かな声援、惜しみない拍手が送られた。そして検量室前は、関係者からの祝福の声で溢れた。
 今回、ヒガシウィルウィンの手綱を取ったのは初コンビの本田正重騎手。主戦の森泰斗騎手がケガのため、地元の後輩騎手にその想いが託された。「騎乗が決まってから毎日この日のことを考えていました。それに昔から泰斗さんにはかわいがってもらっていたので、泰斗さんの分までという思いもありました」と本田騎手。佐藤賢二調教師からは「正重を男にしてやらなくちゃと思って。地元(船橋)の騎手で勝てて本当に良かったです。本人も良い経験になったことでしょう」と温かい言葉が聞かれた。
 ヒガシウィルウィンは、北海道でデビューし、全日本2歳優駿JpnⅠ・4着の後、船橋に移籍。これまで連対を外したのはその1戦のみと抜群の安定感を見せてきた。佐藤調教師は「どこからでもレースができ、競馬が上手なところが強味」と評価する。また、クラシック戦線の厳しいローテーションにも関わらず、中間はハードな調教をこなし、東京ダービーよりも状態は良くなっていたという。このレースセンスと心身の強さを考えると、ヒガシウィルウィンのポテンシャルは計り知れない。間違いなくこれからの地方競馬を背負っていく存在だ。この後は休養に入り状態を見ながら秋の復帰を目指す。JBCも視野に入れてローテーションを考えていくそうだ。
 2001年のジャパンダートダービーGⅠをトーシンブリザードで制している佐藤調教師からはこんな話もあった。「トーシンブリザードの時は、力が一つ抜けていました。でも今回は強い中央馬が何頭もいて挑戦者の気持ち。最近の交流重賞はほとんど中央勢に勝たれてしまっていたので、負かすことができて本当に嬉しい」。近年、JRA所属のダート馬の全体的なレベルが上がり、地方で行われるダートグレードレースの出走枠も増え、地方馬にとっては以前よりも厳しい状況になっている。その中で、このヒガシウィルウィンの勝利は、地方競馬の関係者やファンに、夢と希望を与える大きなものとなったに違いない。
本田正重騎手
このようなチャンスをいただいて感謝しています。森騎手には「折り合いもつくし乗やすい馬」だとアドバイスをもらいました。指示通り4、5番手の位置をとれ、直線はなんとか外に出すことができました。ゴールの瞬間喜びが溢れましたね。調教でも感じましたが真面目で本当にがんばってくれる馬です。
佐藤賢二調教師
本田騎手が指示通りにうまく乗ってくれましたね。直線では周りの調教師が一生懸命応援してくれていて自分はぐっと声を出さずに見ていました。移籍してから一戦ごとに良くなって全体的にパワーアップしています。今後はやはり古馬のジーワンを勝ちたい。地元のかしわ記念を勝てたら嬉しいですよね。


取材・文:秋田奈津子
写真:宮原政典(いちかんぽ)、NAR