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連載第49回 1995年　東京盃

『川島再生工場の申し子』
1995年　東京盃　サクラハイスピード

　2014年に亡くなられた川島正行調教師。フリオーソやアジュディミツオー等、多くの活躍馬を育てたことで知られているが、初期の頃は中央競馬で頭打ちとみられた競走馬を手掛け、そしてもうひと花咲かせることで、「川島再生工場」の異名を持っていた。
　その中でも、川島師自身が思い入れの強い馬の１頭として挙げられたのが、サクラハイスピードである。
　1990年８月。函館の新馬戦でデビューし２着。折り返しの新馬戦、未勝利戦いずれも３着の後、４戦目で初勝利を挙げた。続くいちょうＳを７番人気の評価を覆して勝ち、Ｇ１朝日杯３歳Ｓに挑戦。リンドシェーバーの８着に敗れている。
　その後骨折による９ヵ月の休養の後、初のダート（1800ｍ）となる1500万の初風Ｓで復帰。勝ったスタビライザーから３秒離された９着と敗れている。その後も芝1800ｍ、再び骨折休養を挟みダート1200ｍ、芝1200ｍ、芝1600ｍと、脚元と相談しながら適性を探るレースが続いていた。
　４歳の６月、東京ダート1200ｍの麦秋Ｓを中団から伸びて２着し、続く平坦の福島1700ｍ、阿武隈Ｓに勝ち３勝目を挙げる。以降も一進一退を繰り返しながら中央24戦３勝。93年の春、船橋の川島正行厩舎に移籍した。
　移籍後A3クラスで連勝し、かしわ記念を２着。中央在籍時500キロだった馬体も、520キロ台へ増やしていた。まず体を増やすことは「川島再生工場」の特徴である。
　６歳となった94年は川崎記念、埼玉新聞杯、関東盃、東京盃、そしてグランドチャンピオン2000と重賞５勝。一気に素質を開花させた。
　暮れの東京大賞典（10着）のダメージが大きく、７歳シーズンの復帰戦は夏のアフター５スター賞（８着）。ここを叩いて臨んだのが、この年（95年）から中央・地方交流となった東京盃である。
　中央勢はヒシアケボノ、ビッグショウリ、ゴーゴーナカヤマ、ダンツダンサー、キョウエイボナンザの５頭。ダート路線が整備される以前でもある、ダート実績はビッグショウリが根岸Ｓに勝っているぐらいで、他は「新馬戦圧勝」レベルではあったが、人気は圧倒的に中央勢。単勝１番人気はヒシアケボノ、２番人気はゴーゴーナカヤマ、３番人気ビッグショウリ。
　注目のスタートでダッシュ良く飛び出したのはサクラハイスピード！　鞍上の佐藤隆騎手は素早く先手を奪うと、直後のヒシアケボノ、ダンツダンサー、ビッグショウリらを引きつけて、ハロン平均12秒フラットの「速くもなく、遅くもない」絶妙なペースでレースを進める。
　横一杯に広がった直線の追い比べ。ヒシアケボノ、ゴーゴーナカヤマなどダート実績のない馬が次々と後退する中、残り100ｍで内からビッグショウリが猛追する。ゴール前まで続いた馬体を併せての追い比べは、アタマ差サクラハイスピードが凌ぎ切った。「先手を取って、息を入れられたのが大きい」とレース後佐藤隆騎手が語ったように、ベテランらしい好騎乗が最大の勝因だろう。
　交流初年度に勝つと同時に、東京盃連覇。川島調教師も最後の直線は思わず声が出たという。中央勢が圧倒的という大方の予想を覆す、大金星であった。
　連覇を目指したグランドチャンピオン2000は激戦の疲れか７着に敗れ、そのまま引退となった。引退後は栃木県の高校で乗馬となったが、2007年の２月、練習中の事故でこの世を去っている。
　2014年にこの世を去った川島正行調教師の墓碑には、詩が彫られている。

「我が君よ　桜の花の　盃受けて　スピード豊富　天馬かな」

　川島師が生前、サクラハイスピードが東京盃を制した時の気持ちを詠んだものだという。

第29回　東京盃　平成7年（1995年）9月27日
サラブレッド系4才以上 1着賞金4,600万円　大井　1,200m　晴・良
着順	枠番	馬番	馬名	性齢	重量	騎手	タイム・着差	人気
1	6	6	サクラハイスピード	牡8	57	佐藤隆	1.12.0	6
2	4	4	ビッグショウリ	牡5	56	塩村克己	アタマ	3
3	7	8	コンサートボーイ	牡4	53	山崎尋美	2 1/2	7
4	7	7	ダンツダンサー	牝4	51	四位洋文	1	5
5	2	2	ランドアポロ	牡6	55	的場文男	1	10
6	3	3	ヒシアケボノ	牡4	53	河内洋	ハナ	1
7	5	5	ゴーゴーナカヤマ	牡4	53	加藤和宏	クビ	2
8	1	1	キョウエイボナンザ	セン8	55	蛯名正義	3/4	9
9	8	9	モガミキッカ	牡8	56	石崎隆之	3	8
10	8	10	ホウエイコスモス	牡5	55	高橋三郎	1/2	4
払戻金　単勝2,240円　複勝390円・200円・540円　枠連複5,030円 馬連複5,250円