“牝馬特有の難しさ”は、ファンも含めた競馬サークルのなかで本当によく使われる言葉。特に昨今のダート牝馬路線はレースごとに勝ち馬が変わっており、気分良く運べた馬が栄冠をつかむような状況が続いている。
ゆえに、今回も戦前予想は割れ加減。その中では比較的安定して走れるファッショニスタが単勝2.5倍の1番人気で、今回と同舞台のレディスプレリュードJpnⅡを制したアンデスクイーンが3.0倍。連勝中のメモリーコウ、前走のクイーン賞JpnⅢを快勝した地元のクレイジーアクセルまでが、単勝ひと桁台のオッズで続いた。
大方の予想通り、道中はクレイジーアクセルが逃げる展開。大井への転入初戦を迎えたサルサディオーネが続き、3番手の外に5番人気のマドラスチェック。1ハロン12秒台の淀みないラップで流れるなか、ファッショニスタ、メモリーコウ、アンデスクイーンは中団を進んだ。
しかし、手ごたえ良く直線に向いたのはマドラスチェック。仕掛けを若干遅らせて後続を待つと、じわじわと位置取りを上げてきたアンデスクイーンとの叩き合いに持ち込んだ。ゴール前までデッドヒートが続いたが、最後はアンデスクイーンをハナ差で退け、悲願の重賞初制覇を飾った。
マドラスチェックは昨春に牡馬相手の鳳雛ステークスを制し、鳴り物入りで関東オークスJpnⅡに駒を進めた。当時は“勝ち方が焦点”というような評価までされていたが、ラインカリーナに逃げ切られて2着。その後も古馬の壁に跳ね返され、この日も5番人気に甘んじていた。しかし、もともとかぶされると良くないタイプで、大外枠を引けたのは好都合。加えてこの日の大井は内が若干重く、終始外めを追走した森泰斗騎手の好判断もあった。すべてが追い風となり、ダートグレード4戦目にしてようやく本来のパフォーマンスを発揮できた印象だ。
一方で悔しそうな表情を見せたのは、アンデスクイーンのクリストフ・ルメール騎手。中団からじわじわと脚を伸ばし、4コーナーで先行勢を射程に入れたが、最後はマドラスチェックの勝負根性に屈した。「勝ったと思ったけど、疲れたのか直線で内にモタれた」とルメール騎手。馬場や展開を考慮すれば完璧なエスコートだったが、今回ばかりは勝ち馬にうまく運ばれてしまった。ただ、裏を返せば、それでも僅差の2着。流れ次第で今後の逆転は十分に可能だろう。
地方勢の再先着はナムラメルシーの5着で、クイーン賞JpnⅢでの6着から一歩前進。「後ろからどれくらいの脚が使えるかとレースを組み立てたが、十分な走りだった」と、御神本訓史騎手は感触を口にした。南関東B2の身だが、それでも上位を争えるということは、それだけダート牝馬路線が混迷していることの証拠。前走でダートグレード制覇を果たしたクレイジーアクセルが11着に敗れたことからも、自分のかたちに持ち込めるかどうかが、この路線で勝ち抜いていくことの重要な要素であることがよく分かる。
“牝馬特有の難しさ”。勝者を見ても、敗者を見ても、それを実感する一戦だったが、明け4歳のニューヒロインが誕生したことに変わりはない。牝馬ダートグレードは、さらなる盛り上がりを見せそうだ。
Comment
森泰斗 騎手
前走で乗った時に、かなりの能力を感じていました。最後は少し出てるかなと思いましたが、結果を見るまでは分からなかったですね。手ごたえもリズムも良かったですが、今回は外枠を引けたのが一番の勝因。まだもろさはあるけど、将来性はあるし、続けて乗せてもらえたことに感謝しています。
齋藤誠 調教師
砂をかぶって本領を発揮できないレースが続いていたから、大外枠を引けたことでチャンスがあると思っていたし、幸運だなと思いました。うまく先行してくれて、4コーナー先頭という理想の競馬をしてくれましたし、最後の直線でも根性を見せてくれましたね。さらに成長させていきたいと思います。