1. Presented by National Association of Racing
  2. 地方競馬のオンライン情報誌ウェブハロン
  3. ダートグレード競走を中心としたレースハイライトや、シリーズ競走等の特集、各種連載など盛りだくさんの情報をお届けします。

当時の写真や映像を交えて90年代の名勝負を振り返ります!

2019年9月13日(金)

第63回 『狂気の逃げ馬』
1996年 スーパーダートダービー
 サンライフテイオー

昨年から「3歳秋のチャンピオンシップ」というシリーズ競走が行われているのはご存じだろうか。8月1日の王冠賞(門別)を皮切りに、各地の3歳主要重賞競走を戦った有力馬が、10月のダービーグランプリ(盛岡)へ集結し、地方競馬3歳王者の座を争う。また、条件に応じて馬主へボーナス賞金(馬主)が贈られる、というものである。

趣旨としてはかつて地方競馬3歳のチャンピオンシップであるダービーグランプリの復興、ということで大きくは間違っていないと思うがどうだろうか。

思い出すのは「3歳ダートの三冠」である。1996年、ダート路線の整備により、秋の中山にユニコーンステークスが、大井にスーパーダートダービーがそれぞれ創設され、三冠目のダービーグランプリへと続く「三冠路線」が成立した。

ユニコーンステークスには地方から北関東ダービー馬レイカランマン(高崎)、東京ダービー馬セントリック(大井)、南部駒賞に勝ち、JRA新潟のきんもくせい特別に勝ったテツノジョージ(岩手)が出走。レイカランマンが思い切った逃げを打つも、3~4コーナーで外から断然1番人気のバトルラインがまくって抜け出し1位入線も、セントアニメの進路を妨害したことにより10位降着となり、2位入線のシンコウウインディが繰り上がりで勝利という波乱の結果となった。

二冠目は大井競馬場の第1回スーパーダートダービー。この年のトゥインクルレース最終日は、前日の雨は上がったものの重馬場のコンディションで行われた。

JRAからは皐月賞馬イシノサンデー、ユニコーンステークス馬シンコウウインディ、名古屋優駿馬チアズサイレンス、京都4歳特別に勝ったザフォリア、グランシャリオカップに勝ったヒダカリージェントという錚々たるメンバー。

他地区からはひまわり賞に勝ち、不来方賞2着のエムティエムディ(岩手)と駿蹄賞に勝ち、名古屋優駿2着のハカタダイオー。

南関東勢は東京ダービー馬セントリックを筆頭に、2着カワノスパート、3着アイアイシリウス、4着サンライフテイオー、そして王冠賞馬キクノウインとクラシック上位馬が迎え撃つ豪華メンバーで行われた。

ゲートが開いてハナを奪ったのはサンライフテイオー。王冠賞でも同様の戦法をとり、鞍上高橋三郎騎手が気性の激しい同馬をうまくなだめてマイペースに持ち込んだものの、終いまで息が持たず3着に敗れていたが、前走で1200mの東京盃を叩いた効果か、この日は行きっぷりが良かった。

それをピッタリマークするのは川崎の山崎尋美騎手が手綱を取るJRAのチアズサイレンスで、イン3番手には船橋の石崎隆之騎手が乗る1番人気のイシノサンデー。2番人気のザフォリアと3番人気のシンコウウインディは中団からやや後方9~10番手の外目。

サンライフテイオーのペースは61秒8の平均ペースで、スローに落としてゴール前急襲された王冠賞よりも少し早目の流れ。

それが功を奏したか、勝負処から最後の直線に入っても、サンライフテイオーの手応えは十分で、内をすくいに来たイシノサンデーの進路をキッチリ閉めて、逃げ切り態勢に入ったかとおもいきや、外からシンコウウインディが並びかける。

その時、外のシンコウウインディが内のサンライフテイオーに噛みつきに行こうとする、あの有名な出来事が起こった。

岡部騎手が手綱を引っ張り立て直した分差が開き、サンライフテイオーが1馬身の差を付け逃げ切った。

「長い騎手人生の中でもこれほど嬉しい勝利はそうない」と高橋三郎騎手。52歳のベテランが、デビューから13戦手綱を取り続けた馬で、第1回の栄冠に輝いた。

シンコウインディの噛みつきは今でも語り草だが、筆者にも冷や汗の止まらない思い出がある。レース前、石崎騎手に後ろから肩を揉まれ「俺はこんな服着ないぞー」と言われたのである。

当時、交流競走の紙面には騎手服を掲載していた。他場では地方の騎手がJRAの馬に騎乗する時もJRAの勝負服を着るのだが、なんと当時の大井競馬は規定で貸服着用だったのだ。新聞には馬主であるイシジマさんの勝負服が。しかも指摘してきたのがあの石崎騎手である。正直ぞっとした。

幸か不幸か放送案件にはならなかったが、噛みつき事件よりも、むしろ自身の戒めとして今でも忘れられないレースである。

三冠目のダービーグランプリはイシジマさんの勝負服をまとった石崎隆之騎手がイシノサンデーでキッチリ勝利。シンコウウインディは3着、サンライフテイオーは8着に終わり、三冠初年は1冠ずつを分け合う格好となった。

スーパーダートダービーは98年まで3回行われ、99年からは春シーズンに移り、第1回ジャパンダートダービーへと生まれ変わっている。ユニコーンステークスも同様に春に行われている。

ダービーグランプリは交流返上など紆余曲折を経て、再び地方競馬の3歳最終戦としての役割を担っている。

  • 文・日刊競馬
  • 小山内 完友
  • 写真
  • いちかんぽ

スーパーダートダービー 平成8年(1996年)11月1日

サラブレッド系4歳オープン 1着賞金6,000万円 大井 2,000m 曇・重

着順 枠番 馬番 馬名 性齢 重量 騎手 タイム・着差 人気
1 4 6 サンライフテイオー 牡4 57 高橋三郎 2.05.8 9
2 4 5 シンコウウインディ 牡4 57 岡部幸雄 1 3
3 2 2 イシノサンデー 牡4 57 石崎隆之 1/2 1
4 8 14 アイアイシリウス 牡4 57 的場文男 1 7
5 3 3 ザフォリア 牡4 57 藤田伸二 1 2
6 6 10 ハイフレンドムーン 牝4 55 桑島孝春 ハナ 13
7 1 1 カワノスパート 牡4 57 張田 京 クビ 11
8 5 7 キクノウイン 牡4 57 佐藤 隆 1/2 4
9 7 11 チアズサイレンス 牡4 57 山崎尋美 1 1/2 5
10 3 4 セントリック 牡4 57 宮浦正行 クビ 6
11 8 13 ハカタダイオー 牡4 57 安藤光彰 2 1/2 12
12 6 9 ヒダカリージェント 牡4 57 本田 優 7 8
13 5 8 ハネダリーディング 牡4 57 岩城方元 4 10
14 7 12 エムティエムディ 牝4 55 関本浩司 3 14

払戻金 単勝5,590円 複勝590円・150円130円 枠連複11,710円