INTERVIEW 生産牧場インタビュー ノーザンファーム ゼネラルマネージャー 中島文彦氏 ©️山中博喜

取材(電話)・構成:佐々木祥恵

ブリーダーズカップ・ディスタフ制覇の偉業を達成されて今のお気持ちをお聞かせください。

 アメリカのブリーダーズカップを勝つのは、ノーザンファームにとって…日本全体にとってもだと思うのですが、大きな目標の一つでもありました。それをラヴズオンリーユーと一緒に達成できたということはとても嬉しいです。

レースをどのようにご覧になっていましたか?

 このレースは初めからペースが速くなると、矢作先生はお読みになっていました。ただ当日、ディスタフまでの他のレースは前半の時計が比較的ゆっくりで、本当にペースが速くなるかなと思っていたのですが、いざレースが始まったら速いペースだったので位置取りもよくて、いい走りをしているなと感じました。

途中、まくり気味に上がっていきましたね。

 はい。手応えが良かったので「これはあるぞ」と思いながら見ていまいた。

ノーザンファームにとって、アメリカのG1を勝利することの意義は何でしょうか?

 ブリーダーズカップは、ヨーロッパと並んで競馬大国であるアメリカの1番大きなレースですし、先ほども話したように牧場の大きな目標の一つでした。それに挑戦して勝てたのは本当に嬉しかったですね。

マルシュロレーヌの牧場時代はどのような馬でしたか?

 当歳の時の厩舎長からは、すごく骨格がしっかりした馬で、人に対してはとても従順ないい仔だったと聞いています。イヤリング(1歳)の厩舎長は、かなりのんびりしていて、手がかからなかったと言っていました。実は離乳してから、ラヴズオンリーユーと同じ放牧地で過ごしていたんです。

マルシュロレーヌとラヴズオンリーユーが育ったノーザンファームYearling(イヤリング)。

マルシュロレーヌとラヴズオンリーユーが育ったノーザンファームYearling(イヤリング)。

そうなんですか。幼馴染みなんですね。

 ですからアメリカ遠征は、ラヴズオンリーユーと一緒に行けて本当に良かったなと思っていまして。(一世代の生産馬が)約600頭ほどいる中で、一緒の放牧地にいた2頭ですからね。

600頭も生まれれば、いくつかの放牧地に分けると思うのですが、一つの放牧地にだいたい何頭ずついるのですか?

 10頭から15頭くらいです。

放牧地ではこの2頭はどんなふうに過ごしていたのですか?

 2頭とも他の馬に対して悪いことをするような馬ではなかったですし、仲良く過ごしていました。

育成・調教の段階ではどうでしたか? 何か苦労された点などありましたでしょうか?

 少しチャカチャカするところが出てきて、そのあたりを調整しながらでしたね。骨格はしっかりしていましたが、成長は遅めだったので、ゆっくり時間をかけて進めていきました。

成長に合わせてゆっくり時間をかけて育成を進めていく。

成長に合わせてゆっくり時間をかけて育成を進めていく。

牧場時代のこの馬の評価は?

 先ほどもお話しましたように、幼い頃から骨格がしっかりした馬で期待はしていたのですが、(牧場関係者の)誰に聞いてもこれほどの馬になるとは思っていなくて、ましてやブリーダーズカップを勝つとは考えられませんでした。

母ヴィートマルシェに似ているところはありますか?

 肉付きや骨格の太さなど、馬格ですね。あとはかなり一生懸命に走って、止まらないんですよね。調教でも非常に苦労しているのですが、お母さんもそういう面がありました。

それだけにスピードはある?

 そうですね、スピードがあるというところは母に似ているのではないかと思います。

祖母で桜花賞馬のキョウエイマーチに似ている点は?

 やはりスピードと骨格ですね。これはキョウエイマーチからも受け継いでいると思います。

父オルフェーヴルと似ているところはありますか?

 オルフェーヴルも骨のしっかりした馬です。あと、(父は)凱旋門賞にも挑戦して結果を残しているように、海外遠征するにはこのくらい強い気持ちを持った馬の方がいいのではないでしょうか。

マルシュロレーヌの母系を辿るとオグリキャップも出していますし、日本に古くからある血統でもありますね。

 父オルフェーヴルの母系も比較的古くからある血統ですし、それを考えると多くの馬に可能性が秘められているのではないかと感じます。

中島氏は「多くの馬に今後もさまざまな偉業を達成する可能性が秘められているのでは」と語る。

中島氏は「多くの馬に今後もさまざまな偉業を達成する可能性が秘められているのでは」と語る。

マルシュロレーヌの引退レースはサウジカップと言われていますが、将来繁殖としての期待も当然大きくなりますね。

 アメリカで勝った馬ですから、またアメリカや海外に挑戦できるような馬を送り出してもらいたいですし、産駒はダート、芝問わずに活躍してほしいですね。

(文中敬称略)

2022年2月10日掲載