~新競走体系が与える効果を様々な角度から紐解く~
文:古谷剛彦
ナチュラルライズ(羽田盃)
京浜盃JpnIIで6馬身差の圧勝を演じたナチュラルライズが、一冠目の羽田盃JpnIを優勝。右にササる癖があり、今回は右のみチークピースを着用するなど陣営も修正に努力を重ねているが、今回も直線で抜け出した後は内にササり通しで、横山武史騎手も苦労しながらゴールまで駆け抜けた。インタビューで「嬉しいですけど、疲れました」と話していたが、馬力を考えると、長い直線で真っ直ぐ走らせようと努力する騎手の苦労を端的に伝えていたと思う。「粗削りな子ですが、確実に一歩一歩成長しています。このまま、より良い方向に成長してくれれば、鞍上としても嬉しいですし、皆さんに応援して頂けたらと思います」と最後にコメントしていたが、東京ダービーJpnIに向けて、中間の様子も気になるところ。
対して、地元期待のナイトオブファイアは、スターバーストカップから京浜盃JpnIIが中1週、そして1カ月後に羽田盃JpnIへ出走と強行軍の中で、1着→3着→2着と地方代表としての意地を見せた。ハードなローテーションながらも状態を上げていったのは、精神的な強さを持ち合わせてこそ。
果敢に逃げて4着だったスマイルマンボは雲取賞JpnIIIで3着だったが、強豪相手に揉まれる経験を積み重ねることでさらなる高みへ向かうことができる。昨年の東京ダービーJpnIとジャパンダートクラシックJpnIで地方最先着を果たしたシンメデージーが、未だに地方所属馬には先着を許さず、ダートグレードで勝利が近づく走りを見せていることが、まさにそれを物語っている。
羽田盃JpnIに出走した中で、クラウンカップを差し切っていたミーヴァトンにも、今後の活躍が期待される。佐藤博紀調教師は「間隔はないものの、状態が凄く良いので、一発を狙っています」と戦前は期待を寄せていた。結果は6着だったとはいえ、東京ダービーJpnIに向かう過程で、現状の実力差を踏まえた上での調教の負荷などを考える際に良い経験だったと言える。距離延長はプラスの馬なので、東京ダービーJpnIでの走りを改めて注視したい。
別路線組となるユニコーンステークスGIIIは、カナルビーグルが優勝し、東京ダービーJpnIに向けて大きな勲章を手にした。1番人気のクレーキングが、勝負所で外から上がっていき、直線の攻防でカナルビーグルに進路を譲らずに抜け出そうとしたが、吉村誠之助騎手がすぐさま内に進路を切り替えて突き抜けた。その瞬時の判断はもちろん、吉村騎手は馬群で辛抱させる度胸など素晴らしい騎乗で、カナルビーグルを勝利へ導いた。昨年のユニコーンステークスGIIIを制したラムジェットと2着サトノエピックが、東京ダービーJpnIでもワンツーを決めた。羽田盃JpnI組に対し、カナルビーグルが今後のダート界を占う意味でも注目の存在だ。
東京ダービー指定競走では、盛岡競馬場で行われたダイヤモンドカップを制したシーソーゲームが、東京ダービーJpnIへの出走意思を見せている。JRA福島ダート1700mで新馬勝ちを収めたが、1勝クラスでの結果が奮わず、大井・藤田輝信厩舎へ移籍した。転入初戦を快勝したが、続くクラシックチャレンジで2着に敗れ、羽田盃JpnIの出走が叶わなかった。すると、東京ダービー指定競走のダイヤモンドカップに矛先を向け、何としても東京ダービーJpnIへ……という強い思いの中で、強力な北海道勢などを相手に競り負かして勝利をつかんだ。JRAデビュー馬が地方競馬へ移籍し、昨春の3歳ダートグレードに挑んだケースは、京浜盃JpnIIと羽田盃JpnIに出走したマッシャーブルム(いずれも6着)がいる。JRA京都で新馬勝ちを収めると、大井・坂井英光厩舎へ移籍。スターバーストカップで勝利し、賞金加算をしてダートグレードに進んだ。羽田盃JpnIで敗れた後は短距離路線に進んだので、JRAから移籍してきた馬での東京ダービーJpnI出走は、新ダート体系後ではシーソーゲームが初めてのケースとなる。東京ダービーJpnIで好結果を出せば、今年デビューする世代の動きも活発になるかもしれない。
また、ホッカイドウ競馬所属で、ブルーバードカップJpnIII・3着など積極的にダートグレードに遠征しているウィルオレオールが、地元三冠の初戦である北斗盃でソルジャーフィルドの2着に敗れた後、東京ダービーJpnI参戦に意欲を示している。昨年のシンメデージーは、同厩舎のプリフロオールインが地元三冠路線を進む中で別路線への挑戦を選択。その結果、プリフロオールインは高知三冠馬となり、シンメデージーは先述の活躍を見せた。北海道には、ソルジャーフィルドという絶対王者がいて、中距離になれば逆転は難しいと判断。その上で、平和賞Vなど南関東での戦績が優れているウィルオレオールは、敢えて東京ダービーJpnIに挑戦する考えが生まれた。この経験が、ソルジャーフィルドと再戦した際に雪辱を期す上での起爆剤となる可能性も、陣営は考えているのかもしれない。
ダート三冠はまだ2年目。初年度以上に各陣営が様々な考えを持つ中で、東京ダービーJpnIを迎える。
写真:いちかんぽ
PROFILE
古谷剛彦
(ふるや たけひこ)
1975年東京都出身。2001年からホッカイドウ競馬パドック解説者となり、北海道を中心に活動している。グリーンチャンネル『地方競馬中継』『アタック!地方競馬』『KEIBAコンシェルジュ』『馬産地通信』にレギュラー出演。ホッカイドウ競馬LIVE『なまちゃき』解説者。フリーペーパー『うまレター』南関東競馬NEWS担当。監修・著書に『地方競馬完全攻略ガイド』。共著に『交流重賞徹底攻略!地方競馬パーフェクトブック』。