SPECIAL COLUMNSダートの高みを目指して

~注目レースを関係者の声から振り返り、新しい「道」へ~

文:赤見千尋

VOL.17

ミックファイアを超える期待
JpnI目指すナイトオブファイア

ナイトオブファイア(羽田盃)

ナイトオブファイア(羽田盃)

 ナイトオブファイアと渡邉和雄調教師の出会いは、2023年8月の北海道サマーセール。ミックファイアが南関東三冠制覇を果たした直後のことです。この年の前半は、ミックファイアと同じ星加浩一オーナーの所有馬セイカメテオポリスも絶好調で、オグリキャップ記念と大井記念を連勝。星加オーナーからは例年以上の予算を提示されていたそうです。
 渡邉調教師は、「1歳のナイトオブファイアを初めて見た時からすごくいい馬だと感じました。特に腰からお尻の形が良くて、今の時点でこれだけならば将来はすごい馬になるのではないかと。競り合いになって、これまでならば下りる額まで行きましたが、オーナーがOKを出してくれたおかげで競り落とすことができました。ナイトオブファイアを管理することができたのは、ミックファイアやセイカメテオポリスが活躍してくれたおかげです」と振り返ります。

-手応えを感じた羽田盃

 オーナーも同じ、厩舎も同じということで、何かとミックファイアと比較されることが多いナイトオブファイア。入厩当初から、期待は相当大きかったと言います。
 「新馬戦を使ったら思っていた以上の走りを見せてくれました。その頃から、もしかしたらミックファイアを超える馬になるかもしれないという期待はありましたね。何より怪我やアクシデントがなく順調に乗り込めたことが大きかったです」。
 2戦目に1800mの特別戦を圧勝し、クラシックを意識する存在になりました。2連勝して詰めて使う必要のない成績だったわけですが、あまりにも元気がいいということで、年末には準重賞に出走してここも楽勝。3戦3勝でいったん休養し、約2カ月半の休み明けとなったスターバーストカップは、馬体重マイナス7キロでの出走となりました。
 「無駄な肉が取れて体重が減り、動きがかなりシャープになりました。追い切りの時計もすごく出るようになって、休み明けでも強いレースでしたね。レース後はいつも通りケロッとしていたので、当初の予定通り中1週で京浜盃に出走しました」
 2戦目から1800~2000mというレースが続いていたナイトオブファイアに、三冠本番の前に厳しい流れになるであろう1700mの京浜盃JpnIIを経験させたかったということです。レースではナチュラルライズを見る形で中団を進み、勝負所では内から押し上げて直線もじわじわと伸びてきました。初のダートグレード挑戦で3着。勝ったナチュラルライズとは約10馬身の差がありました。
 レース後に矢野貴之騎手は、「いつもと違う雰囲気を感じ取って、いつもより落ち着きがない様子でした。これまでとは違うペースで戸惑いもある中で、それでも対応して最後はいい脚を使ってくれました」とコメント。初のJRA勢との戦いに戸惑いを見せたナイトオブファイアでしたが、このコメントを聞いて渡邉調教師は対策が見つかったと言います。
 「強い馬というのは雰囲気がありますから。もっと経験があってもっと雰囲気を持っている古馬たちと併せ馬をしようと考えました。羽田盃の1週前追い切りではセイカメテオポリスと、本追い切りではミックファイアと併せ、怯むことなく堂々と走っていました。こういうパートナーと調教ができるのは、今のうちの強みだと思っています」
 厩舎の大先輩と併せて追い切りを経験したナイトオブファイアは、羽田盃JpnI当日、京浜盃JpnIIの時とは違い落ち着いていたそうです。「物覚えが良い馬で、しっかり本番に活かしてくれました」と渡邉調教師。レースは5番手内を追走、4コーナーでは抜群の手応えで外に出し先行勢に並びかけると、直線もよく伸びました。しかしまたしても前にはナチュラルライズがいて、今度は5馬身差で2着でした。
 レースを見ていた渡邉調教師は、「4コーナー手前、あの手応えを見た時には正直勝ったと思って立ち上がってしまったんですけど、でも直線であっという間に離されてしまいました。3着以下は離しているわけでナイトオブファイアも強いですが、ナチュラルライズは相当強い。悔しいけれど感心します」と話しました。

-3度目の挑戦で頂点へ

 京浜盃JpnIIの差が約10馬身、羽田盃JpnIは5馬身。悔しさもありつつ、それでも差を詰めていることは確かな自信になったと言います。
 「羽田盃の後はさすがに疲れを見せましたが、短期放牧でリフレッシュしました。牧場でもしっかりと乗り込んでいますし、今後はレースの2週前くらいに戻して追い切りを2本、羽田盃の時のように調整する予定です。折り合いが自在な馬で、距離は長くなっても大丈夫。まだまだ成長力もありますし、2000mに距離が伸びることでどこまで差を詰められるかですね」
 一昨年、ミックファイアと挑んだ三冠戦線とはレース体系が変化した現在のダート三冠。渡邉調教師の想いは、「ミックファイアの時は羽田盃と東京ダービーが地方勢同士で、ジャパンダートダービー(以下JDD)のみがJRA交流戦でした。JDDを勝って三冠を達成した時は、レースで勝って初めて泣いたんです。そのくらい感動しました。新ダート体系が発表された時には戸惑いもありましたが、今はあの時のJDDに3回も挑戦できるんだという前向きな気持ちです。JRA勢を相手にJpnIを勝てるチャンスが3回もあるので、三冠はすべてチャレンジしたいです」
 ナイトオブファイアの主戦である矢野貴之騎手は、2004年に廃止になった高崎競馬出身。渡邉和雄調教師も群馬県出身で、お父様は高崎競馬で調教師だった渡邉和泰さんです。
 「矢野騎手は大井のトップジョッキーですし、群馬県出身という縁もあります。うちの父がいつもレースを見て応援してくれるのですが、実は矢野くんとはセイカメテオポリスの戸塚記念(2021年)以来重賞は勝っていないんですよ。どのジョッキーで勝っても嬉しいですが、久しぶりに矢野くんと勝って父を喜ばせたいですし、一緒に交流JpnIを勝てたら最高ですね。いつも勝ってもクールな矢野くんをうれし泣きさせたいです」
 東京ダービーJpnIは6月11日、大井競馬場で行われます。ここまで3着、2着と歩んできたナイトオブファイア。3度目のダートグレード挑戦で、頂点を目指します。

写真:いちかんぽ

PROFILE

赤見千尋(あかみ ちひろ)

赤見千尋
(あかみ ちひろ)

群馬県出身。1998年高崎競馬場で騎手デビュー。地方競馬通算2033戦91勝。2005年に北関東の競馬場がすべて廃止となり、騎手を引退。現在は競馬レポーターとして、グリーンチャンネル『アタック!地方競馬』『地方競馬中継』などに出演中。

TOPに戻る