~注目レースを関係者の声から振り返り、新しい「道」へ~
文:中川明美
ティントレット(優駿スプリント)
6月25日、第29回さきたま杯JpnIが浦和競馬場1400mを舞台に実施される。
その前哨戦として、昨年から時期が早められ1着馬にはさきたま杯JpnIとスパーキングサマーカップへの優先出走権が与えられるのがプラチナカップ。今年から“さきたま杯トライアル”と副称が付けられるようになっていた。
そのプラチナカップでは、1頭がゲート入りで突進するアクシデントがあった。それほど時間を置かず発走に至ったが、突進した馬の動向を見つめ集中したところで絶好のスタートを切ったのが優勝馬ティントレット。初めて経験する浦和の小回りコース。左回りも初めてだった。
ティントレットは好スタートを決めると積極的に逃げ馬の後ろにピタリとつけ、4コーナーを回るあたりで先頭に立った。直線に入ると矢野貴之騎手のステッキに応えるように脚を伸ばすと、猛追してくる後続馬たちを振り切り、2着ギャルダルに1馬身半差をつけてのゴールとなった。
「ゲートで突進した馬がいたことで、そちらをずっと見て集中。ゲート内できちんと駐立してスタートを切ることができた。思ったよりハミをかんだけど気分をのせながらレースを進めると、早め先頭の競馬でも押し切ってくれた。気難しさはあるが、まともならこれだけ走ってくれる力がある。もっと大きな舞台も目指せると思っている」とレースを終えた矢野騎手は話した。
勝ちタイムの1分25秒1(良)は、プラチナカップのレースレコードだった。
短距離への路線変更で素質開花
“見極め”の大事さ。
ティントレットの歩んできた道を振り返るとあらためてそれを感じさせる。
2歳暮れにホッカイドウ競馬から移籍したティントレットは新体系となったダート三冠の羽田盃JpnI、東京ダービーJpnIに臨んだが、強力なJRA勢相手にいずれも直線で失速。しかし、その道中は1200m戦のようなラップを刻んだ結果だった。
「東京ダービーで初めて乗せてもらったんですけど、ものすごく背中が良い馬だというのが第一印象。前半からペースが流れた東京ダービーでは集中力が2000mまで保たなかった。スタートダッシュの速さや前半の運びから、もしかしたら1200mでもやれるんじゃないかと感じた。それを荒山調教師に話したら意見が一致していました」と矢野騎手。
荒山勝徳調教師も、「もともと追い切りでめちゃくちゃ動く馬で、クラシックの頃は抑えても35秒台で動いていた。追い切り通りなら短い距離がいいだろうと、優駿スプリントに行ったらいきなり結果を出してくれた」と、オーナーサイド、矢野騎手と意見が一致したあのターニングポイントを振り返った。
小回りコースも克服しJpnIを狙う
優駿スプリントを制して以降はスプリント戦線を使われ、北海道スプリントカップJpnIIIでは追い込んで3着と、集中して走れればどんなかたちのレースにも対応した。しかし古馬との戦いになって歯がゆいレースも続いていた。
集中力という気性面の課題をカバーするために、メンコやシャドーロールなどの矯正具を試してきた。休養から復帰した今春からはブリンカーを着用し、ハミが動かないようにハミ吊りを着用するようにもなった。
「クラシックの頃を考えても馬体がシャープになり、中身が入ってきた。パワーがついた分がレースでは精神的に良くない方向へと向いてしまっていたが、プラチナカップではポテンシャルの高さがよくわかった。初の小回りで半信半疑だったし、まだ荒削りな走りを見るともっと強くなるはず。今後は大きなレースも視野に入れていきたい」と荒山調教師。
そしてさきたま杯JpnIへの出走を決めた。
「馬自体は3歳の頃と比べても良くなっているし、体つきも走りっぷりも全体的に馬が逞しくなりましたね。そのぶん難しさが出てきたんでしょう。前回(プラチナカップ)は初馬場で馬の気持ちがフレッシュな感覚だったことや、他馬の突進でさえプラスに働いた。同条件2度目になるさきたま杯はダートグレード競走ですし、ひと筋縄ではいかないと思いますが、北海道スプリントカップを使った時の道中を考えても馬の気持ち次第。集中力さえ保てば距離も幅広くこなせる馬だと感じています」と矢野騎手は話す。
距離を縮めただけでなく、状態に合わせて着地点を探ってきた。陣営は、意見交換しながらティントレットのさらなる可能性を高める挑戦をいとわない。
写真:NAR
PROFILE
中川明美
(なかがわ あけみ)
競馬ブック南関東担当記者。新聞紙面にてコラム『南関こんしぇるじゅ』、週刊競馬ブックで『NANKAN通信』、競馬ブックWEBにて『南関あらうんど』等を執筆。週刊競馬ブック南関東S重賞本誌担当。グリーンチャンネルにて『アタック!地方競馬』『ダート競馬JAPAN』に出演中。