~注目レースを関係者の声から振り返り、新しい「道」へ~
文:赤見千尋
ミラクルヴォイス(ネクストスター門別)
7月10日に門別競馬場で行われた第22回星雲賞は、1番人気に支持されたミラクルヴォイスが勝利。2番手から直線抜け出す圧勝劇で、これまで以上に強さが際立つレースでした。
デビューからすべてのレースで手綱を取っている松井伸也騎手は、「レースを使うごとにどんどん強くなっていますね。特にここ2戦(6月5日ゲラニウム特別と星雲賞)の内容は相当強くて、僕自身驚くほどです。ひと冬越えて体がしっかりして、バランスが良くなりましたし、全体的にパワーアップしたことで走りもガラッと変わりました」とのこと。
ミラクルヴォイスの母ミラクルフラワーにも騎乗した経験がある松井騎手。「お母さんにも乗せていただき、プリンセスカップ(2014年12月1日・水沢)を勝たせていただきました。そこからのご縁でミラクルヴォイスにも乗せていただいているので、簗詰幸子オーナーには感謝の気持ちでいっぱいです」
輸送の課題を訓練で乗り越える
ミラクルヴォイスは2024年6月26日の新馬戦(JRA認定フレッシュチャレンジ)を勝ち、3戦目のサッポロクラシックカップで3着とデビューから早々に結果を残しました。
しかし当初は体質が弱く、なかなか調教が進められなかったと言います。「2歳の2月くらいに跨った時には、まだかなり緩くて時間が必要だなと感じ、じっくりと成長を見ながら調整して、5月頃に1回目のゲート練習をした時に能力の高さを感じました」と松井騎手。
2戦目のオープン特別ではスタートで出遅れて5着という結果でしたが、出遅れたことで腹をくくり、後方から砂を被せる競馬ができたことは収穫だったそう。松井騎手は、「結果としては負けてしまいましたが、砂を被っても全然嫌がらず、最後は脚を使ってくれました。この経験が活きて、3戦目のサッポロクラシックカップで3着に追い込むことができたと思います」と振り返ります。
ゲートの課題を抱えながらも、オープン特別、ネクストスター門別と連勝して、頭角を現します。初の遠征となった水沢の南部駒賞でも期待されましたが、馬運車の中で暴れて外傷を負い、出走取消となってしまいました。
このままでは遠征が難しくなってしまうため、関係者が一丸となって馬運車の練習をしたそうです。佐久間雅貴調教師のお話では、「牧場の方にも協力していただいて馬運車を持ってきてもらい、ミラクルヴォイスを積んでその辺をぐるっと1、2時間ドライブする、という練習を毎週繰り返しました。なかなかそんな練習をすることはないですが、みなさんが丁寧に手をかけてくれたおかげで克服することができたんです。本当にありがたいですし、調教師として幸せに思います」と語ってくれました。
佐久間厩舎流の調整で成長
こうして輸送を克服したミラクルヴォイスは、3歳初戦として水沢競馬場で行われたネクストスター北日本(2025年4月6日)に無事出走。しかし今度は序盤に掛かって、1~2コーナーでは外に膨れてしまいます。「ちょっと仕掛けたらカーッとなってしまい、スピードが乗り過ぎてしまって……。最後はハナ差の2着だったので、悔しいレースになってしまいました」と松井騎手。
気持ちが一気に高ぶってしまう性格のため、ゲートや馬運車、序盤のポジション取りなど難しい部分があったミラクルヴォイスですが、一つ一つ克服して、レースを重ねるごとに強くなっていったと言います。
松井騎手は、「1頭1頭時間をかけてじっくりやる、という佐久間厩舎のやり方がミラクルヴォイスに合っているんだと思います。馬運車の練習一つとっても、なかなか1頭の馬にそこまでできないですから」と話していました。
佐久間厩舎のチームワークの良さを感じるエピソードが、柔軟に乗り手を変える調教スタイル。ミラクルヴォイスは松井騎手がつきっきりで調教を担当しているそうですが、たまに厩務員さんに乗ってもらうことがいい調整になるのだそう。「ずっと僕が乗っていたら僕の型にハマってしまうというか、僕が刺激を与えて、土井(仁考厩務員)さんがリラックスさせてくれるイメージです。特に星雲賞の前にちょっと体の使い方が変わったと感じて、土井さんに3、4日乗ってもらったらすごく馬が良くなりました。星雲賞を勝てたのは土井さんのおかげです。これは絶対に書いてくださいね」と松井騎手。スタッフの方との強い信頼関係が、ミラクルヴォイスにもいい影響を与えているようです。
佐久間調教師のお話では、「ここにきて体の成長と、精神面の成長が大きいです。もともと繊細なところのある馬で、特に狭いところが苦手でしたが、そのあたりが落ち着いてきたことが今の走りに繋がっていると思います」ということです。
この後は、8月14日に門別競馬場で行われる北海道スプリントカップJpnIIIへ出走予定。「(星雲賞の)レース直後はさすがに疲れて寝ていましたが、すぐに回復して順調に調整しています。今度は中央馬が相手になりますが、どこからでも競馬ができる馬なので、自信を持って乗りたいです」と松井騎手。一戦ごとに成長しているミラクルヴォイスが、次はどんな走りを見せてくれるか期待が高まります。
写真:いちかんぽ
PROFILE
赤見千尋
(あかみ ちひろ)
群馬県出身。1998年高崎競馬場で騎手デビュー。地方競馬通算2033戦91勝。2005年に北関東の競馬場がすべて廃止となり、騎手を引退。現在は競馬レポーターとして、グリーンチャンネル『アタック!地方競馬』『地方競馬中継』などに出演中。