

~注目レースを関係者の声から振り返り、新しい「道」へ~
文:赤見千尋

ベストグリーン(鎌倉記念)
4戦無敗で鎌倉記念を圧勝したベストグリーン。次走は2歳シーズンの最大目標に掲げている全日本2歳優駿JpnI(12月17日・川崎)に出走予定です。
管理する田中淳司調教師は、「(2013年に全日本2歳優駿JpnIを制した)ハッピースプリントを意識する馬です」と高く評価していますが、実は入厩時、そこまで目立つ存在ではなかったそう。「馬格があっていい身体でしたがまだ緩さがありましたし、何よりとても大人しいという印象でした」。スタッフの中でも新人が騎乗できるくらい大人しく扱いやすい性格で、小野楓馬騎手とのコンビとなったのも、その辺りの事情が大きかったと言います。「うちは4名の所属騎手がいますが、2歳の頭数が多いですから、何頭かは他所の騎手に乗ってもらうことになります。ベストグリーンは癖もなく誰が乗っても大丈夫な馬で、(小野)楓馬に頼んだ2~3頭のうちの1頭でした。いい馬ではありましたが、ここまで強くなるとは……。嬉しい驚きです」と振り返ります。
規格外の走りで目標はJpnIに
ホッカイドウ競馬では2度ゲート試験を受けてから能力検査を受けるという行程があり、ベストグリーンがその能力の片りんを初めて見せたのが、2度目のゲート試験。この時の動きが抜群に良く、「これは走るな」と感じたそう。そして3月13日に行われた能力検査で48秒6(800m)のタイムをマーク。これは、同日に178頭が合格した2歳馬で1番時計。ホッカイドウ競馬のシーズン初回の能力検査で1番時計を出した馬は活躍する、というジンクスがあり、ここから一気に注目が集まりました。
4月17日門別第5レースのJRA認定フレッシュチャレンジに出走したベストグリーンは、序盤軽く促す程度で楽に2番手につけると、4コーナー馬なりで先頭へ。直線に入って小野騎手がGOサインを出すと、グングンと加速して大差圧勝となりました。驚いたのはその勝ち時計で、1100m=1分05秒6という驚異的なタイムをマーク。デビュー戦でいきなりレコードを更新して見せました。
田中調教師が「ハッピースプリントを意識する馬」と話すのは、見た目以上にタイムが出る走りにあると言います。「とにかく規格外なんですよね。追い切りでも能力検査でも、思っている以上に時計が出てしまう。乗っている方も普段の感覚と違っていて、フットワークの感覚以上にスピードが出過ぎてしまうんです。こういう部分がハッピースプリントと重なりますね。普通の感覚で追ったらオーバーワークになってしまいますから、その辺りの調整が重要だと考えています」
2戦目の栄冠賞、3戦目のブリーダーズゴールドジュニアカップと順調に勝ち上がり、当初はJBC2歳優駿JpnIIIを視野にという話でしたが、鎌倉記念から全日本2歳優駿JpnIを目指すプランに変更となりました。「JBC2歳優駿も勝ちたいレースですが、2歳時の最大目標は全日本2歳優駿と考えた時、JBCを使った後に1度左回りを使ってから全日本2歳優駿となると、だいぶ日程が詰まってしまいます。オーナーと相談して、全日本2歳優駿に照準を合わせたローテーションにしました」
ハッピースプリント以来の全日本制覇へ
初の長距離輸送となった鎌倉記念では、1頭積みの馬運車の中で当初かなり淋しがったそう。「ちょっと馬を恋しくなるようなところがある馬で、函館までの約3時間くらい落ち着きがなかったんですが、スタッフが馬の前に付きっ切りで様子を見ていて、だんだんと落ち着いてきました。そこからは順調で、帰りの便も落ち着いていました。全日本2歳優駿の時には帯同馬もいるので、輸送については心配していません」
初めての長距離輸送をクリアし、鎌倉記念出走時の馬体重は前走から1kg増の513kg。パドックでもいつも通り落ち着いており、レースは先行勢を見る形で進み、途中で動いてきた馬もいましたが動じず、3コーナー外から加速して圧勝。初めての左回りも難なくクリアしました。
田中調教師は、「栄冠賞とブリーダーズゴールドジュニアカップは、ちょっと楓馬が勝ち急いでいるようなところがあるなと感じていたんです。門別の競馬は基本的に4コーナーまで手応えがある馬は抑えて、そこから直線ヨーイドンみたいな競馬が多いですから、3コーナー過ぎでハナに立つような競馬を見て『ちょっと慌てているな』と。でも鎌倉記念で勝負所の3コーナーで上がって行く脚を見たら、早仕掛けかなと思っていた経験が功を奏したのかもしれません。強い馬と競馬をする時は、勝負所で自分から動いて行けるような馬じゃないと勝負にならないですから」と振り返ります。
初ものづくしの鎌倉記念で4馬身差の圧勝を演じたベストグリーンですが、続く全日本2歳優駿JpnIを見据えた仕上げで七・八分くらいのイメージだったそう。「レース後のダメージもなく元気いっぱいで、飼い葉もしっかり食べています。次は中央馬相手ですから一筋縄ではいかないでしょうが、いい勝負ができると思っています」。田中調教師にとって、ハッピースプリント以来の勝利となるか。4戦無敗のベストグリーンが、いよいよダートグレード制覇に挑みます。
写真:いちかんぽ
PROFILE

赤見千尋
(あかみ ちひろ)
群馬県出身。1998年高崎競馬場で騎手デビュー。地方競馬通算2033戦91勝。2005年に北関東の競馬場がすべて廃止となり、騎手を引退。現在は競馬レポーターとして、グリーンチャンネル『アタック!地方競馬』『地方競馬中継』などに出演中。