SPECIAL COLUMNSダートの高みを目指して

~注目レースを関係者の声から振り返り、新しい「道」へ~

文:大恵陽子

VOL.24

無敗で兵庫三冠を達成したオケマル
名古屋大賞典でダートグレード初挑戦

オケマル(兵庫優駿)

オケマル(兵庫優駿)

 「待機馬房を出る10分前までオケマルは寝てました」
 初の古馬対戦となる園田金盃の装鞍所にやってくるなり、盛本信春調教師は普段と変わらぬ管理馬の様子を微笑みながら話した。同レースでは史上初の無敗で兵庫三冠馬に輝いたオケマルが兵庫最強メンバーとも言える古馬たちと対戦するとあって、同日にJRA馬を迎えて行われた兵庫ジュニアグランプリJpnII以上と感じるほど注目を集めていた。
 兵庫ジュニアグランプリJpnIIがゴールすると、多くのファンは最終レースに組まれた園田金盃のパドックへと急ぎ足で向かったことからもそれは伝わってくる。
 だが、当のオケマルは直前までリラックスムード。このオンオフの切り替えの早さが良さの一つでもある。毎朝の調教前は何度もあくびをし、レース当日も装鞍所では「これがあの強いオケマル?」と目を疑うほどのんびりと歩く。しかし、パドックで下原理騎手が跨ると闘志が宿り、グッと気合が入るのだ。

いずれも圧勝で三冠制覇

 元より、デビュー前から期待を寄せられていた馬だ。デビュー前の能力検査の走りを見て盛本調教師は「動きが違いすぎる」と期待を膨らませた。とはいえこの時点では兵庫三冠までは想像しておらず、下原騎手も「やれそうな馬とは思いましたが、抜けた感じはありませんでした」と振り返る。
 そのボルテージが一気に上がったのは2歳大晦日だった。新馬戦、JRA認定アッパートライ、ネクストスター園田といずれも1400mで3連勝したオケマルは、大晦日の重賞・園田ジュニアカップで初の1700mに臨むと、2着に7馬身差をつけて楽勝した。「距離が延びて良さが出ました」と盛本調教師も下原騎手も口を揃えた。そして、ここからオケマル圧勝劇が続いていく。
 年が明けて3歳になると、姫路の兵庫若駒賞を快勝。「騎手人生最後の宝物」と下原騎手の名言が出たのはこの時だった。
 翌4月からは菊水賞を皮切りに、6月兵庫優駿、10月園田オータムトロフィーと兵庫三冠戦線が始まり、陣営はそれを無敗で獲ることに重点を置いた。
 一冠目・菊水賞は内枠が不安視されたが好スタートを決めて勝ち、二冠目・兵庫優駿も暑さに耐えて圧勝。そして三冠最終戦の園田オータムトロフィーはオケマルの強さを前に敬遠する陣営も現れ、フルゲート割れの8頭立ての中、2着に1秒7の大差をつけて史上初となる無敗での兵庫三冠馬に輝いた。
 下原騎手は偉業を成し遂げ、相棒の良さを「道中は折り合えて、少し気合をつけるとグッとギアが上がるのがいいところ」と称した。そして初の古馬対戦となる園田金盃を前に状態は「今までで一番いい」と下原騎手が目を輝かせるほどにまで高まった。
 ところが、そこで2着と初の敗戦を喫する。オケマルとともに三強を形成した前年覇者のマルカイグアスと、サマーチャンピオンJpnIIIを勝ち、JBCクラシックJpnI・6着のアラジンバローズに道中でマークされる展開の中、馬群で虎視眈々と息を潜めていたオディロンがオケマルに狙いを定め、直線で外から抜き去っていったのだった。スタンドからは「オケマルが負けた……」と、悲鳴にも似た声が聞こえてきた。

強くなるためのグレード挑戦

 しかし幸か不幸か、この敗戦が名古屋大賞典JpnIII出走を決定づけた。レース前は園田金盃後は年内休養プランが有力で、名古屋大賞典JpnIIIへの転戦は中3週で間隔が詰まるため消極的だった。一転した理由を盛本調教師はこう説明する。
 「これからは相手が強くなるので、これまでのようにレース間隔を数カ月空けては通用しないと思いました。園田金盃後は状態も良く、叩いた上積みがありそうなので名古屋大賞典に出走することを決めました。無敗記録が止まり、挑戦しやすくなったことも事実です」
 振り返ると、これまでにも陣営の頭にダートグレード挑戦がかすめたことはあった。たとえば菊水賞を勝った後、盛本調教師はジャパンダートクラシックJpnIなどダート三冠に挑戦してみたいという思いを少なからず抱いていた。8月には大井で黒潮盃もあるし、9月の盛岡・不来方賞JpnII出走へのラブコールも水面下で受けていた。しかし、近年の酷暑下での長距離輸送は3歳馬にどれほどのダメージが残るかは未知。三冠への調整に狂いが出ては元も子もない。
 「他地区への挑戦は来年に取っておこう」
 自身に言い聞かせて、はやる気持ちをグッと抑えていた。しかし、無敗の呪縛が解けたいまなら、気負わず挑戦者になれる。
 他地区の馬やJRA馬との対戦は今回が初めてのため、力比較は難しい。兵庫三冠すべてを8馬身以上の差をつけて圧勝したことで注目を集めたが、2着馬との着差だけでは実力を測れない。相手のレベル、レース展開、勝ちタイム、様々な要素から総合的に判断する必要がある。前走・園田金盃に関しては、三冠最終戦でマークした1分51秒6(園田1700m・良)は馬場状態の違いがあったにせよ、1週前に行われた古馬重賞・姫山菊花賞(稍重)を勝ったマルカイグアスより0秒8速かった点が、兵庫最強メンバーが集まったとも言われる一戦で2着に入れた一因だろう。
 では名古屋大賞典JpnIIIではどうか。ハンデ戦という点に着目すると、昨年3歳で小差3着に入ったシンメデージー(高知)より1kg軽い53kgでの出走となる点は嬉しい材料だろう。
 あとはJRA馬や全国各地の強豪地方馬が揃うペースでどのくらいの位置と手応えで運べるか。無敗は消えたが、オケマルの可能性はまだまだ広がっている。

写真:いちかんぽ

PROFILE

大恵陽子(おおえ ようこ)

大恵陽子
(おおえ ようこ)

競馬リポーター。関西を拠点に、小学5年生から地方競馬とJRAの二刀流。グリーンチャンネル『地方競馬中継』、『アタック!地方競馬』コメンテーター、ラジオNIKKEI『競馬LIVEへGO!』、YouTube『ヨルノヲケイバ』(高知)、『SAGAリベンジャーズ』(佐賀)などに出演中。また、優駿『地方競馬トピックスWEST』、週刊競馬ブック『地方競馬WEST通信』、馬事通信『地方競馬Eye』のほか、netkeiba、うまレター、NumberWebなどでも地方競馬にまつわるインタビューやコラムを執筆。

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