

~注目レースを関係者の声から振り返り、新しい「道」へ~
文:井上オークス

ミスズグランドオー(ゴールドスプリント)
2025年10月25日、金沢競馬場で行われた金沢スプリントカップ。高知の目迫大輔厩舎のミスズグランドオーが、名古屋の塚本征吾騎手を背に重賞初制覇を果たした。塚本兄弟の四男である征吾騎手は、次男の雄大さんの名が刻まれた形見の鞍に跨って、特別な勝利をつかんだ。
「今日勝たせていただいたのはお兄ちゃんが所属していた厩舎の馬で、たくさん乗せていただいて、なかなか結果が出せなかったのですが、今日こうして結果が出せて、それを皆様に見てもらえて嬉しいです」
表彰台で想いがあふれた。
マッチョな馬がやってきた
サウスヴィグラス産駒のミスズグランドオーはJRAで4勝、南関東のA2クラスで1勝を挙げて、2025年の夏に高知へやってきた。目迫調教師は入厩時の第一印象をこう表現する。
「マッチョだなあと思いました。肩幅といい、トモの幅といい、首も太いですし、サラブレッドじゃないのでは?っていうくらい筋肉量がすごいんです」
移籍初戦となった8月の準重賞・物部川特別(1300m)は、征吾騎手を背に先行して快勝。見事1番人気に応えた。征吾騎手にとっては念願の高知初勝利。重賞や準重賞の際に征吾騎手へスポット騎乗を依頼してきた目迫調教師にとっても、待望の勝利だった。
9月の建依別賞(1400m)では、スタートで大きく躓いて落馬。幸い人馬共に怪我はなかった。そして空馬で1位入線したミスズグランドオーがちっともダメージを受けていなかったことから、12日後に行われる園田チャレンジカップ(1400m)への出走を決断した。
園田チャレンジカップでは道中を2番手で追走し、4コーナーで先頭へ。ゴール寸前で同じく高知所属のロレンツォに交わされて半馬身差の2着だった。目迫調教師は言う。
「悔しかったですけど、タイムがめちゃくちゃ速かった(1分28秒0)。なんとか重賞を勝たせてあげたいという気持ちが強くなりました」
塚本の弟で勝ててよかった
10月の金沢スプリントカップ(1400m)では、単勝1.6倍の1番人気に支持された。状態もよく、ところがいざ返し馬へ行こうというところで、ミスズグランドオーは馬場入りを断固として拒否してしまう。目迫調教師はこう振り返る。
「本当に焦りました。除外になるんじゃないかと思って。もともと元気のいい馬ではあるんですけど、あのときは人を寄せ付けないようなパニック状態になってしまって……。なだめているうちに落ち着いてきて、なんとかギリギリ間に合いました。レース後はホッとした気持ちのほうが大きくて、勝った実感が湧いてきたのは、高知に帰って一息ついてからでした。“塚本の弟で勝ててよかった”って」
11月の笠松グランプリ(1400m)は、3頭横並びの大接戦を演じた。1着はストリーム(北海道)、クビ差でミスズグラントオーとエコロクラージュ(兵庫)が2着同着。グレードレースで上位を争ってきた強豪と互角に渡り合った。目迫調教師は言う。
「負けたのは悔しかったですけど、このメンバーを相手にこれだけの競馬ができるなら、大きいところを狙っていきたいという気持ちになりました」
スピードを武器に大舞台を目指す
2026年1月、8歳になったミスズグランドオーは、佐賀のゴールドスプリント(1300m)を圧勝した。2025年の東海リーディングに輝いた征吾騎手を背に好位でレースを進め、直線で後続を突き放す横綱相撲であったが……目迫調教師は苦笑する。
「佐賀では装鞍所で立ち上がってしまい、鞍をつけさせなかったんですよ。前のレースが終わるか終わらないかくらいの頃に、ようやく装鞍できました。なかなか色々やってくれる子です(笑)。なにもなければ大人しいんですけど、気になることがあると手がつけられなくなるんですよね。他の馬とやっていることは同じでも、パワーがあるので」
そんなふうにあふれるパワーが、レースになると頼もしい。タフな良馬場も苦にせず先行できる。目迫調教師にミスズグランドオーの長所を訊ねると、「スピード」という答えが返って来た。
「やっぱりスピードがありますよね。そしてスムーズな競馬をすると最後まで一生懸命走ってくれるのがいいところです。レースプランはほとんど征吾騎手が考えてくれて、『こんなふうにしたいです』と報告を受ける感じです。少しズルい面が出てもしっかり諦めさせない乗り方をしてくれますし、ミスズグランドオーにすごく合っていると思います。あれだけのジョッキーが継続して乗ってくれるのは、本当にありがたいですよね」
今後は状態を見ながら、2月1日の黒潮スプリンターズカップ(1300m)へ向かう予定。勝って優先出走権を得られれば、3月24日の黒船賞JpnIII(1400m)への道が開ける。
「調教師としてグレード競走に胸を張って挑める馬を預けていただく機会って、なかなかないと思うんです。それが地元の黒船賞だったら最高ですけど、黒船賞に限らず、チャンスをしっかりつかんでいきたいですね」
写真:佐賀県競馬組合
PROFILE

井上オークス
(いのうえ おーくす)
旅打ち競馬ライター。優駿、スポニチ、Number、うまレター、Web Furlong等に寄稿。グリーンチャンネル『地方競馬中継』や『アタック!地方競馬』等に出演。KKベストセラーズより『いま、賭けにゆきます』『馬酔い放浪記』を出版。