SPECIAL COLUMNSダートの高みを目指して

~注目レースを関係者の声から振り返り、新しい「道」へ~

文:中川明美

VOL.28

短距離で素質開花したゼーロス
古馬初対戦の東京盃を制しJBCへ

ゼーロス(東京盃)

ゼーロス(東京盃)

 ダートの祭典・JBCの足音がすぐそこまで聞こえてきた。11月3日に門別・金沢の2つの舞台で4競走が行われる。
 10月8日に行われたRoad to JBC『東京盃JpnII』はJBCスプリントJpnIの前哨戦。昨年の覇者ヤマニンチェルキをはじめ、サウジダービーG3に遠征して3着の実績を誇るサトノボヤージュなどダート界屈指のスプリンターが大井競馬場に集結した。

-ハードな調教に応え東京盃を制す

 電撃の6ハロン戦はヤマニンチェルキとエートラックスの先行争いから始まった。3歳馬ゼーロスにとっては初めての古馬との戦い。先行勢を見ながら好位後ろのポジションにつけた。笹川翼騎手は道中ずっと促し続け、4コーナー入口では3番手まで追い上げた。直線に入るといったん脚いろが鈍ったが、後方にいたトウカイマシェリが外から猛然と迫ってくると、ゼーロスに再びスイッチが入ってもうひと伸び。前を行くヤマニンチェルキを差し切ってゴールを駆け抜けた。
 大きな“ハナ差”での戴冠だった。
 「ペースは速いと思ったが馬がしっかり付いていった。追っての反応は前回ほどではなかったけど、最後は底力。外に馬が見えたらもうひと踏ん張りして伸びてくれた。この中間に跨がった時から成長を感じていましたし、乗りやすくなっていますね。陣営の一生懸命な取り組みが実になって、東京盃での大きなハナ差につながっていったんだと思います」
 デビューから9戦すべての手綱をとる笹川騎手はそうコメントした。笹川騎手はゼーロスが所属する荒山勝徳厩舎のある小林分場(千葉県)まで出向いて調教をつけるほどの念の入れようでこの日を迎えていた。
 「レースは描いていたかたちとは違ったが、中央の強豪相手にぬるい調教ではダメだと、1カ月前に帰厩してからはハードに攻めて鍛えてきた。馬がそれに応えてくれた。最高の結果になったね」と荒山調教師は目を細めた。

-想像以上の成長力でJBCへ

 ゼーロスが3歳にしてダートグレードのタイトルを掴むまでには、陣営の葛藤と選択がいくつもあった。
 ゼーロスは2024年のサマーセールで取引された。
 「オーナーからの依頼を受け、実馬を見たのは入厩してきた時だった。馬体の印象は特になかったが、いざ調教が始まると動きは目に付くものだった。ただ、気の悪さも見せていた。それでも休養を挟みながら無理使いせずに調整を重ねると、馬体に幅が出てきたし、精神的に少しずつ大人になっていくのがわかった」と荒山調教師。
 デビューから2連勝し、3戦目で重賞初挑戦となった鎌倉記念では1コーナーで外に膨れる大きなロス。砂をかぶって集中力を欠くような場面もあり、いったんは最後方まで下がったが、直線では怒濤の追い上げを見せ3着。1頭だけ100m余分に走ったようなレースぶりだった。
 次なるハイセイコー記念ではハミを替え、ブリンカーを着用して万全を期した。終始外を回り、直線早めに先頭に立って押し切るという強い内容でタイトルを手にした。
 「エンジンが違う。まだベイビーだけどポテンシャルは高い。南関東のオルフェーブルを目指します」
 レース後の笹川騎手のコメントが印象深い。
 そうなればダート三冠を意識するのは至極当然。しかしながら前哨戦の雲取賞JpnIIIでは5着。京浜盃JpnIIでは4着。
 一冠目の羽田盃JpnIを前にして、オーナーや荒山調教師、笹川騎手で意見のすりあわせが行われたが、これがひとつのターニングポイントとなった。
 結論は「距離短縮」。ダート三冠へは向かわずに1400mの兵庫チャンピオンシップJpnIIへの遠征を決めた。
 まずは長距離輸送をクリアしたが、レースでは2番枠もあって内に閉じ込められるかたちになって、後方まで下がる厳しい展開。ただでさえ未経験の園田の小回りコース。それでも徐々にポジションを上げると、直線では大外から猛追して3着まで追い上げた。結果よりも収穫の多いレース内容だった。
 優駿スプリントでは先行争いを凌ぐと直線では楽に抜け出して後続を突き離し、世代のスプリント頂点に立った。しかもタイムは1分11秒0のレーススコードと想像を超える走りだった。
 そして東京盃JpnIIでは、前述のとおり古馬一線級をも抑え、JBCスプリントJpnIへ堂々参戦が決まった。
 「間隔がないので在厩での調整になるが、東京盃のあとは一旦スイッチをオフにして、そこから徐々にピッチを上げていく」と荒山調教師は調整プランを明かした。
 「デビューの頃から背中の使い方や追ってからの瞬発力では高い評価でしたし、スケールの大きさを感じていました。気性面も最近はだいぶ改善してきていますね。こっちが思っていたよりも早く成長してくれています。今回のJBCは金沢競馬場。小回りは園田で経験しているし、右回りなのでコース適性についてはそう心配していません。あとは当日のテンションや並び(枠順)次第ですね」
 笹川騎手のコメントは自信あふれるものだった。

写真:いちかんぽ

PROFILE

中川明美(なかがわ あけみ)

中川明美
(なかがわ あけみ)

競馬ブック南関東担当記者。新聞紙面にてコラム『南関こんしぇるじゅ』、週刊競馬ブックで『NANKAN通信』、競馬ブックWEBにて『南関あらうんど』等を執筆。週刊競馬ブック南関東S重賞本誌担当。グリーンチャンネルにて『アタック!地方競馬』『ダート競馬JAPAN』に出演中。

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