レースハイライト タイトル
dirt
2014年2月23日(日) JRA東京競馬場 1600m

骨折を乗り越え期待馬が復活
人気2頭を振り切りGⅠ初制覇

 JRAのダート戦線の層は近年ますます厚いものとなり、今回のフェブラリーステークスGⅠも、フルゲート16頭にGⅠ/JpnⅠ勝ち馬が4頭、重賞タイトルがないのはわずか2頭のみというメンバー。注目は、昨年のJRA賞最優秀ダートホースとなったベルシャザールと、NARグランプリ2013でダートグレード競走特別賞を受賞したホッコータルマエの再戦で、人気もこの2頭に集まった。
 両馬ともに3月29日に行われるドバイワールドカップへの招待をすでに受諾。ダートに転向して素質を開花したベルシャザールにとっては、昨年のジャパンカップダートがGⅠ初制覇だっただけに、さらに大きなタイトルを積み重ねたいところ。対するホッコータルマエは、昨年GⅠ/JpnⅠで4勝を挙げたとはいえ、JRAでのGⅠタイトル奪取が陣営の悲願。しかし勝ったのは、最低人気のコパノリッキーだった。
 逃げたのはエーシントップで、コパノリッキーはすんなりとその2番手を追走。直線残り400メートルあたりで先頭に立つと、追ってきたホッコータルマエを半馬身差で振り切り、中団後ろを追走していたベルシャザールも外から伸びてきたもののホッコータルマエに1馬身3/4差まで。人気2頭を2、3着に従えての勝利となった。
 単勝272.1倍という超人気薄だったコパノリッキーだが、実力がなかったわけではない。昨年5月の兵庫チャンピオンシップJpnⅡでは、このレースでも3番人気の支持を受けていたベストウォーリアを6馬身ちぎっての圧勝。現4歳世代のダート戦線ではもっとも期待された1頭だった。しかしその後に右前脚の骨折が判明。半年の休養ののち昨年秋に復帰したものの、オープン特別を2戦して10着、9着と見せ場をつくれずという結果でのGⅠ初挑戦だった。
 ただ、強豪が集まるGⅠへの出走から勝利に至る過程には、いくつもの幸運があった。「いろいろなレースに登録して、どこに出られるかという感じだった」とは村山明調教師。たしかに2月13日の佐賀記念JpnⅢにも登録があり、補欠の4番目。そしてフェブラリーステークスは、登録段階での出走馬決定順位は16番目。しかし同じ16番目にはもう1頭ケイアイレオーネがいて、上位馬の回避もなく、確率1/2の抽選をすり抜けての出走だった。
 復帰後2戦の惨敗は、砂をかぶったことが原因ではないかと考えていた陣営にとって、外目の13番枠に入ったこともまた幸運だった。逃げるエーシントップが5番枠で、好スタートからその外目の2番手につけ、まったく砂をかぶらないところからレースを進めることができた。競りかけてくる馬もなく、ペースもそれほど速くはならなかった。「エーシン(トップ)が逃げると言っていたので、それを目標に折り合いもついて、人気馬同士が牽制してくれたのもよかったのかも」とは殊勲の田辺裕信騎手。半馬身差まで迫りながら、またもJRAGⅠのタイトルを逃したホッコータルマエの幸英明騎手にとっては、ジャパンカップダートでは早めに先頭に立ってしまい、うしろから来たベルシャザールに差されていただけに、今回もうしろから来るであろうその馬が気になったということはあっただろう。
 これがGⅠ初勝利となった田辺騎手は、このフェブラリーステークスでは、同じ村山厩舎のテスタマッタへの騎乗が予定されていた。ところがそのテスタマッタは2月に入って浅屈腱炎を発症し、引退が決定。そして回ってきたコパノリッキーの手綱だった。
 馬主であるドクター・コパこと小林祥晃さんにとっても、JRAのGⅠはこれが初めての勝利。地方競馬で年度代表馬に2度輝いたラブミーチャンが昨年限りで引退し、5日後の2月28日に笠松競馬場で引退セレモニーが行われるのを前にしてのコパノリッキーによるGⅠ制覇は、ダートの頂点を目指すべくのバトンタッチになったようにも思える。

田辺裕信騎手
村山明調教師

取材・文:斎藤修
写真:いちかんぽ(岡田友貴・森澤志津雄)