2016年1月20日(水) 高知競馬場
第1戦
第2戦

第1戦

第2戦

第2戦でのハナ差が明暗を分ける
先輩の意地見せた見越騎手が優勝

 今年は1月中旬に実施された、全日本新人王争覇戦。その前日はまさかの大雪となったが、出場騎手の大半は前日のうちに高知入りしていた。しかしその前には、アクシデントによる参加騎手変更が2件あった。落馬で負傷した石川倭騎手(北海道、大井で期間限定騎乗中)と瀧川寿希也騎手(川崎)が出場を辞退し、代わって浦和の見越彬央騎手と岩手の鈴木麻優騎手が出場することに。鈴木騎手に至ってはレース数日前の召集だった。
 そして迎えたレース当日は晴れ上がったが、気温は10度に達しないほどの肌寒さ。それでも出場騎手たちはとても賑やかだった。というのも、地方所属騎手8名のうち7名は地方競馬教養センターの同期生。2014年4月以降にデビューを迎えたその7名は、紹介セレモニーの前から同窓会のような盛り上がりを見せていた。
 その輪から少し離れたところにいたのが、見越騎手と、JRA所属の鮫島克駿騎手と義英真騎手。見越騎手は他の7名より1年先のデビュー。繰り上がりでの出場ではあったが、騎手免許取得後3年未満という条件がある新人王争覇戦ゆえ、彼にはラストチャンスが巡ってきたともいえる。
 2010年にそれまでの一発勝負から2レースによるポイント争いに変わった新人王争い。今回のレースの条件は、第1戦がC3級の6組、第2戦がC2級の6組で、いずれも“選定馬”である。なかでも第1戦は、すべての出走馬が前走7着以下。勝ち馬から10馬身差以内だったのは、中島龍也騎手(金沢)のヴリルスターだけ。そのヴリルスターが人気を集め(単勝では2番人気)、中島騎手も果敢に先手を取りに行った。
 しかしそこには、大半の騎手が“高知は初めて”という戸惑いもあったようだ。
 ファンは当たり前のように知っていることだが、高知競馬は砂の深い内側を走らせないようにするのがセオリー。しかしヴリルスターに競りかけた鮫島騎手が徐々にインコースに寄っていき、中島騎手は普段は蹄跡が残らないような場所に押し込まれてしまった。馬場状態は不良でも、そこを通ったなら勝負どころでの失速は当然だった。
 代わって外を回って上昇した村上弘樹騎手(愛知)と瀬川将樹騎手(大井)には、おあつらえ向きの展開。最後の直線で一気に伸びた村上騎手が1着に入り、瀬川騎手が2着。3着には義騎手がインコースから流れ込んできた。
 第1戦が終わって検量室に引き上げてきた10名は、「楽しかった」と言わんばかりの盛り上がりぶり。瀬川騎手は「とても面白かったですが、内を開けて走らせることには戸惑いましたね」と振り返った。4着に食い込んだ見越騎手は「前があんなに止まるとは!」と、普段とは違うレースの流れに興奮気味。JRAの2名も「いつもの1400メートルよりもすることが多くて、もう全然違う感じでした」(鮫島騎手)、「内側は本当に砂が深かったですね」(義騎手)と、競馬の違いに驚きつつ、次に向けてフィードバックしているようだった。
 そして迎えた第2戦は、前走10着でもその前の3戦が3着以内という鮫島騎手のリュウノガーネットがやや抜けた人気となっていた。
 しかし好事魔多し。リュウノガーネットは馬場入口で、「後ろ脚をぶつけて、その出血がひどくて」ということで競走除外に。締切7分前にそれが発表されると、現地のファンは大慌てで馬券の買い増しに走った。また、人気馬が不出走となったことで最低人気馬でも単勝オッズが最終的に21.6倍と、人気がかなり分散することにもなった。
 まさに高知競馬名物『一発逆転レース』さながらの一戦は、「第1戦がずっと最後方だったから」という八木直也騎手(愛知)が逃げ、水野翔騎手(北海道)が2番手に。2戦方式となって初の完全優勝を狙う村上騎手も好位置につけた。
 このクラスにしてはやや速い感があるラップタイムを刻んだ流れは、3コーナー手前でほとんど一団に。八木騎手は早々に後退したが、代わって地元の妹尾浩一朗騎手などが外を回って先頭に並びかけてきた。
 その追い比べは、先頭グループの直後で脚を溜めていた見越騎手に凱歌。うまくインコースを立ち回った水野騎手が2着。3着争いは写真判定となり、ハナ差で中島騎手が村上騎手を抑えた。
 その結果、2戦の結果が1着と4着だった騎手が2名。ポイント数は同じでも、最終戦を制した見越騎手の優勝となった。村上騎手が第2位となり、第3位には5着と2着だった水野騎手が入った。
 その結果を検量室で聞いた見越騎手は「本当ですか?」とうれしそう。村上騎手は「最後がハナ差ですからね……」と少し悔しそうな表情ながらも「初めての競馬場でも、そつなく乗れるようにしたいですね」と、意欲あるコメントを残した。そのほかの騎手もそれぞれに刺激を受けていた様子で、この1日を楽しかった思い出にしつつ、今後への糧にしていくのだろう。

取材・文:浅野靖典
写真:桂伸也(いちかんぽ)

総合優勝
見越彬央騎手
(浦和)
2レースとも人気薄で、両方とも同じようなレースになりました。2戦目はゴールで横を見たら村上騎手が3着に見えたので、逆転できないなと思ったんですが、優勝と聞いてびっくりしました。小回りの競馬場なので浦和のイメージで乗りましたが、難しかったです。でも先輩の意地を見せられてよかったです。
総合2位
村上弘樹騎手
(愛知)
楽しかったですが、2戦目が3着と少しの差でしたからね。その2戦目は勝負どころで外からほかの馬に来られたときに、馬がひるんでしまいました。今日は外からの差しが決まる感じがするような馬場でしたが、そういったことをすぐに読み取って、もっとスムーズに乗れるようにしていきたいです。
総合3位
水野翔騎手
(北海道)
1戦目はもっと積極的に行ったほうがよかった気がしますが、行っていたら5着もなかったかもしれないですからね。2戦目はいい感じで先行できましたが、最後は一杯になってしまいました。今日は乗っていて普段以上に疲れましたね。でも久しぶりに同期に会えて、またライバル心が芽生えてきました。