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  • 第66回
  • エンプレス杯 JpnⅡ

3.5 (木) 川崎 2,100m

直線抜け出しラストランを飾る
 大井の伏兵が2着に追い込む

引退レースを勝利で飾ることは容易ではない。この一戦を無事に終えて、牧場へ送り出すことが関係者にとっては大事な使命であると同時に、勝負である以上、万全の仕上げを施し、レースでは全力疾走をうながす。その微妙なバランスのなかで、まして1番人気に推されようものならプレッシャーも相当だろう。

今回はアンデスクイーン陣営がその役回りを担った。昨年のブリーダーズゴールドカップJpnⅢ、レディスプレリュードJpnⅡを制した実力馬。前走のTCK女王盃JpnⅢ(2着)後から、ここを引退レースとして入念に仕上げ、鞍上にも引き続きクリストフ・ルメール騎手を起用。プレッシャーのかかるなかで、何とか引退の花道を飾ろうとする関係者の思いが見てとれた。

その結果、アンデスクイーンは花道を堂々と走り抜け、完璧な形で競走生活を終えた。

新型コロナウイルスの感染拡大防止措置により、無観客のなかでレースはスタート。大方の予想通り、大井のクレイジーアクセルとサルサディオーネが逃げ争いを演じ、これに浦和のシークレットアリアも加わる。当然、縦長の展開となったが、スタートで後手に回ったアンデスクイーンにとっては有利な形。2周目の向正面半ばから徐々に加速すると、先に抜け出したラインカリーナとプリンシアコメータを目がけ、3コーナーから一気にスパート。直線でもそのままの勢いで抜け出し、2着に1馬身半差をつけて現役最後のゴールを駆け抜けた。

無人のスタンド前で行われた表彰式。「お客さんなしで、少し寂しいです」とルメール騎手も残念そうに話したが、「この馬でJRAの新記録(2018年に年間最多勝記録の215勝目)を作りましたから、僕にとって特別な馬です。ファイナルレースで重賞を勝つことができたし、いい子供を産んでほしい」と、去り行くパートナーへの思いを口にした。

管理する西園正都調教師は「ここへ向けてしっかり仕上げてきたし、ルメール騎手も道中のペースをしっかり読んでいたので、安心して見ていました」と淡々と話したものの、「引退レースを飾ることができて、感激しています。ゴールを過ぎたときには涙も出てきました」と、有終の美を飾ったアンデスクイーンの姿に感動した様子だった。

一方、2着には後方から押し上げた大井のナムラメルシー。「差しが決まりやすい馬場の助けもあったけど、TCK女王盃でも5着に来ているし、それがフロックでないことを証明できた」と御神本訓史騎手。JRAでのデビューから川崎、高知を経て大井へ転入。南関東B級を勝ち切れない現状ではあるが、追い込み脚質ゆえに、展開や馬場次第で今後も十分にチャンスがあるだろう。

3着には昨秋の紫苑ステークスGⅢの勝ち馬で、今回が初ダートのパッシングスルー(JRA)が入った。「キックバックを嫌がる面はあったけど、十分にメドが立つ内容だった」と森泰斗騎手が話したように、芝・ダート兼用馬として、今後も牝馬の両路線を沸かしてくれる存在となりそうだ。

結果的にアンデスクイーンが不動の主役を演じ切ったこの一戦だが、気になるのは前半3ハロン35秒3(推定)という、2100メートル戦とは思えない逃げ争いを演じたサルサディオーネ(11着)とクレイジーアクセル(12着)。大井所属のこの2頭が共倒れになるのは、TCK女王盃JpnⅢに続いて2度目となる。サルサディオーネは牡馬相手の報知グランプリカップで勝利し、クレイジーアクセルはクイーン賞JpnⅢを制しているように、ともに牝馬のダート路線では力上位の存在。地方競馬ファンの目線からすれば、もどかしい面もあるのだが、今後も2頭のローテーション選択や逃げ争いのゆくえが、牝馬ダートグレードの鍵を握るに違いない。

  • 2着には後方から押し上げたナムラメルシー(大井)
  • 逃げ争いを演じたサルサディオーネ(11着)と
    クレイジーアクセル(12着)
  • 取材・文
  • 大貫師男
  • 写真
  • 築田純(いちかんぽ)

Comment

C.ルメール 騎手

いつも通り、いい雰囲気でした。プリンシアコメータをマークしたかったけど、スタートであまり動かなかったし、ペースも速かったので、後ろのポジションになりました。でも、2100メートルなので心配はしていなかったです。この馬は僕にとって特別な馬。重賞を勝つことができて本当にうれしい。

西園正都 調教師

東京の2100メートルで好走していたので、左回りはプラスだと思っていたし、ルメール騎手が冷静にペースを読んでくれたので、安心して見ていました。花道を飾ることができて感激しています。長い間応援していただき、ありがとうございました。子供が出走したら、また応援してください。