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第33回かしわ記念JpnI

地元の雄がハナ差で振り切る
  “チーム船橋”でつかんだ勝利

ゴールデンウイークのダートグレードを締めくくるのは、春のダートマイル王決定戦かしわ記念JpnI。この日の船橋競馬場は強風が吹き荒れ、どんよりとした空模様だったのだが、レース後は地元の関係者、地方競馬ファンが晴れやかな笑顔になるような結果が待っていた。

昨年は7頭立てと寂しい頭数だったが、今年は12頭が揃い、地方・JRAともに豪華メンバーが集結した。1番人気は、今年のフェブラリーステークスGIの覇者カフェファラオで単勝2.1倍。2番人気は川崎記念JpnIでジーワン勝ちを飾った、船橋のカジノフォンテンで3.6倍。3番人気は、JRAダート重賞で存在感を示すタイムフライヤーで8.6倍。2019年のこのレースの2着馬インティが4番人気で8.7倍と続いた。

そして、この強力なJRA勢の中、地元の雄カジノフォンテンが、2011年のフリオーソ以来、10年ぶりに地方馬の勝利という大仕事をやってのけたのだった。

ゲートが開くとサルサディオーネが先手を取り、ワークアンドラブが2番手、昨年の勝ち馬ワイドファラオが3番手で、カジノフォンテンはその外め4番手につけた。直後をカフェファラオ、サンライズノヴァ、ソリストサンダーが追走し、スタートで出遅れたインティは後方からレースを進めた。

勝負所3コーナーでカジノフォンテンが動いた。手応えよく前に並ぶと、直線では早め先頭に立ち張田昂騎手が懸命に追い出し始めた。すると外からソリストサンダーが末脚を伸ばし一歩ずつ迫ってきた。見ている側もかなり力が入ったが、最後は張田騎手の激励に応えたカジノフォンテンがハナ差しのいで優勝を手にした。今回はゴール後のガッツポーズがなかった張田騎手だが、「いつもだったら、この差で勝ち負けは分かると思いますが、今日はがむしゃらになっていたので、よく覚えてないです」と。それだけ必死だったということだろう。1着と分かり戻ってきた時には大きく拳を突き上げた。

2着ソリストサンダーの戸崎圭太騎手は「向正面で挟まれる感じになりリズムを崩しました。その後は手応えよく走ってくれました。あと少しでしたね」と振り返った。

直線で大外から伸びたインティが2着と1馬身半差の3着。「スタートで出遅れたのはもったいなかったです。ただ控える競馬で折り合いがついたのは初めてでした。馬も良くなっているし収穫はありました」と武豊騎手はコメントを残した。

船橋競馬の大一番・かしわ記念JpnIを、地元馬で勝つということは関係者にとって大きな目標の一つ。10年ぶりのこの偉業に、レース後は祝福ムードに包まれた。

カジノフォンテンを巡っては、船橋競馬の繋がりの深さを感じざるを得ない。張田騎手はインタビューの際「一皮も二皮も剥かせてもらえたのは厩務員さんのおかげです」と感謝の気持ちを口にしたが、その厩務員というのは、かつてフリオーソを担当した波多野厩務員だ。山下貴之調教師は騎手時代、波多野厩務員と共に、当時のトップトレーナー川島正行厩舎に所属していた。また、カジノフォンテンの母ジーナフォンテンは南関東でも活躍した名牝で、その主戦の一人は張田昂騎手の父、張田京元騎手(現調教師)だった、などと多くのドラマが詰まっている。

そして山下調教師はインタビューでこうも話した。「川島正行調教師、佐藤賢二調教師がいなくなってしまいましたが、その後も全国レベルの馬を出そうと全員でやってきました。その結果が出たのだと思います」

天国の川島調教師も佐藤調教師もきっと喜んでいるに違いない。カジノフォンテンのかしわ記念JpnI優勝は、長い時間をかけてバトンを繋いできた“チーム船橋”が勝ち取った勝利だったともいえよう。

今後について山下調教師からは「今年は負けなしが目標です」という力強い言葉も聞かれた。次走は6月30日に行われる帝王賞JpnIを予定している。今度は10年フリオーソ以来の地方馬の優勝なるか、大井2000メートルのチャンピオンディスタンスでJRA勢を迎え撃つ。

取材・文 秋田奈津子

写真 国分智(いちかんぽ)

Comment

張田昂騎手

本当に嬉しい、それだけですね。前走より状態は良かったです。少しかかり気味だったんですが、久しぶりにこんな手応えで来たな、その分調子が良いんだなと思いました。馬にかける言葉はありがとうしかないです。この馬とこれからもずっと上を目指していきますので応援よろしくお願いします。

山下貴之調教師

この馬が一番強いことが証明できました。やることはやりましたので、あとは馬と張田騎手を信じていました。ポジションもよく思った通りの展開になったので、あとは見守るだけでしたね。ゴールの瞬間は何も考えられなかったです。帝王賞ではもう一度オメガパフュームやJRAの強い馬と対決したいです。