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第23回ジャパンダートダービーJpnI

着差以上に強い逃げ切り
  人馬とも初タイトルがJpnI

6月1日の浦和競馬場。第9レースで行われたJRA1勝クラスと南関東B2・B3との交流戦が1分28秒4で決着した直後、関係者から「第7レースを勝ったあの馬……」という声が聞こえ出した。あの馬とは、同日の3歳交流を勝ったキャッスルトップ。1分27秒7の好時計で6馬身差の圧勝劇を演じ、1勝クラス交流との時計比較で非凡な能力が浮き彫りになった。しかし、初夏の大井の大舞台で快哉を叫ぶとは、この時点で誰が予想できただろうか。

時間はさらに5月11日にさかのぼる。キャッスルトップは初コースだった浦和3歳戦で、キャリア初勝利を挙げた。8馬身差の圧勝に、宇都宮が生んだ3500勝ジョッキー・内田利雄騎手は「時々いますよね。初コースですごい力を発揮する馬」と、管理する渋谷信博調教師に伝えたという。

「距離は不安だけど、そういったこともあるからね」と、渋谷調教師は初めての大井コースでの一戦に望みを託した。ただ、トレーナーも言うように父が短距離で活躍したバンブーエールだけに、距離の不安はある。しかも厳しい戦いで選抜されてきたJRA勢が相手。目下3連勝の勢いを加味しても、主役を演じるとは考えにくかった。

しかし、キャッスルトップと仲野光馬騎手は、13頭立て12番人気という評価を覆した。

12番枠からスタートダッシュを決めたキャッスルトップと仲野騎手は、前半3ハロンを35秒6のハイペースで逃げる。しかし、その後は13秒台に落とし、完全にペースを掌握した。4コーナーでは懸命に追うJRA勢を尻目に、持ったままの手応え。直線に向くと他馬を牽制するようなかたちで外に進路を取った。

JRA勢の底力はここから。渾身のムチを入れて粘り込みを図るキャッスルトップと仲野騎手に、他馬がどっと押し寄せる。残り100メートルで、外からJRAのゴッドセレクションとウェルドーンが鋭く迫った。万事休す……。そう思われた瞬間に、キャッスルトップはもう一度、脚を伸ばした。「抜かせない、どこまで行っても抜かせない」。そんな声が聞こえるようだった。2分5秒9のドラマは、キャッスルトップの逃走で幕を閉じた。

5月の初勝利から4連勝で射止めた初の重賞タイトル。鞍上の仲野騎手も2014年6月のデビューから7年、通算45勝目がJpnIタイトルとなった。「妄想ですけど、こういう日を描き続けてきました」というのは偽らざる本心。「このかたちが勝利に近いと思いました。一気に来られると厳しいと思っていたので、相手がじわっと迫ってきたのも助かりましたね。ほかの馬が来れば、こちらも手応えが良くなるので」。まさしく、理詰めで考えて乗る仲野騎手の真骨頂。ハイペースで逃げて相手に脚を使わせ、持ち前の勝負根性で粘り切るという、思い描いたかたちでビッグタイトルを手にした。

アタマ差まで迫ったゴッドセレクションの中井裕二騎手も「勝ち馬の根性がすごかった」と脱帽せざるを得なかった。3番手の外を追走し、残り100メートルから一気に脚を伸ばす騎乗ぶりに非の打ちどころはなかったが、誤算だったのはキャッスルトップの最後のひと伸び。わずかの差で逃した自身の重賞初勝利に、レース後は悔しさをにじませた。

さらにアタマ差の3着には、関東オークスJpnII馬のウェルドーンが入った。牡馬相手の鳳雛ステークスを勝利しており、この結果にも驚かないが、「乗るたびに強くなっている」と武豊騎手は成長を口にする。今後の牝馬路線を盛り上げる存在となるはずだ。

ただ、今回の主役は何といってもキャッスルトップ。結果だけを見れば“人気薄の逃げ切り”とフロック視する向きもあるだろう。しかし、中身はハイペースで自ら厳しい展開を作りながら、最後までしのぎ切る強い勝ち方だった。初夏の大井を駆け抜けた“胴茶・右黒たすき、そで黄”の勝負服と、黒鹿毛の馬体。そのサクセスストーリーは、ここから第2章を迎える。

取材・文 大貫師男

写真 早川範雄(いちかんぽ)

Comment

仲野光馬騎手

重賞を勝つのも初めてですから、びっくりです。2カ月足らずで、この馬が3連勝してここに向かえたこと、さらにレベルアップさせてここに向かわせてくれたみなさんに感謝しています。これからは馬も主役としてやっていけるように、何より僕自身が馬の成長に追いつけるように、精進していきます。

渋谷信博調教師

スタミナが持つかというのはありましたが、それさえ克服できれば、そこそこ走れるのではないかと思っていました。輸送で11キロの馬体減でも、落ち着いていたので力は出せる感じでしたね。自分が見ていたところがゴール前が見づらかったので、まわりからおめでとうと言われて実感が湧いてきました。