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第21回JBCクラシックJpnI

4コーナー先頭から後続を振り切る
  21回目で地方馬初のクラシック制覇

ついにJBCクラシックJpnIを地方馬が制覇する時がやってきた。「あのフリオーソも叶わなかった」と実況された通り、創設から21年、幾多の名馬が挑んでは跳ね返されてきた高い壁を越えたのはミューチャリー(船橋)と、ここ金沢が誇るトップジョッキーの吉原寛人騎手。秋の日は短く、グッと冷え込んだ金沢競馬場だったが、一転して明るい雰囲気に変わった。

発走地点の2コーナーポケットから好スタートを決めたのは単勝5番人気と地方馬で最も人気を集めたカジノフォンテン(船橋)。前走の帝王賞JpnIはダノンファラオ(JRA)にピタリとマークされてのハイペースで直線で失速してしまったが、今回は内から同馬が来るとスッと控えて2番手の外に収まった。そうなれば自ずとペースは落ち着き、後方からレースを運ぶことの多いミューチャリーが3番手外につけた。

レースが動いたのは2周目向正面後半。ミューチャリーがペースアップしながら先頭へと迫り、出遅れて後方からとなったオメガパフューム(JRA)も大外からロングスパートをかけてきた。ミューチャリーが先頭で直線を迎えるとファンのボルテージは高まり、ゴール直前でオメガパフュームが迫ってくると手を叩いて応援する音と、大声を出してはいけないとの思いからか言葉にならぬ声も聞こえてきた。粘るか差すかの争いは、地方馬初のJBCクラシックJpnI制覇か3年連続同レース2着馬の悲願が詰まった戦い。それを半馬身差で制したのは、ミューチャリーだった。

ミューチャリーは2018年、デビューから3連勝で鎌倉記念を制し、3歳では羽田盃を鮮やかな末脚で勝利していた。古馬になってからは2年連続でフェブラリーステークスGIに挑戦するなど、強い相手と戦い力をつけてきた。「直線では机が割れるくらい叩きました」と矢野義幸調教師のレース中の様子からも、念願のタイトルだったことが窺える。

前走の白山大賞典JpnIIIに続いて手綱をとった吉原騎手は、19年のマイルチャンピオンシップ南部杯をサンライズノヴァで制してJpnI初制覇を決め、「次は地方馬でジーワンを勝つことが目標」と話したわずか2カ月後には全日本2歳優駿JpnIをヴァケーション(川崎)で制覇、そして今回、地元での偉業となった。

関係者はハイタッチして喜び合い、吉原騎手が「やったー!強かった、ありがとう」と戻ってくると、地元の騎手仲間からも祝福を受け、ファンは涙を浮かべた。

対照的に残念そうな表情で戻ってきたのは6着のカジノフォンテンと張田昂騎手。「リズムよく行けましたが、小回りで合わなかったかもしれません」と、JpnI・2勝馬の意地を見せられず肩を落とした。

2着オメガパフュームはペースが落ち着いた中で後方からロングスパートを決めてここまで迫ってきたのにはさすがのひと言。「前走ではゲート裏までメンコを着けていてボーッとしていたので、今日は早めにメンコを取って気持ちを入れたかったです」と、闘志が入りきらなかった帝王賞JpnIから対策を講じてきた。3着チュウワウィザードは骨折による休養明けながら戸崎圭太騎手は「いい状態でした」と振り返り、4着テーオーケインズや5着ケイティブレイブは小回りコースが一つのポイントとなったようだった。

JBCクラシックJpnI単体で24億123万300円を売り上げ、金沢競馬場の1競走当たりの最高売得額を更新し、1日合計売得金額も54億6426万500円で同競馬場のレコードとなったこの日、コロナの影響で入場者こそ事前当選した1300名に限定されたが、吉原騎手がミューチャリーの馬上で右手を大きく上げると、スタンドからは何度も大きな拍手が送られた。

取材・文 大恵陽子

写真 いちかんぽ(早川範雄、築田純)

Comment

吉原寛人騎手

どこかで大仕事をしてくれる馬だと思っていました。返し馬で前走よりもいい状態と感じて、カジノフォンテンの近くでレースを運びたいと思っていました。4コーナーでは「他の馬に絶対に交わさせないぞ」というハミの取り方でした。地元・金沢で決められて嬉しいです。馬にもファンにも感謝しています。

矢野義幸調教師

嬉しく、ホッとしています。前哨戦の白山大賞典を使えたことで、きちんと仕上げられました。道中は前に馬がいなくて心配しましたが、ジョッキーに任せて見ていました。体はそんなに大きくないですが、いいキレ味を持った馬で、それをうまく引き出してくれました。この後は東京大賞典の予定です。