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第16回道営スプリント

抜群のスタートから逃げ切る
  絶妙なペース判断で距離を克服

ダートグレードが整備された1997年、北海道スプリントカップJpnIIIが創設された。それまでホッカイドウ競馬では金杯という短距離重賞が行われていたが、それに代わる形で作られた。ただ、その前後に地元馬同士の短距離重賞はなく、強いて言えば3歳一冠目の北斗盃のみ。その状況で、2000年にオースミダイナーが12歳で中央勢を破ったことは、まさに快挙と言える。北海道スプリントカップJpnIIIが終わると、明らかな短距離馬でも古馬重賞のスケジュールに乗る形で、距離を延ばしていくしかない状況が続いていた。

2001年、それまで1600~1800メートルで実施されていたエトワール賞が旭川1000メートルに変更。この年は7月に施行されたが、2002年から北海道スプリントカップJpnIIIの前哨戦となる。とはいえ、秋以降は相変わらず短距離重賞がなく、シーズン最後の名物レースと言えば、門別短距離特別が1200メートルで行われていたくらい。これでは短距離馬が早々に他地区へ移籍するのも仕方なかった。

有識者と主催者が話し合う場を設け、「道営記念の短距離版のようなレースを作るのはどうか」という意見が出た。これが、ホッカイドウ競馬における古馬短距離の体系化の始まりだった。2006年10月、道営スプリントが創設。JBCスプリントJpnIを意識できる時期に置かれ、当時のトップスプリンターが揃った。1つ重賞ができれば、それぞれの季節に重賞が置かれるようになる。道営スプリント創設当初の理念が昨年、ようやく実る形で1着賞金1000万円、道営記念との同日開催となった。

昨年は、中央未勝利から移籍し破竹の4連勝でC級から果敢に格上挑戦したジャスパーシャインが、大外強襲で一気に重賞ウィナーへと駆け上がった。この時3着だったアザワクは1000メートルのスペシャリストで、1200メートルでの勝利はない。折り合い重視で、内から主張してきたオールドベイリーを行かせ、2番手から4コーナー手前で先頭に立つレース振り。昨年のウポポイオータムスプリントでも、控えるレースで5着と結果が出なかったが、逆にアザワクのスピードを活かせていない印象は、見ている側も感じていた。

今季初戦、スタート直後に落馬するアクシデントがあったが、北海道スプリントカップJpnIIIではアザワクらしい、思い切った逃げを打った。7着に敗れたとはいえ、後続を引き離す形でも、ラップはさほど上がらず、良い意味で折り合いがつくことがわかった。ロードカナロア・プレミアムで楽々逃げ切り、1200メートルでの初勝利を挙げた。ウポポイオータムスプリントも、昨年の反省を踏まえ、迷わず逃げたが3着。それでも前年より収穫のあるレースはできていた。

1000メートルの準重賞・さまにオープンを逃げ切った時、11秒6-11秒5-11秒4-11秒9-12秒4というラップだった。「ゆったりしたペースで行けた」と、レース後に桑村騎手は話していたが、ラップを見せた時「意外と流れていたんですね(笑)」と驚いていた。体内時計と乗っている感覚の違いは、スポーツカーに乗っている感覚に近い。それほど、アザワクの乗り心地が良くなったことを示している。

今回も抜群のスタートを決め、スティールペガサスが追い掛ける形で3番手以下が離れていく。見た目はハイペースに感じるが、12秒0-11秒0-11秒6=34秒6と、馬場状態を考えれば決して速くない。桑村騎手もレース後、「思いのほか、ゆったりしたペースで行けた」と話していたのも頷ける。最初の1ハロンをゆっくり行けたので、その後1000メートルのレースに持ち込めた桑村騎手の絶妙なペース判断と、アザワクの成長が勝因と言える。

「笠松グランプリにエントリーしています」と、レース後に角川秀樹調教師が話していた。これまでのアザワクは、遠征で思うような走りができていないが、近走で見せるアザワクの内容から、小回りの1400メートルなら克服できる可能性は高い。選定されるかどうかも難しい人気レースだが、出走が叶った時、心身ともに成長したアザワクの走りを楽しみにしたい。

取材・文 古谷剛彦

写真 中地広大(いちかんぽ)

Comment

桑村真明騎手

差しが利く馬場だったので、逃げ馬にとって不利に思いましたが、リラックスして走ることができ、ペースを落とす逃げが打てました。最後は一杯一杯でしたが、何とか凌ぎ切ることができました。2歳の頃から比べると、トモがしっかりしてきたことも、1200メートルで我慢が利くようになった印象を受けます。

角川秀樹調教師

スピードは間違いなく全国レベルだと思っていますが、最近は良い意味でのズルさが出てきました。心身ともに成長してきたことが、1200メートルでも最後まで踏ん張れることができていると感じます。今後については、まだはっきりしたことは未定ですが、笠松グランプリにはエントリーしています。