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第52回高知県知事賞

差し脚勝負で差し切る
  王者の3連覇を阻む金星

12月31日、昼下がりの高知競馬場。レース展望番組に出演した赤岡修次騎手は、高知県知事賞で騎乗するグリードパルフェの距離適性を問われて唸った。

「うーん、わからないですね。いま、高知の馬場はすごく重いんです。この重い馬場で2400メートルを走るのは、どの馬も大変だと思います」

馬場状態は、良に近い“稍重”。近年の大晦日では最も乾いた馬場で、年に一度だけ行われる2400メートル戦は謎めいていた。ただ、出走各馬の陣営にも、われわれ馬券師にも、確固たる共通認識があった。それはスペルマロンの圧倒的な強さ。なんせ高知で行われる全距離の重賞(1300、1400、1600、1900、2400メートル)を制したオールマイティ王者だ。高知県知事賞を3連覇する可能性は濃厚と思われた。

マジックアワーの競馬場にファンファーレが鳴り響いて、高知県知事賞のゲートが開いた。逃げたのは二冠馬ハルノインパクトと西川敏弘騎手。西川騎手は「この馬に2400メートルは長いから、スローペースで逃げよう」と決めていた。

スペルマロンと倉兼育康騎手には逃げる選択肢もあったが、西川騎手の気迫を感じ取って2番手に控える。グリードパルフェに騎乗する赤岡騎手は、戦前から「かなりペースが遅くなるだろう」と読んでいた。「だけど差す脚を生かすためには、この馬のレースをするしかない」と腹をくくり、後方でレースを進めた。

2周目の向正面、深い馬場と長い距離に体力を削られた馬の脚色が怪しくなってきた。3コーナー、スペルマロンがハルノインパクトをかわして先頭に立つ。4コーナー、クラウンシャインと佐原秀泰騎手がスペルマロンを追いかけるが、その差は詰まらない。これはスペルマロンの勝ちパターンだ。ところが直線、外からグレーの芦毛が飛んできた。えっ!?

グリードパルフェがスペルマロンを差し切った瞬間、高知競馬場のスタンドが大きくどよめいた。

元騎手の山頭信義厩務員が、大喜びでグリードパルフェと赤岡騎手を迎える。赤岡騎手も田中守調教師も、異口同音に「びっくりした!」。大金星である。

赤岡騎手は言う。「高知に来てからは軽い馬場のほうが実績があるので、今日のような重い馬場は合わないんじゃないかと思っていました。でも3コーナーを回って、少し追ったら前に行き場がなくなるくらいの手応えだったので、『ひょっとしたら』とは思いました」

王者スペルマロンは2着。倉兼騎手はガックリと肩を落とす。「抜けだしたあとに遊ばれたのが敗因です。以前からそういうところがあるので頭に入れて乗っているのですが、一気に来られると……。並ばれて来る分には、負けないんですけどね。3連覇したかった。悔しいです」

2分47秒5という勝ち時計は、ここ10年で最も遅いタイム。馬場がもっと軽ければ、もう1頭逃げ馬がいたら、結果は違っていただろう。“ザ・これが競馬”な大一番だった。12月28日の金の鞍賞を田中厩舎のファーストリッキーで制した赤岡騎手だが、ゲート入りの際のアクシデントで右手首を負傷。それでも大晦日と元日に自分が休むわけにはいかないと、できる限りの治療を受けテーピングを巻いて臨んだ責任感が、最高の騎乗と結果に繋がった。

山頭厩務員は言う。「グリードパルフェ自身が調教で『走る距離が足りない』と感じたら、怒りながら厩舎に帰るんです」

前向きな気持ちで調教を積むことで、心肺機能が鍛えられたのだろう。グリードパルフェは、山頭厩務員を背に走るのが好きなのかもしれない。

取材・文 井上オークス

写真 桂伸也(いちかんぽ)

Comment

赤岡修次騎手

4コーナー手前で、砂を被らない外へ出したときに、行き脚がすごかったんです。「もしスペルマロンが直線であまり動かなかったら、かわせるかもしれない」と思いました。かわすとき、お客さんから悲鳴のような歓声が上がって、ちょっとびっくりしました(笑)。馬がすごく頑張ってくれたと思います。

田中守調教師

金沢のJBCクラシックに遠征したあと、元気だったので間隔を詰めて使ったら惨敗してしまった。だからゆっくり休ませてから、このレースに臨みました。柔らかくていい馬ですし、持久力もあるんでしょうね。ただ、スペルマロンに勝つとは驚きました。ガシラ(山頭厩務員)の調整が上手くいきましたね。