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第56回黒潮盃

スローの逃げで後続を完封
  初距離を克服し重賞初制覇

今年の3歳秋のチャンピオンシップは、このレース前日の王冠賞(門別)からスタート。4番人気エンリルが8馬身差で逃げ切り、あっと言わせたが、続く黒潮盃も8番人気エスポワールガイの逃走劇で幕を閉じた。

予兆はあった。この日の大井競馬場は良馬場でスタートしたが、強い雨に見舞われ、第6レースから重に悪化。人気薄の逃げ馬が粘る場面が見られるようになっていた。それを読み切っていたのが森泰斗騎手。エスポワールガイのスピードを生かし切り、全国リーディングの手腕を示した。

10番枠からつまずき気味にスタートしたエスポワールガイだったが、持ち前のスピードを生かして先手を奪う。1200メートルでも引っ掛かる面があるため、その後は鞍上も折り合いに専念。前半の3ハロンは38秒8のスローペースとなった。

1番人気のクライオジェニックが向正面で動き、3コーナーの手前で2番手に浮上。内の4番手を追走していたナッジも2頭を追って直線に向いた。しかし、前半で脚をためていたエスポワールガイの脚いろは衰えない。結果、メンバー最速の上がり3ハロンをマークし、1馬身半差で重賞初制覇を飾った。

みずから「会心の勝利、会心の騎乗でしたね」と振り返った森騎手。折り合いが難しいエスポワールガイをなだめつつ、勝負どころではペースを上げて他馬に脚を使わせた。管理する市村誠調教師も「森君がうまく乗ってくれた」と最敬礼だった。

とはいえ、エスポワールガイ自身の能力の高さも見逃せない。ここまで若潮スプリントで4着、優駿スプリントで2着と短距離で好走していたが、2月の特別戦(1600メートル・3着)以来の1周競馬にもきっちり対応した。「テンションが高かったので、今後は精神的な成長が課題。ただ、それでも結果を出せたということは、この馬のポテンシャルの高さを物語っていると思います」という鞍上の言葉が全てだろう。

一方、人馬ともに重賞初制覇の期待がかかった安藤洋一騎手のクライオジェニックは、追い上げ届かず2着。「思ったよりもペースが遅かったですね。でも、力は出し切ってくれたし、悔いはないです」と納得の表情で話した。スローをみずから動く形になったが、あのタイミングで動かなければ2着もなかった可能性が高い。エスポワールガイと森騎手が支配したレース展開のなかで、最善を尽くした騎乗だった。

3着には昨年のNARグランプリ2歳最優秀牡馬のナッジ。もうひと押し、というレースが続くが、矢野貴之騎手は「動きは改善されているし、現状ではこの馬の走りはできています。今までで一番いい走りだったと思いますよ」と前進を口にした。今回はペースが向かなかったが、この馬自身の末脚は発揮できていた。今後も展開が鍵を握ることになる。

勝ったエスポワールガイは、この勝利で距離選択の幅が広がった。「次走は未定だけど、おそらくアフター5スター賞、戸塚記念、ダービーグランプリのどれかになると思う」と市村調教師もうれしい悩み。気性面の課題さえクリアできれば、全国で持ち前のスピードを披露してくれるに違いない。

取材・文大貫師男

写真早川範雄(いちかんぽ)

Comment

森泰斗騎手

前走は速い流れのなかで引っ掛かっていたので、前半にいかに力を使わせないようにするか注意していました。道中は馬の気配がするたびに反応していたので、なんとかなるのではないかと思っていました。距離が延びたぶん“切れた”という印象はないですが、我慢してじわっと伸びてくれました。

市村誠調教師

森騎手には流れを見て騎乗してくれと伝えていましたが、スローペースだったので、ちょうどいいかなと思って見ていました。ここ1、2カ月で馬が変わってきていて、9キロの馬体増も成長分。1800メートルまでこなしてくれたので、状態を見て一番いい条件のレースを使っていこうと思います。