3年ぶりにワールドオールスタージョッキーズ(WASJ)が帰ってきた。モレイラ旋風を巻き起こし、永森大智騎手(高知)がJRA初勝利と総合3位入賞、そしてミシェル・フィーバーを演出するなど、これまで印象的なシーンを紡いできたWASJ。新型コロナウイルスの影響で2020年、21年と2年連続で中止されたが、世界的にウィズ・コロナの時代へ突入したことなどもあって待望の開催を迎えた。
従来は前夜にウェルカムセレモニーが行われていたが、今年はWAS選抜(外国騎手・地方競馬代表騎手チーム)の騎手のみ記者会見が行われ、岡部誠騎手(愛知)も出席。「全国にはいろいろな競馬場があり、中には小さな競馬場もありますが、そこにいる人たち全ての思いを背負って戦うつもりです」と話した。地方競馬ジョッキーズチャンピオンシップ優勝で掴んだWASJへの出場権。大きな舞台での戦いとなるが、日々、夜明け前から調教をつけ、競走馬が1日でも長く輝けるよう奮闘する仲間たちの思いを全身で受け止めていた。
初戦は見せ場たっぷりの2着
1日目は強風でマークシートが吹き飛ばされるほどだったが、オープニングセレモニーは多くのファンが集い、岡部騎手が登場するとひと際大きな拍手が送られた。
「気持ちよかったですねえ。勝ってもいないのに、思わずガッツポーズをしてしまいました(笑)」と、右手の拳を力強く握った。
岡部騎手の強みはJRAで19勝を挙げ、芝のレースも7勝と経験のあること。また、札幌競馬場はダートコースで地方競馬が開催されていた07年などに騎乗したことがあった。
それゆえ、芝1200メートルの第1戦から期待が寄せられた。騎乗するのはA評価で2走前に3着の実績のあるスマートルシーダ。スタートダッシュがひと息のレースも見受けられたが、岡部騎手は五分にスタートを決めて中団後ろにつけた。4コーナーで加速し、直線で外から伸びてくると、「これは!」と思わせたが、さらに外から鋭く伸びてきたのは武豊騎手。「並ぶ暇もなく交わされました」と相手の差し脚が断然ではあったが、1馬身半差の2着に入った。「序盤はあまりプッシュせず、馬のリズム良く走らせて、少し早めからゴーサインを出しました。馬はがんばって走ってくれましたし、力を出してあげられたかなと思うので、その点では満足しています」と、20点を獲得した。
第2戦は3勝クラスに昇級後は全て8着以下というリーピングリーズン。しかしながら調教では動いており、展開や乗り方によっては一発を期待させる馬で、4コーナーでは先頭に迫るシーンもあったが、直線で失速して12着。勝ったのは外から伸びた川田将雅騎手で、「乗り難しいタイプの馬ですが、よく我慢してくれました」と話した。
岡部騎手は「レースを見て、『伸びず、バテず』という馬なのかなと思い、ある程度のポジションを取りに行きました。しっかりいいフォームで追えたと思うので、悔いはありません」と振り返った。
1日目を終えて暫定順位は4位。十分表彰台を狙える位置につけた。「久々に芝のレースに乗って、1鞍目は体にいらない力が入っていて、自分なりの乗り方ができませんでした」と、やや悔いも残る内容だったよう。外国人ジョッキーにはエキストラ騎乗が認められていたものの、岡部騎手は規定によりエキストラ騎乗が不可というハンデもあったことだろう。だからこそ、「明日の方が体が動くんじゃないかなと思います」と期待を高めた。
思惑通りにいかなかった2日目
ところが、2日目はあともう一歩、噛み合わないレースが続いた。第3戦は「前に壁を作って、馬込みで競馬をしてほしい」と陣営からのオーダーだったが、大外枠で馬群に入るタイミングがなく、終始外目を追走。それでも4コーナーでは先頭に並びかけたが、単勝1.5倍に支持された松山弘平騎手の差し脚には敵わずに4着だった。なお、武騎手とテオ・バシュロ騎手(フランス)の騎乗馬はゲート裏で馬体検査ののち競走除外となり、規定により6点が与えられた。
重賞・キーンランドカップGIIIを挟んで迎えた第4戦は、専門紙によっては本命の印がいくつか並ぶ馬。というのも、当初騎乗予定だったサウンドレベッカ(C評価)が出馬投票直前に回避し、スカイフォールが補欠から繰り上がりとなったためで、同馬は前走で1頭抜けた末脚を見せて勝っていた。ところが、ゲートが開いた瞬間、やや立ち上がる格好となり出遅れ。それゆえ、「上手く流れに乗れませんでした」と、ロスなく回ったものの11着でゴールした。
なお、3コーナー付近でデヴィッド・イーガン騎手(イギリス)が競走を中止し、勝ったのはバシュロ騎手。「3番の馬(川田騎手)の後ろにつける作戦通りに乗ることができました」と会心の騎乗だったようで、ゴールの瞬間に大きなガッツポーズを見せ、JRA初勝利の記念撮影では、ガールフレンドでWASJにも出場のコラリー・パコー騎手(フランス)がプラカードを持った。
さらなる成長誓う総合6位
2日間を終えて、岡部騎手は総合6位。最終戦を前に暫定1位だった松山騎手は第4戦が中団から9着で、その前にいた暫定2位の武騎手が同3位の川田騎手を交わした瞬間、優勝が決まった。武騎手の優勝は前身のワールドスーパージョッキーズシリーズを1992年に優勝して以来30年ぶり。「(前回の優勝時は)まだ生まれていない人もいると思うので、恥ずかしいです」と笑ったレジェンドは歴代最年長での優勝ともなった。また、チーム対抗戦ではJRA選抜チームが勝った。
岡部騎手は表彰式を終えると、「6位は中途半端ですね(苦笑)。せっかく地方代表で来させてもらっているので、もう少し上の表彰台を、という思いがありました。結果に満足はしていませんが、これも自分の実力と思い、もう一度がんばりたいです」と前を向いた。
岡部騎手にとっては外国人ジョッキーと交流を深める機会ともなったようで、クレイグ・ウィリアムズ騎手(オーストラリア)とは彼が短期免許で来日していた頃にJRA京都競馬場や阪神競馬場で一緒に騎乗し、親交があった。それゆえか、金曜夜の記者会見で岡部騎手が意気込みを聞かれて答えた後、ウィリアムズ騎手が「岡部騎手は武豊騎手のファンなんです」と横から追加情報を入れたり、1日目のオープニングセレモニー前には談笑する姿も見られた。
また、ジェームズ・グラハム騎手(アメリカ)からは彼のレース映像を見せてもらうなど「片言の英語ですけど、ジョッキー同士のコミュニケーションの取り方で仲良くさせてもらいました」とのこと。マカオや韓国で騎乗してきた経験が生きただろうし、この経験はこれから大きな糧となるはずだ。
「この2日間、数字だけを見ると威張れるものではありませんでしたが、騎乗の仕方は地方のジョッキーとして恥じることないものができたかなと思います。この経験を地元や地方競馬に持って帰って、みなさんにいい騎乗をお見せできるよう、ひと回りもふた回りも成長したいです」
表彰台には上がれなかったが、1日目からワクワクさせるレースを見せた岡部騎手。名古屋競馬初の4500勝ジョッキーはこれからも我々を魅了するレースを見せてくれることだろう。