直線二枚腰の粘り発揮
課題克服し飛躍期す
東京記念は、1964年創設から距離は2400メートルのまま。歴代優勝馬を見ると、コンサートボーイ、マキバスナイパー、ネームヴァリュー、ボンネビルレコード、サウンドトゥルーが、大井2000メートルのGI/JpnIを制している。その他、東京ダービー馬のプレティオラスや、金盃を勝った実績のあるルースリンド、そしてマーキュリーカップJpnIIIを制したユーロビートら、2000メートルのタイトルを持つ馬が2度制覇している。ダートのチャンピオンディスタンスと言われる2000メートルを制す者は、その距離を乗り切るためのスタミナと精神力が求められる。施行条件にブレがない東京記念は、実績馬が目標にしやすいことも、レースの価値を高めている。
大井の長距離戦で、個人的に強烈な印象に残っているのは、2001年大井記念だ。現在の大井記念は2000メートルで施行されているが、当時は東京記念と並ぶ伝統の長距離重賞だった。イナリコンコルドが向正面までは淡々と逃げていたが、3コーナー手前からドラールアラビアンが仕掛け、イナリコンコルドは突っ張る形で先頭を譲らない。的場文男騎手のスパートは失敗したかと思ったが、一旦息を入れ直し、ドラールアラビアンが差し切った。
スピード志向となってきた近代競馬だが、長距離戦は馬の能力のみならず、騎手の駆け引きが面白い。オールドファンは、レース前に展開を読む楽しみもある。“静”から“動”を、見事に映し出したレースとして、01年大井記念は記憶に残るレースだ。その大井記念で、2番人気ながら6着に敗れたマキバスナイパーだったが、帝王賞GIでビッグタイトルを制し、東京記念も優勝。この年、創設されたJBCクラシックGIで、レギュラーメンバーに迫る2着と、地方馬の意地を見せた。
今年の東京記念も、スタミナ自慢の15頭が出走。2400メートルは、スタートしてすぐ3コーナーを迎えるので、慎重に序盤は進む。2番手パストーソ、その外にいたランリョウオーも掛かり気味に進むペースは、前半5ハロン64秒8だった。このペースでも、出遅れて最後方を進むサトノプライムまで、前半5ハロン標で3秒7差の縦長。
2周目2コーナーを迎えたところで、レースは動く。サトノプライムが仕掛けて馬群は凝縮し、2秒1差と縮まった。先行勢はペースアップを迫られ、ランリョウオーも2周目に入れば折り合いがついていた。セイカメテオポリスは3コーナーで上手く内に潜り込み、直後にいたフレッチャビアンカも虎視眈々と前を狙う。マンガンは、ペースアップしたところで少し置かれてしまい、厳しい状況だった。
直線に入ると、押し出される形で先頭に立ったランリョウオーを巡り、直線で外に持ち出したセイカメテオポリスとフレッチャビアンカが迫る。「前より後ろを警戒していた」と、レース後に本橋孝太騎手は話していたが、鞍上の思いが伝わったランリョウオーの驚異の粘りで、大井記念から重賞連勝を飾った。
小久保智調教師は、折り合い面の課題をレース後に挙げ、「大きな目標は来年」としたものの、浦和記念JpnIIを、次なる目標に掲げた。東京記念の経験は、チャンピオンディスタンスの戦いで確実に活きてくる。勝利から見える課題を徐々に克服し、地元のビッグレースでJRA勢を迎え撃つ。
取材・文古谷剛彦
写真早川範雄(いちかんぽ)
Comment
小久保智調教師
現時点で、万全の状態に仕上げたつもりでしたが、長距離戦に挑む上で、今回も折り合い面の課題が見えたことから、もう少し調教を攻めた方が馬は楽だったのでは……と感じました。直線でのランリョウオーの頑張りは、頭が下がる思いです。大きい目標は来年に置き、浦和記念を目指すことを考えています。
本橋孝太騎手
レースでは、馬の気分を害さないよう、リズムを重視した運びを心掛けました。直線でセイカメテオポリスに交わされるかと思った瞬間はありましたが、凄い根性を見せてくれました。ランリョウオーはもちろん、常に良い状態に仕上げて、レースに挑む厩舎の方々にも感謝しかありません。