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JBC2022 総括


クローズアップ

2022.11.18 (金)

盛岡では8年ぶり3回目の開催となったJBC競走。当日は途中から雨模様になるあいにくの空模様になったものの、最終レースまで多くのファンの皆さんで賑わった。

そのおかげで1レースあたり・開催1日あたり・1開催あたりの3つの項目で岩手競馬の発売成績レコードを達成。岩手競馬の歴史にとって、また“ポスト・コロナ禍のJBC”にとってひとつの画期となったのではないだろうか。

賑わいを見せた競馬場

2022年11月3日、JBC開催当日の朝6時過ぎの盛岡駅西口バス乗り場。競馬場に向かうバスの第1便は午前8時発車予定となっていたが、バス乗り場には既にバスを待ち列を作るファンの姿があった。

前回の2014年盛岡JBCの時も同様だったが、今回も盛岡駅と競馬場をつなぐファン優待バスを大幅に増便して来場者に対応する計画。競馬場に向かう前に盛岡駅に立ち寄ってみたのは、乗り場の様子をちょっと見ておこうか・・・くらいの気持ちだったのだが、発車2時間も前に、バス1台分ほどのファンの皆さんが待っているとは、自分もそこまでは想像していなかった(のちにうかがったところでは前夜から待っていた方もおられたとの事)。

便毎・時間毎の細かいデータは目にしていないが、行き帰りとも時間帯によっては積み残しが発生するほどの混雑になり臨時便も多数運行されたという。

また、自家用車による来場も多く、14時半頃には場内の駐車場が満車に、16時頃には臨時駐車場(近隣の公園等の駐車場を利用。競馬場とはシャトルバスで結ぶ)も満車になっている(※いずれも岩手県競馬組合調べ)。

コロナ禍の前、2019年の浦和開催では入場人員2万9191人(主催者発表。以下同じ)だった。それが“コロナ後”の2020年大井では事前抽選制による777人になり、2021年金沢は前年同様の事前抽選での1300人にと、この2年のJBCは入場者数が制限されていた。

今回の2022年盛岡では指定席こそ抽選発売とされたものの一般入場は実質的に制限無し(当初入場券は事前発売のみとアナウンスされていたがのちに当日発売も実施。また岩手競馬サポート団体の『盛岡・愛馬の会』『奥州愛馬の会』会員、シニア層向けサービスの『シニアカード会員』は会員証での入場可能)。JBC当日の最終的な盛岡競馬場入場者数は1万730人、実はこれは前回の2014年開催の1万331人よりわずかながらも上回っている。

2002年の盛岡JBCのそれは1万4287人と発表されており、さすがにそれには及ばないにしても、“コロナ禍以前”の前回開催とほぼ同数の入場者数となったのは軽い驚きだった。

全世界的なコロナ感染拡大の影響で日本だけでなく世界の競馬場でも無観客開催が長く続いていたものが、ここにきてようやく以前に近い賑わいを見せるようになってきた。まだまだ油断はできないだろうが、今年の盛岡JBCが“競馬の祭典”JBCが以前の形に戻っていく手がかりに、あるいはきっかけになったのではないかと感じる。

JBC競走3レース+芝重賞2レース、賞金大幅増額も

今年のレース体系が発表された頃に遡る。JBC競走当日に2歳芝の『ジュニアグランプリ』、古馬芝の『岩手県知事杯OROカップ』の二つの芝重賞を併せて行うという予定が公表された時、地元ファンだけでなく全国の注目をも集めたのではないだろうか。

“JBC当日に他の重賞も設定する”事は実はこれまでのJBC盛岡開催でも行われている。

例えば前回の2014年はJBC3競走の前後に3歳馬の重賞『不来方賞』と古馬芝の重賞『秋嶺賞』が設定されている(※秋嶺賞はこの年だけ重賞として実施)。2002年も、当時はスプリントとクラシックの2レースだったJBC競走の前に3歳馬の芝重賞『オパールカップ』が置かれていた。

“地方競馬で唯一芝コースを併設する”をアピールポイントにしてきた盛岡競馬場ゆえに「JBC+芝」の構成は昔から採ってきた作戦だったともいえる。

それが今年、例年以上の注目を集めた大きな要因は、その芝レースの大幅な賞金増額にあっただろう。

ジュニアグランプリの1着賞金は昨年の400万円から2000万円に。岩手県知事杯OROカップは昨年の1000万円から3000万円に。いずれも今年限りの増額だが、とはいえ後者などはマーキュリーC・クラスターCの1着賞金2800万円を上回るほどなのだからインパクトは大。OROカップにJRA芝重賞並みと言っていい好メンバーが集まったのはその賞金額のアピール度が大きかった・・・という面があったはずだ。

どちらも地方馬による芝の全国交流重賞であり、例年ならそれぞれがメインを張る重要なレースでもあって、そんなレースを前座的位置に置くのはもったいないという声もあった。しかし結果的にはジュニアグランプリが約1億720万円→約1億9600万円、OROカップは約1億2500万円→約2億9100万円へとそれぞれの発売額は昨年から倍増かそれ以上となった。「盛岡競馬場=芝」というイメージをさらに強めた分もあわせ、このレース構成は大成功だったと言っていいだろう。

芝重賞プレイバック/両レースとも遠征勢が上位を占める

ここで二つの芝レースを振り返っておこう。

まずは『ジュニアグランプリ』。遠征勢6頭・地元馬8頭が対する構図となったが結果はその6頭の遠征勢が6着までを占める形に。

JRAの芝レースでの遠征勝利という実績を持っているジョリダム・コスモイグロークが僅差で1番人気を争い他の遠征勢は僅差で3番人気を争っていたのが単勝人気の趨勢。しかしレースを制したのは4番人気のラビュリントスだった。

同馬も夏の北海道シリーズ・すずらん賞に遠征していたが勝ったコスモイグロークから約6馬身差の9着。しかしスタートで不利があったゆえの敗戦であって力負けではないと考えていた田中淳司調教師は前走の知床賞を勝つと次戦にこのジュニアグランプリ挑戦を選択、その見立て通り、芝で優勝経験がある馬達を退けての勝利。

本来の主戦である落合玄太騎手がJBC2歳優駿騎乗のために門別に残り、今回手綱を取ったのは岩橋勇二騎手。初騎乗にも関わらずしっかり勝利へエスコートしてみせ、「結果を出せて本当に嬉しい」と笑顔を見せた同騎手。その大きなガッツポーズとともに印象に残る騎乗だった。

2着ナイトオブバンドは若干スタートが合わなかった事で「もう少し前で競馬をする予定(本田正重騎手)」が中団になり、なかなか外に出せなかったのも影響したか。しかし最後は前を捉えるかと思うほどの末脚を発揮しての2着突入。同馬は前走も盛岡に遠征していてダート1600mの南部駒賞で2着の成績を残していた。そして初めての芝でもこれだけ走れるのなら芝・ダいずれも手応えありということ。今後の展望が拡がる内容だったのではないだろうか。

『岩手県知事杯OROカップ』はJRA重賞勝ちの経験を持つ馬が複数参戦し、1着賞金額だけでなく覇を競うメンバーの話題性も豊富な一戦となった。

こちらも上位を確保したのは、アトミックフォースが優勝したのをはじめ3着までが遠征馬で、地元勢は4着リッジマンが最高という結果に終わっている。

ハナを主張したアトミックフォースがすんなり流れを支配した・・・と思った向こう正面、ロードクエストがマクリを仕掛けたシーンでは場内からもどよめきと共に大歓声。しかしアトミックフォースの鞍上・矢野貴之騎手は慌てず騒がず番手に控えて仕切り直すと4角を回るところで逆襲、再び先頭に立つと今度は後続を寄せ付けず、最後は6馬身差を付けてゴールを駆け抜けた。

7月のせきれい賞優勝以来の実戦となった同馬だったが、暑い夏を乗り越え、距離もより適性に近いという事で山下貴之調教師は休み明けながら前走以上の手応えを持って挑んだ様子。鞍上もロゾヴァドリナとのコンビで盛岡芝1700mの重賞を2勝しており、鞍上・陣営双方の経験が活きた勝利でもあったともいえそうだ。まだ6歳だけに来年以降の盛岡の芝レースでの活躍も期待していいだろう。

ロードクエストは勝った昨年のせきれい賞あるいはOROカップを彷彿とさせるような大マクリ。今年のせきれい賞での大敗の印象が強かったために人気を落としていたのだが、最後に意地と貫禄を見せてくれた形。

そして「昨年のせきれい賞馬」と「今年のせきれい賞馬」の争いに割って入ったのがコズミックフォース。鞍上の本田騎手にとってはジュニアグランプリのリプレイのような結末になってしまったのは悔しいところだろう。しかし3年4ヶ月ぶりの芝であってもクラシック路線に駒を進めたほどの地力は健在。それはこの馬のこの先の選択肢を拡げる事にもなったのではないだろうか。

なお、3番人気に推されていたトーセンスーリヤは競走中に左肩関節脱臼の故障を発生して競走中止、予後不良となった。2020年新潟大賞典、2021年函館記念を制し今年1月の中山金杯でも5着に食い込んでいた実績馬でまだまだこれからの活躍が期待されていただけに残念な結果となってしまった。同馬のご冥福をお祈りします。

JBC競走プレイバック/今年はいずれもJRA勢が制す

JBCの4競走については個別のレースプレイバックがあるのでここでは手短に。

まずJBCレディスクラシック。前哨戦での敗戦にもかかわらずショウナンナデシコが単勝1番人気の支持を集めた。オッズは1.7倍、票数でも2番人気グランブリッジの3倍以上だったのだから圧倒的支持と言っても良かったが、勝ったのは3番人気のヴァレーデラルナ。2着はグランブリッジでショウナンナデシコは3着に終わった。

逃げたのは戦前の予想通りサルサディオーネ。ショウナンナデシコも逃げ馬をマークする3番手に付けたのだが、ヴァレーデラルナが2番手の位置をとって落ち着いた流れに持ち込み、これまでのようにレースの流れを崩しに行くかと思われたテリオスベルがそれに合わせた事でショウナンナデシコがレースの主導権を握るチャンスが無くなった。それでも3着に押し上げてきたのが春の女王の地力であり意地だろう。

3勝クラスを勝ったばかりのヴァレーデラルナはこれが重賞自体初めての挑戦でのJpnI勝利。過去のこのレースの勝ち馬は複数回のダートグレード出走経験を持ち、2019年浦和での優勝馬ヤマニンアンプリメを除いてレディスプレリュードあるいはブリーダーズゴールドカップを前哨戦に使っての参戦という馬ばかりで、これまでとは全く違う臨戦過程からの勝ち馬誕生となった。3歳馬の勝利は2015年ホワイトフーガ以来の2頭目。

JBCスプリント。こちらもレッドルゼルが単勝オッズ2.2倍の断然の人気を集めていたのだが、スタート直後、スタンドからどよめきの声が上がる事になる。そのレッドルゼルが出遅れて最後方からの競馬になったからだ。

こうなってしまえば逃げたダンシングプリンスにとっては自らの走りに専念すれば良いという展開。ゴール寸前こそリュウノユキナが迫ってきたがなんとか食らいつくまでで、3/4馬身の差に危なげは無かった。

2着リュウノユキナ、3着ヘリオスは結果的には道中の2番手・3番手の位置が入れ替わっただけ。レッドルゼルも上がり3ハロン33秒5という強烈な末脚を見せ、結果4着ではあったがこの馬の走りは貫いた。

門別でのJBC2歳優駿は前走の勝ち方が目を惹いたエコロアレス・ナチュラルリバーが上位人気の一角を占めたものの1番人気ベルピットをはじめ他の人気上位には地元ホッカイドウ勢が並んだ。ここまで切磋琢磨しあってきた地元勢が優勢、勝利を手にするのもその地元勢のいずれか・・・と見るのが自然と思われたのだが、勝ったのはJRA馬、それも9番人気のゴライコウだった。

中団から外目を淡々と押し上げてそのまま押し切ってしまったゴライコウだが、早い段階から脚を使い始めて最後まで後続を引き離し続けているのだから人気薄のフロック勝ちと見なすのは現時点では早計。次戦以降でどんな戦いを見せてくれるか?に注目したい。

盛岡でのJBC3競走の中で一番力関係が量りづらかったのがJBCクラシックだった。チュウワウィザードの突然の引退を始め有力馬の自重・回避も相次ぎ、出走メンバー中で昨年のJBCクラシックにも出走していたのはテーオーケインズ一頭のみ。顔ぶれを大きく変えての一戦となった。

それだけにそのテーオーケインズが1番人気に応える完勝を果たした事はまさしく画竜点睛。レースも万全かつ盤石、JBCのクライマックスにふさわしい走りで締めくくってくれた同馬には心からの敬意を表するとともに感謝したい。

今年のJBCを見て感じるのはやはり「世代交代」というワードではないだろうか。JBCレディスクラシックは3歳馬がワン・ツー。JBCクラシックでも3歳馬が2着・3着に食い込んだ。

例えばJBCクラシック。3歳馬が上位に入る事自体は珍しくなく、2002年の盛岡JBCではアドマイヤドンが制してもいるのだが、複数同時に上位に入ったのは今回が初めて。次の世代の台頭の予感・・・というと気が早いかもしれないが、そう考えたくなる今年のJBC競走だったのは間違いない。

岩手競馬史上レコードが並んだ売上成績

JBCの各競走の売上金額は以下のようになった。

レース名 2022年売上
クラシック 2,500,491,500円
スプリント 1,951,771,300円
レディスクラシック 1,474,655,100円
2歳優駿(門別) 946,243,600円
JBC競走合計 6,873,161,500円

JBCクラシックの発売額は岩手競馬の1競走発売額レコードに、またJBC当日の1日発売額、JBCを含む1開催発売金額もそれぞれレコードとなった。

JBC競走それぞれの発売額では、クラシック・スプリントは2020年大井開催を超えなかったがレディスクラシックはそれを超えて同レースとしてのレコードに。

門別を含むJBC4競走の合計でも、2020年大井には及ばなかったものの昨年の金沢開催時より約9億円増加。コロナ禍にあって長く続いてきた売り上げ増傾向にも頭打ち感が見えつつあった昨今を思えば、JBC競走・JBCデーの売り上げ面でのポテンシャルはまだまだ大きいものがあった・・・という結果だったのではないだろうか。

来年、2023年のJBCは3年ぶりになる大井と2歳優駿が継続する門別の組み合わせ。売り上げ面の期待だけでなく、今年以上の賑わいのある祭典の復活に期待したい。

取材・文 横川典視

写真 いちかんぽ