web furlong ウエブハロン

地方競馬のオンライン情報誌ウェブハロンPresented by National Association of Racing

Copyright(C) 1998-NAR.All Rights Reserved.


マンダリンヒーローの挑戦


クローズアップ

2023.4.6 (木)

TCK大井からサンタアニタへ
 マンダリンヒーローの挑戦

サンタアニタダービーへの切符

TCK大井競馬場が、アメリカ西海岸のサンタアニタパーク競馬場と友好交流提携したのは1995年8月。これを記念し、同年9月には西海岸をベースに活躍する2名の騎手を招待し、第1回日米騎手友好競走が行われた。

96年3月にはサンタアニタパーク競馬場で第1回東京シティカップを実施。その後、同レースは開催時期や距離などの変更があり、現在ではダート12ハロン、4歳以上のG3の重賞として9月下旬から10月上旬に行われている。また同年、大井競馬場ではそれまで関東盃として行われていた重賞をサンタアニタトロフィーに名称変更し、現在に至っている。

2011年には東京大賞典が国際GIとして実施されるのに先駆け、その年限り、サンタアニタトロフィーを国際交流競走とし、西海岸から1頭の遠征馬を招待して争われた。

そしてサンタアニタパーク競馬場で行われているサンタアニタダービーGIに『サンタアニタダービーポイント』が設定されたのは18年のこと。大井競馬場で行われる2歳戦や、大井を含めた南関東の2・3歳重賞、全国の2・3歳のダートグレード競走の1・2着馬にそれぞれポイントを設定し、合計200ポイント以上、もしくはそれに匹敵すると認められる上位馬(大井所属馬に限る)に、サンタアニタダービーの出走枠(最大2頭)が設けられた。

今回、デビューから4連勝でハイセイコー記念を制し、雲取賞でも2着に入ったマンダリンヒーローが270ポイントを獲得。大井所属馬としてのみならず、地方競馬の所属馬として初めてアメリカに遠征することになった。

遠征を前に、サンタアニタダービー挑戦に至る経緯や意気込みなどを、マンダリンヒーローを管理する藤田輝信調教師にうかがった(インタビューは3月31日)。

5年目に巡ってきた遠征のチャンス

2010年に調教師デビューした藤田調教師は、早くから外国にも目を向けていた。はじめて大井と韓国との交流競走が実施された2013年、ソウル競馬場で行われた韓日競走馬交流競走にビッグガリバーで遠征(5着)。さらに15年にもソウル競馬場で行われたアジアチャレンジカップにタイセイレジェンドが遠征(9着)した。

そして今回のマンダリンヒーローでは、初めてサンタアニタダービー挑戦が実現するが、じつはサンタアニタダービーポイントが実施された初年度から管理馬での遠征を目指していた。

「(18年の)ハイセイコー記念を勝ったラプラスが180ポイントだったんです。200ポイントには足りなかったんですが、候補にはなっていて、行きたいと言えば(サンタアニタダービーに)行ける可能性はあったと思います。ただオーナーズクラブの馬で、(代表の)吉田勝己さんに話したところ、『オーナー全員を説得できるなら』ということだったんですけど、結局まとめることができませんでした。そのとき(19年)のサンタアニタダービーが6頭立てだったんです。レベルはどうかわからないですけど、出ていれば着くらいはあったんじゃないかと思って、その後悔がずっとありました。個人の馬主なら可能性はあるんじゃないかと思って、その後はサンタアニタに行けるような2歳馬を必死に集めました。この年(現3歳世代)もかなり本気になって、十何頭集めたんです」

その中の1頭がマンダリンヒーローだった。ハイセイコー記念まで4連勝で210ポイント。その時点で、サンタアニタダービー出走の200ポイントをクリアしていた。

「早い時期から活躍してくれて、ハイセイコー記念さえ勝てば行けると思っていました。馬主さんも最初は乗り気だったんですけど、最終的には『雲取賞を勝つようなら行きましょう』と言われていて、2着。一度は『やめましょう』と言われたんです。それでも、僕は行きたいですという気持ちをはっきり伝えて、サンタアニタダービーの賞金や、遠征費用は主催者(特別区競馬組合)が負担することなどを書面にして送って、最終的に主催者も交えて話をしたら、『行きましょう』ということになりました」

ちなみに、検疫施設(出国検疫は大井競馬小林牧場、入国検疫は地方競馬教養センター)のコースの消毒や、警備員などの人件費がかかるが、これらは地方競馬全国協会から支給される補助金でまかなうとのこと。

体調万全で現地へ

「3月17・18日に、サンタアニタパーク競馬場に視察に行って、調教での馬場の使い方など、現地でのやり方を見てきました。(検疫中の)小林でも、サンタアニタでの調教と同じように、外ラチ沿いを右回りでダクを踏んで、走りたいところからUターンして左回りに真ん中あたりをキャンターして、追切りのときは内側に入れるという調教をしました」

3月22日に小林牧場で輸出検疫に入り、3月29日に成田空港から出発。ロサンゼルス空港には同日(日本時間30日)に到着。空港の横にある検疫所に48時間に滞在し、現地時間31日の午前中にサンタアニタパーク競馬場の国際厩舎に移動している予定だ。日本からは堀田優志厩務員が帯同している。

「厩舎からはひとりなんですけど、USエクワインという馬輸送のエージェントの会社が全面的にサポートしてくれて、通訳から馬も扱える人がひとり、日本から現地までずっとついてくれています。マンダリンヒーローは、小林の検疫で1頭だけになってもまったく気にしなかったようで、しっかり餌も食べてくれて、出発前には10キロくらい増えていました。飛行機の中でも、乾草をしっかり食べて、水もたくさん飲んでいたと聞いています。おそらく体調は大丈夫だと思います」

鞍上はカナダで活躍する木村和士騎手

アメリカのダート競馬といえば、スタートから飛ばしていって、バテた馬から脱落していくという印象だが、そうしたアメリカの競馬に向けた調教はしているのだろうか。

「普段どおり、自分の競馬に徹していけば、と考えています。今回の出走予定メンバーを見ると、それほど行く馬がいない。控える馬が多い感じです。だから流れもそれほど速くはならないと思います。マスターフェンサーのケンタッキーダービー(19年)も、うしろから行って、最後に伸びて6着だったじゃないですか。去年のケンタッキーダービーでも、うしろにいたリッチストライクが全馬を抜き去るような勢いで伸びてきたので、それほど向こうの競馬に合わせることもないかなと感じています。そういうところは木村君のほうがよくわかっていると思うので、よく話して、木村君の意見を尊重しようと思っています」

木村君とは、鞍上を予定している木村和士騎手。18年にカナダ・ウッドバイン競馬場でデビューし、カナダの年度表彰・ソヴリン賞では2年連続で最優秀見習騎手賞を受賞。21、22年には2年連続でカナダのリーディングとなった。この冬はサンタアニタパーク競馬場で騎乗し、3月4日には芝のG1、フランクE.キルローマイルSをゴールドフェニックスで制するなど、いま北米で注目されている23歳の日本人騎手だ。

「もともと彼のお父さん(木村忠之氏)は古くから知っているんです。僕が武田ステーブルで働いているときに、お父さんは谷川牧場で働いていて、浦河のBTC(軽種馬育成調教センター)でよく会っていました。その後、BTCの近くで育成牧場を開業されて、僕が厩舎を開業したときにもいろいろ助けていただきました。木村(和士)君とも、ウッドバインで活躍を始めたころからSNSでやりとりしていて、マンダリンヒーローの遠征が決まってすぐ、2月下旬に(騎乗を)お願いしました。先日、サンタアニタに視察に行ったときに初めて会ってきました。サンタアニタダービーの翌々日にはウッドバインに戻るということで、ちょうど奇跡のようなタイミングでした」

目標はケンタッキーダービー

サンタアニタダービーのあとは、もちろんケンタッキーダービーへという目標もある。

現在、ケンタッキーダービーは、2歳・3歳のステップレースに設定された『ケンタッキーダービーポイント』上位馬から出走できる。ドバイで日本馬が上位4着まで独占したUAEダービーも、サンタアニタダービーも、1着から5着まで100-40-30-20-10ポイントという、ステップレースとして最高のポイントが設定されている(同最高ポイントは、ほか米国に6レース)。

1着の100ポイントを獲れば確実で、2着の40ポイントでも例年ほぼ出走可能。昨年、最低人気(現地オッズ)ながらケンタッキーダービーを制したリッチストライクは21ポイントで補欠1番から繰り上がりでの出走だったから、3着の30ポイントでも出走できる可能性はある。

「もし(ケンタッキーダービーに)出られなくても、(二冠目の)プリークネスステークス(5月20日)もアリじゃないかという話をオーナーからいただいています。プリークネスステークスも最近は少頭数になることが多いので、可能性はあると思います」

最後に、サンタアニタダービーへの意気込みをうかがった。

「自分の競馬に徹すれば、結果も出せると信じています。まずは1着か2着を目指して、ケンタッキーダービーに出走できるようにがんばりたいですね。主催者がこれだけ費用を出してくれるのも、ファンの皆様が応援してくださるおかげなので、ほんとうに感謝しています」

取材・文 斎藤修 

写真 特別区競馬組合・いちかんぽ

※記事の内容に一部事実とは異なる表現がありましたため、再編集のうえ、掲載しております(2023.4.7)