苦しい逃げでも直線独走
秋につながる重賞初制覇
今年のビューチフルドリーマーカップは7頭立て。2010年に、グランダム・ジャパン古馬シーズンに組み込まれて以降、最少頭数で行われた。遠征馬は最大6頭に対し、地元岩手はミツカネラクリスの1頭のみ。
寂しい印象をぬぐえなかったが、理由は過去の足跡にある。初年度10年こそ地元マイネベリンダが逃げ切ったが、以降は遠征馬が12年連続で優勝。岩手勢が馬券対象を果たしたのは18年(優勝ジュエルクイーン)の3着アリッサムが最後。以降の上位3着まではすべて遠征馬で、20年に至っては6着までを独占。及び腰になるのもやむなしだった。
現在、岩手のナンバーワン牝馬は言わずと知れたゴールデンヒーラー。ビューチフルドリーマーカップのトライアル・フェアリーカップを圧勝したが、テーマは別にあった。シアンモア記念6着、一條記念みちのく大賞典8着。地元同士の戦いで初めて着外に沈み、陣営はショックを隠せなかった。それゆえフェアリーカップは背水の陣で臨んだ一戦。仮に負けてしまうなら、引退も選択肢に入っていたそうだが、見事復活した。
レース後、佐藤祐司調教師の「ゴールデンヒーラーのレースで、こんなにハラハラしたのは初めて。圧勝してくれてホッとした」は偽らざるコメント。続けて「本質的にマイラーだと思っている。昨年同様、青藍賞から南部杯へ挑戦したいと思っています」
昨年、ゴールデンヒーラーはマイルチャンピオンシップ南部杯JpnI・5着。メンバー最速タイの上がりを使って健闘し、我々も着順掲示板に『14』の数字が点灯するのを見て興奮、感動した。陣営は昨年、いや昨年以上の夢を追いかけている。
だが、あくまでもエクスキューズ(言い訳)。来年、ビューチフルドリーマーカップは区切りの50回目を迎える。フルゲートでの戦いを期待したい。
今年は3年ぶりに水沢が舞台だったが、過去は1900メートルで実施され、水沢2000メートルは今回が初めて。翌週(9月5日)の秋桜賞=名古屋1700メートルとの違いが鮮明となり、各陣営とも選択理由の一つにあげていた。
逃げたのはノーブルシルエットだった。「逃げても良かったし、2番手でも良かったが、前回(フリオーソレジェンドカップ10着)のことがあったので、行ければ行こうと思っていた」(笹川翼騎手)。2番手にティーズハクア、3番手外にレスペディーザ。
ノーブルシルエットがマイペースの逃げに持ち込んだが、ティーズハクアが並びかけてプレッシャーをかける。「スローだったが、息が入らなかったのでペース以上に展開は楽ではなかった。でもこれで負けるようでは次はないと思った」(笹川騎手)
3コーナー手前からペースが一気に上がり、ティーズハクアの手ごたえが徐々に怪しくなる。替わって離れた4番手インを追走したサルサレイアが徐々に進出したが、セーフティリードをキープしたノーブルシルエットが3馬身差でゴール。JRAダート4勝の実力を見せつけ、大井移籍3戦目で初重賞を手にした。
笹川騎手は強さを誉めつつも「実績を考えるとメンタル面、体の使い方とかまだ物足りない」。しかし、こうつけ加えた。「逆に言えば伸びしろがあるということ。地方ダートも合うと思います」
次のターゲットはレディスプレリュードJpnII。ノーブルシルエットの“伸びしろ”を注視したい。
取材・文松尾康司
写真佐藤到(いちかんぽ)
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佐野謙二調教師
名古屋(秋桜賞)も考えていましたが、水沢のビューチフルドリーマーカップを選びました。レース間隔が詰まってしまいましたが、距離が長い方がいいタイプですからね。今日の内容を見ると小回りの方がいいかもしれませんが、次走はレディスプレリュードを予定しています。
笹川翼騎手
3コーナーで2番手の馬を離したので、前回よりも走り切れると思いました。今日は牝馬同士の戦いでしたし、手ごろな組み合わせでしたが、勝ててホッとしました。矢野さん(貴之騎手)から重大なバトンを受けましたからね。その分もしっかりと取り組んでいきたいと思っています。