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第55回不来方賞

早め先頭から直線独走
  無敗牝馬の三冠を阻止

今年の不来方賞は、牝馬ミニアチュールの“三冠”達成なるかに注目が集まった。北海道から岩手に転入後7戦7勝。牡馬も相手にしてダイヤモンドカップと東北優駿を優勝。今年の不来方賞は東北優駿と同じ水沢開催となったこともあって信頼度がより上がり、単勝式で約72%、1.1倍の支持を集めた。

しかしレースは最後の直線を待たず、歓声の中にため息が混じりはじめた。逃げの手に出たミニアチュールに対しマツリダワールド、リッキーナイトが僅差で追走。緩みのないペースにミニアチュールが苦しくなり3コーナーで後退、早々と三冠達成が絶望的になったからだ。

先行3頭の脚色が鈍ったところへ絶好のタイミングで仕掛けたのが坂口裕一騎手のルーンファクター。ゴール寸前で差し切ったやまびこ賞と違い、残り400メートルのところで早々先頭。最後の直線では後続を離す一方の圧勝劇となり、7馬身差の2着には粘ったマツリダワールド。ミニアチュールはセイグッドラックにも後れを取って4着と敗れた。

ルーンファクターは前走のやまびこ賞が転入初戦だったが、当時千葉幸喜調教師は「厩舎へ来た時は全く感じるものがなくて、仕上がりも7分程度。全く自信なんかなかった」というほどだったが、実戦では見事な直線一気。これで意を強くした陣営は、今度は暑い夏の中でもしっかりと調整を続け、「自信の持てる態勢」で不来方賞へ出走。JRAの菊花賞のように、まさに“夏の上がり馬”が岩手の三冠目を奪取する結果となった。

岩手県競馬組合の設立は1964年だが、初めて特定の名称付き競走が実施されたのは1969年。不来方賞典はこの年に駒形賞典、日高賞典、岩鷲賞典、黄金賞典(当年のみ実施)とならんでスタートした。当初は古馬の競走だったが、1974年からはサラ系3歳馬の競走に。途中、地方全国交流重賞となる時期もあったが、今年でちょうど50回、半世紀にわたり岩手競馬3歳の頂点を争う競走として行われてきた。

しかし全日本的なダート競走の体系整備に伴い、ダービーグランプリは今年で終了。この跡を受け不来方賞はダートグレードとなって、JpnIIの格付けを受けることとなった。そのため、岩手競馬の3歳最高峰としての不来方賞は今年が最後となる。

岩手競馬の所属馬は2006年にパラダイスフラワーがエーデルワイス賞GIIIを勝って以来、約17年グレードレースを勝っていない。不来方賞のタイトルが今よりもはるかに高く、遠いものになることは明らかだが、この日ミニアチュールへ後続が襲いかかったように、全国の強豪へ挑み続ける姿勢は持ち続けなければならない。

ルーンファクターはダービーグランプリを目指す。実はこの馬はかなり早くから岩手移籍の話があったとのことで、転入当初から千葉幸喜調教師は「ミックファイアから1秒0差のレース(昨年12月7日、大井・ひばり特別3着)を見て、岩手の相手となら十分戦える」と思っていたという。千葉幸喜厩舎はダービーグランプリ最多4勝を誇るが、中でも2020年に東北優駿、不来方賞、ダービーグランプリと連勝したフレッチャビアンカ(現船橋)を例に挙げ「フレッチャビアンカのように、岩手に来て強くなったといわれるようになりたい」と今後の意気込みを語った。ミックファイアの参戦表明ですでに盛り上がりを見せているダービーグランプリだが、こちらは真の最終回。最終回にするのが惜しいといわれるような、感動のレースになって欲しいと心から願う。

取材・文深田桂一

写真佐藤到(いちかんぽ)

Comment

坂口裕一騎手

道中は先行3頭の後ろ、ミニアチュールを見ながらロスなくレースを進められた。前走は最後方からでしたが、水沢は形状が違うので、3コーナーから徐々にスパート。この馬にいい流れになった。直線を向いてビジョンを見たら、後ろの馬がいないと分かって勝ったなと思いました。

千葉幸喜調教師

転入初戦は7分くらいの出来だったが、今回は十分に乗り込み。馬体重減だけが心配でしたが、それを除けば自信を持てる仕上がり。心配していたスローペースにはならず、あとは自身が伸びるかどうか。坂口騎手が上手く導いてくれました。次走はダービーグランプリ、まずは馬体回復につとめます。