後方から一気の脚で差し切る
松戸騎手は11年ぶり重賞勝利
笠松競馬場のオータムカップは“JBCクラシック指定競走”。同じ日に園田競馬場で実施される姫山菊花賞には、兵庫の中長距離路線の看板馬であるラッキードリームが出走。となれば、兵庫所属の3頭が勝てる可能性が高いのはこちらと考えて遠征してきたのは当然だろう。
対する東海所属馬は、ファルコンウィングが出走取消して、愛知が3頭、笠松が2頭。単勝3番人気まで兵庫が独占したが、勝利を挙げたのは5番人気、金沢所属のトランスナショナルだった。
出走各馬がパドックに入ったところで、愛知のロードランヴェルセが装鞍所に戻ったため、周回したのは8頭。サンライズラポールは2人曳き、フィアットルクスはブリンカー着用、メイプルプリンはシャドーロールを装着していたが、兵庫の3頭とも落ち着いた雰囲気を見せていた。そのうちの2頭は前走で下原理騎手が手綱を取ったが、下原騎手はラッキードリームの主戦。サンライズラポールには岡部誠騎手、フィアットルクスには田中学騎手と、実績がある名手が起用された。
しかし単勝1番人気は、4連勝中の勢いがあるメイプルプリンで2.8倍。サンライズラポールが3.0倍で続き、フィアットルクスが4.8倍で3番人気。前走で名港盃を勝ったナムラマホーホは5.8倍で4番人気に推されたが、2着だったアンタンスルフレは6番人気でも22.2倍という評価だった。
ゲートが開くとサンライズラポールと地元のスマイルはダッシュがつかず、馬群から離れての追走。フィアットルクスとメイプルプリンが先手を争ったが、いったん3番手に下がったストームドッグが1周目の3コーナーで行きたがる形になって先頭に立った。そのスピードは笠松の1900メートル戦にしては速いと感じられるもので、2周目の向正面で早々に失速。2番手を追走したフィアットルクスが先頭に立った。
そのあたりから後続の各馬も差を詰めてきて、4コーナーでは兵庫3頭の戦いという様相に。
最後の直線に入ったところでは追いかけたサンライズラポールとメイプルプリンのほうが苦しくなり、フィアットルクスが押し切り濃厚という手応えに見えた。しかしそこに加わってきたのがトランスナショナル。馬群の外を回って一気に上昇してきた。
トランスナショナルは2周目の3コーナーでも8番手で、最後の直線の入口でも先頭との差が5馬身以上もあったが、ゴール地点ではフィアットルクスにクビ差だけ先着。その瞬間、鞍上の松戸政也騎手の右手が上がり、雄たけびのような声が聞こえてきた。
続く3着には1馬身半差でアンタンスルフレが流れ込み、ナムラマホーホは4着。逃げ先行策を取った馬のなかで最後まで踏ん張れたのは、2着のフィアットルクスだけだった。
後検量が終わったトランスナショナルは、スタンド前の写真撮影場所まで松戸騎手を乗せて歩いてきた。そのおよそ150メートルの間、松戸騎手は満面の笑顔。2012年11月の金沢プリンセスカップ以来、2つ目の重賞勝利なのだから無理もない。表彰台でのインタビューでもその後のファンサービスでもずっと笑顔。うれしくてたまらないという気持ちが伝わってきた。
取材・文浅野靖典
写真築田純(いちかんぽ)
Comment
井樋一也調教師
佐賀の鳥栖大賞が補欠1番手で、姫山菊花賞にも登録しましたが、相手関係を考えてこちらにしました。好スタートを切ると最後に失速するので、後方から差す形を徹底させたことがこの結果につながったと思います。今後はJBCを含めてオーナーと相談しますが、距離が長いレースを選んでいく予定です。
松戸政也騎手
移籍してきてから期待していた馬で、ここで結果を出すことができてよかったです。位置取りは後ろのほうになりましたが、途中でインコースを通ったことが最後の脚につながったのかなと思います。でも4コーナーでは先頭まで遠いなと思いましたね。それでもなんとか間に合ってくれました。