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2023年10月11日(水)

ダート競馬の未来 ~教えて古谷先生~

第3回 古馬・牝馬路線は? 国際化って?

先に発表された『全日本的なダート競走の体系整備』では、中央・地方交流のダート三冠をはじめとして、ダートグレード競走を中心に大幅に体系の見直しが行われました。まもなく始まる新たなダート体系についての疑問や、これから日本のダート競馬がどのように変わっていくのか、古谷剛彦さんに解説していただきました。聞き手は一瀬恵菜さん、司会は小堺翔太さん。最終回となる第3回は、古馬および牝馬路線と国際化についてです。

小堺:古馬のダートグレード競走も主要レースの時期が変わるなど見直しがありました。古谷さん、変更点について教えてください。

古谷:まず短距離路線ですが、一番の変更は、さきたま杯がJpnIになったことです。ダート短距離馬はこれまでJBCスプリントしか目標になる大レースがなかったのですが、6月のさきたま杯がJpnIとなったことは大きいですね。浦和の小回りコースだからこそ、という馬も出てくるのではないでしょうか。

一瀬:かしわ記念に出走した馬もさきたま杯に出走してくる可能性があるということですね。

古谷:もちろんです。

小堺:例えばイグナイターのような1400mが得意という馬にもJpnIタイトルのチャンスが増えたのはいいですね。

古谷:JBCは開催場によってスプリントが1400mになることもありますが、基本は1200mです。芝のGIには1400mがないので、芝の馬が出てくる可能性もありそうです。結果はともないませんでしたが、ビービーガルダンがスプリンターズステークスの後にJBCスプリントに出た例(2009年)があります。そのような流れも増えてくるのではないでしょうか。

一瀬:6月頃は芝1200mで大きいレースがなく、安田記念では長いとなると、ダートのさきたま杯にチャレンジするのは面白そうですね。

古谷:1400m戦は、マイラーもスプリンターも目標にできるので面白いですよね。さきたま杯は、チャンピオン決定戦になり得るレースですよ。

小堺:短距離路線は2・3歳のネクストスターから古馬まで充実しましたね。中長距離路線はいかがですか。

古谷:1月下旬に実施されていた川崎記念が帝王賞の前の4月上旬に移動しました。格の高いレースの時期を変更することで、全国的に体系が整備されています。

小堺:ウシュバテソーロのように川崎記念に出走してドバイに遠征するというパターンは今年が最後ということになりますね。

古谷:新体系では、東京大賞典から世界を目指すという流れになりそうですね。また川崎記念の勝ち方次第では、同じ左回りの中距離戦であるアメリカのブリーダーズカップ(クラシック)を目指すという可能性が出てくるかもしれません。国内に限れば、川崎記念、帝王賞から秋の大レースへ、というのが中距離路線のローテーションになるのではないでしょうか。そして3月上旬のダイオライト記念が川崎記念の前哨戦となり、定量からグレード別定に変わります。また名古屋グランプリが12月上旬から5月上旬に移動しました。川崎記念に出走できなかった馬が目標となるレースになってくるのかなと思います。川崎記念で敗れた馬も出走してきそうです。逆に名古屋大賞典が12月下旬に移動し、3歳以上のハンデ戦に変わります。東京大賞典には手が届かないという馬にとって賞金を加算する舞台にもなるので、翌年の大レースにつながるという意味でもしっかりとした体系になっていますね。

一瀬:春にはサウジやドバイなど海外の大きいレースもありますが、そのあたりの流れはどのようになりそうですか。

古谷:今年はブリーダーズカップ(クラシック)にウシュバテソーロが出走予定ですが、やはり一昨年のマルシュロレーヌの偉業(ブリーダーズカップディスタフ制覇)が大きかったと思います。芝馬は当たり前のように海外を目標にしていて、ダート馬はドバイやサウジというのは目標の1つとしてあったものの、秋にも海外遠征をする可能性が出てきたというのは、いい意味で新体系になってどのような影響があるかですね。

小堺:牝馬路線も整理をお願いできますか。

古谷:まずエンプレス杯が3月上旬から5月上旬に移りました。その前哨戦になるのが兵庫女王盃です。TCK女王盃から生まれ変わった西日本初の牝馬によるダートグレード競走で、4月上旬に1870mを舞台に行われます。そして11月のJBCレディスクラシックに向けて、ブリーダーズゴールドカップが9月上旬に繰り下げられました。クイーン賞は12月上旬から2月上旬に移ります。ハンデ戦という条件はそのままですが、もともとTCK女王盃とエンプレス杯があった時期が空白になってしまうので、そこを埋める形になります。そしてマリーンカップは3歳牝馬限定戦となって4月上旬から9月下旬に移り、定量戦となって距離も1800mに変わります。勝ち馬には優先出走権が与えられるので3歳牝馬はここからJBCレディスクラシックを目指すことになります。

一瀬:ダートの体系整備では3歳路線がメインという感じで話題になっていますが、古馬や牝馬路線もしっかりと整備されていますね。

小堺:そして今回の体系整備では、『国際化に向けた取り組み』ということにも言及されています。古谷さん、これについても説明していただけますか。

古谷:現在、地方競馬で行われている国際競走は東京大賞典と全日本2歳優駿がありますが、国際的に通用する「G」格付は東京大賞典だけ、それ以外は「Jpn」表記となっています。日本は2007年に国際セリ名簿基準委員会のパートI国となりましたが、国際競走でなければ「G」格付は得られず、パートI国としては「Jpn」というグレードの二重表記も問題視されています。そのため地方競馬では2028年から段階的に「Jpn」表記をやめ、すべてのダートグレード競走を国際化することを目指すという発表がありました。「Jpn」表記のレースは、世界的な評価ではすべてグレードより格下のリステッド競走(出走条件に制限のない[L]、または制限のある[LR])扱いとなっています。

一瀬:では世界的に見ると、帝王賞やJBCなどのJpnIからJpnIIIまで、すべてリステッド競走という括りになってしまっているということですね。

古谷:そういうことになります。「Jpn」を「G」格付とすることは、地方競馬だけでなく日本の生産界にとっても非常に重要なことで、世界的な評価の向上にもつながります。

小堺:現状では、JpnIを勝っても世界的にはあまり評価されないということですね。新たなダート三冠はすべてJpnIですが、いずれ「G」格付けとなれば、その勝ち馬は生産面でも世界的に価値が上がるということですね。

古谷:そして「G」表記ではレーティングが重要になります。現状ではJpnIレースを「G」表記にしたときに、必ずしもGIになるとは限りません。一定以上のレースレーティングを維持するためには、カテゴリーを細分化して、その分野のスペシャリストを生み出す必要があります。レーティングが高い馬が上位で混戦になれば、レースレーティングも高くなります。そのために最初の目標となるレースが『ネクストスター』です。ネクストスターからすべてがつながっているんです。

小堺:あらためて、ダート競走の体系整備の意義について、古谷さん、まとめていただけますか。

古谷:パートI国として日本の競馬がやるべきことは、全てのグレード競走を「G」表記にする。そのための体系整備です。なのでこれからはもっと良いレースが見られるようになると思います。僕は北海道をベースに仕事していますが、門別のJBC2歳優駿がさらに素晴らしいレースになるために、『ネクストスター』が次世代の新星が集まるレースであってほしいと思っています。

小堺:あらためて一瀬さんは、今回の体系整備について、どのような感想を持ちましたか。

一瀬:これからどんなダート馬が出てくるか、すごく楽しみになったのと、今までは中央、地方と分けられていた印象がありましたが、ダート路線が充実することで、馬主さんや調教師さんも選択肢が増えるだろうなと思いました。そしてダート馬からも日本を代表するような種牡馬が出てくるとか、先々が楽しみになりました。

小堺:短距離、中距離、牝馬、そして2歳と3歳、いずれも今まで以上に筋が通った路線になって、ダート競馬がより楽しめるような改革になっているような気がします。まずはこの新たな体系に慣れる必要がありますが、地方競馬、ダート競馬がより盛り上がっていけばと思います。古谷さん、一瀬さん、本日はどうもありがとうございました。

構成サイツ

写真NAR