断然人気も薄氷の勝利
今井騎手は最多5勝目
東海優駿と名前は変わっても、“ダービー”は特別な存在。明確な3歳三冠路線のない東海地区にあって当レースは、唯一無二の目標と言える。
騎手・調教師合わせて50年以上のキャリアを持つ今津勝之調教師は、牝馬重賞連勝中のニジイロハーピーを送り込んできた。中間の取材に「まだ勝っていない“ダービー”を勝ちたい」と衒いなく話し、当レースへの“拘り”を吐露した。また、デビュー2年目で初めて当レースに騎乗する大畑慧悟騎手は、当日の心持ちを「本来自分のキャリアの者が乗れるレースではない。特別な気持ちで臨む」と語った。
一方、トライアルである駿蹄賞を圧勝したフークピグマリオンの今井貴大騎手は、この中間、大きな緊張感と不安感に苛まれていた。レース2週前の追い切りで、デビュー時からの課題だった気性面の難しさが出てしまったのだ。同じ頃、疝痛による微妙な体調の揺らぎもあり、当レースを4度勝ったことがある彼をして「いつも以上に調整に神経を使った」と言わしめるほど、ヒリヒリとしたレースまでの時を過ごしていた。
駿蹄賞の時には、ミトノウォリアーやスティールアクターとともに3頭で分け合っていた人気が、今回はフークピグマリオン1強の様相で、単勝オッズはなんと1.2倍。この数字は、馬の関係者は勿論、見る側にとっても緊張感をかき立てた。
レース本番。今井騎手の不安は的中した。フークピグマリオンの行き振りに、前走のスムーズさがなかった。序盤から何度も騎手に促され、2コーナーでは早くも鞭が入った。「周囲のプレッシャーもきつく、なかなか外に出させてもらえなかった」(今井騎手)という包囲網をかいくぐり、最後の直線の入口で外から先頭に立とうとしたその時、フークピグマリオンは首を上げ、外に大きく進路を逸した。再度内へと蛇行する蹄跡を描いて進みながらもその脚勢は衰えず、ゴールでは1馬身半、後続を突き放していた。馬の圧倒的な強さは示した。しかし、最大目標を迎えギリギリの状態で臨んだことで弱点も露呈した“薄氷を踏む”ような勝利は、力のある馬でも勝つことが容易ではない『これがダービー』だということを、強く印象づけた。
2着には、笠松のキャッシュブリッツが入った。管理する笹野博司調教師は、好位でスムースに運べたレース振りを評価しつつ、「3コーナーで先に勝ち馬に行かれたのが勿体なかった」と、無念さをにじませた。渡邊竜也騎手は「3年連続2着。来年こそは勝ちたい」と、当レースへの意欲を新たにしていた。
1馬身半差の3着に入ったニジイロハーピーは、勝負所の3~4コーナーで一旦先頭に立ち、見せ場を作った。大畑雅章騎手は「厩務員のお陰で、前走の反動もなく良い状態で臨めた。並ばれては苦しいので、早めに仕掛ける作戦だった」と明かし、馬の健闘を称えた。なおニジイロハーピーは現在、グランダム・ジャパン3歳シーズンの得点でトップタイであり、優勝をかけて2週間後に行われるシリーズ最終戦・関東オークスJpnII(6月12日・川崎)に挑戦するかどうか、動向が注目される。
今井騎手は、これで当レース5回目の優勝。安藤勝己元騎手の4回(2004年まで実施されていた名古屋優駿などを含む)を抜き、史上最多勝利騎手となった。一方、宇都英樹調教師は、騎手時代から通じて初優勝。「調教師の立場の方が緊張する。今日は(勝って)ウルッと来た」と喜びを表した。
東海地区の3歳路線は、まだいくつかの重賞を残すものの、この東海優駿が大きな区切り。5月20日には、名古屋で今年最初の2歳新馬戦が行われた。来年の“ダービー”を目指す人馬の戦いは、すでに始まっている。
取材・文坂田博昭
写真早川範雄(いちかんぽ)
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宇都英樹調教師
2コーナーで鞭が入っていたので心配になり、お守りを握りしめながら見ていました。転入当初、仕草も幼く腰も緩くまだ課題の多い馬でしたが、ここまで変わるとは思いませんでした。今日の走り振りを見ると、馬は“ガス抜き”が必要。まず一息入れて、今後のことは馬の状態を見て考えていきます。







今井貴大騎手
ここを目標としてやってきたので、ホッとしています。いつものこの馬のレースをと思っていましたが、直線で馬が嫌気を出してしまいました。なんとか勝てて良かったです。ダービーは回数よりもその時々の馬の巡り合わせなので、(5回勝てたのも)周囲によくしてもらっているからこそと思っています。