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2024ワールドオールスタージョッキーズ


クローズアップ

2024年8月24日・25日 JRA札幌競馬場

吉村騎手が5年ぶりの出場
 悔しさをバネに前を向く

 今年は馴染みある顔ぶれとなったワールドオールスタージョッキーズ(WASJ)。8月24、25日の2日間にわたりJRA札幌競馬場で行われる計4戦に海外からは6名が招待され、うち5名がJRA短期免許での来日経験があった。特にジョアン・モレイラ騎手やダミアン・レーン騎手はGIも制覇しており、競馬ファンもよく知るところだろう。

思い通りの騎乗ができなかった初日

地方競馬代表で出場する吉村智洋騎手(兵庫)もJRA騎乗経験者で、2023年7月16日には福島競馬場でJRA初勝利を挙げた。WASJには19年以来2回目の出場で、この5年間の変化をこう語る。

「あの時は前年(18年)に地方全国リーディングを初めて獲ったばかりでした。他のジョッキーの乗り方も勉強しに行きましたけど、あっという間に終わって残念な結果でした。その時よりは余裕がありますし、2回目の札幌騎乗になるので頑張りたいです」

特にJRAのレースは、子息・誠之助騎手が今春にJRAでデビューして以降、毎日じっくり見るようになった。

「札幌は内ラチ沿いを回ると、前が詰まるケースがよく見られますね」

前回出場時には抱いていなかったイメージが一つ、増えていた。

しかし1日目、WASJを前に行ったエキストラ騎乗5鞍のうち第5レースの新馬戦では、先行争いで4頭外になりそうだったため最内に進路を取ることに。そして、4コーナーから直線で懸念していた通り、前が詰まってしまったのだった。「直線で進路が空かないかなと待ったんですけど、前の2頭が同じ脚色で下がってきてしまいました。勿体なかったです」と悔やんだ。

それでも気持ちを切り替えて挑んだWASJ第1戦はショウナンアメリアに騎乗。序盤から促していったが中団からとなり、さらに4コーナーでは前が詰まってスムーズに追えない場面もあって12着。「4コーナーで前がゴチャついた時でも手応えがあったわけではなくて、終始、ハミを取ってくれませんでした」と、ゴールを迎えた。

勝ったのはクファシル。騎乗したカリス・ティータン騎手は、落馬負傷したリサ・オールプレス騎手に代わって急遽のWASJ参戦だったのだが、「マレーシアでの休暇中にWASJ出場の連絡を受け、19年以来の日本での騎乗を楽しみにしていました」との言葉通り初戦から結果を残した。

第2戦の吉村騎手の騎乗馬はコスモフロイデ。B評価ではあるが、前走で先着した相手はA評価を受けていて、前走同様、逃げて粘り込めれば期待が持てそうだった。しかし、誤算は1~2コーナー。好ダッシュから先手を取り、ペースを落としかけたところで外から掛かり気味に他馬に来られたことでペースアップ。2頭の併走はそのまま続き、吉村騎手は4コーナーで失速して13着だった。「厳しい展開になって、そのぶん、タレてしまいました」。勝ったのはシュバルツクーゲルとクリストフ・ルメール騎手だった。

1日目を終えて、合計ポイントは2点。初出場時は自己採点を30点としていたが、今回は「ポイントが2点なので、自己採点も2点」と苦笑した。逃げるべき馬で先手を取るなど、「やりたいことはある程度できました」と納得はしたが、どうも元気がない。どんな時でも明るく、強気なコメントが特徴の吉村騎手が、聞き取りづらいほど力のない声で喋る姿はここ10年では記憶にない。「去年、岩田望来騎手は56点で優勝したって聞きました。明日2連勝したら合計62点でひょっとしたら優勝も……(笑)」と、最後に自分に言い聞かせるように笑った。

第3戦は人気薄で見せ場の3着

迎えた2日目。この日もエキストラ騎乗6鞍と、多くのレースをこなしたが、掲示板に載ることはなかった。それでも、WASJ第3戦で魅せた。3走続けて2桁着順でD評価の騎乗馬ラフエイジアンは、スタートこそ1馬身ほど出遅れたが、3コーナーから徐々に差を詰め、直線入口で外に出されると大外の横山典弘騎手との併せ馬で力強く伸びてきた。最後はクビ+クビ届かず3着だったが、吉村騎手らしさ溢れるパワフルな騎乗だった。

「最近はゲート内での駐立が悪くて出遅れていたようなんですけど、もっと走れていい馬だとレース前に感じていました。今日は駐立はそこまで悪くなかったです。それを気を付けたぶん、スタートはゆっくりでしたけど、追ってから伸びました。能力がある馬です。あとは馬自身が走る気になってくれれば」

いわゆるズブい馬に闘魂注入し、やる気スイッチを入れる騎乗は、地方ジョッキーの多くが求められた経験があるだろう。吉村騎手も例に漏れず、「僕はこういう馬の方が合うんだと思います」と自己分析。そして、その口ぶりは、普段の様子に少し戻っていた。

勝ったのはティアップリオンと武豊騎手で、川田将雅騎手は発走直前に競走除外、坂井瑠星騎手はスタート直後に落馬・競走中止した。

最終戦の第4戦はA評価のジャスティンアース。今年のきさらぎ賞GIIIでは小差の5着だった馬だ。16年WASJでは最終戦を永森大智騎手(高知)がメイクアップで勝ち、逆転で総合3位入賞があった。その再現へ期待が寄せられた。

しかし、第3戦とは対照的なタイプの馬で、序盤にやや促したぶんか、1コーナーで頭を上げて折り合いを欠いた。それでも先頭を射程圏に入れて直線に向いたが、常に前が壁になって気持ちよく走らせることができず、馬群の中でなだれ込むようにゴール。勝ったエゾダイモンとジョアン・モレイラ騎手からは2馬身以内の小差ながら、8着だった。

総合11位も新たな経験を糧に

この結果、ジョアン・モレイラ騎手が一気に30点を獲得し64点で、15年以来2回目の総合優勝を決めた。現在は体のメンテナンスの意味合いもあり、母国ブラジルで騎乗数を抑えているが、日本競馬への熱意は変わらず。既報の通り、JRAでは来年度から短期免許の成績要件に『当該年または過去2年のWASJ騎手表彰順位5位以内』が加えられたとあって、総合優勝は2倍の喜びとなった。

2位に武豊騎手、3位に坂井瑠星騎手で、吉村騎手は11位(21点)。チーム対抗戦はJRA代表騎手チームが優勝した。

表彰式後には、地方競馬でも騎乗経験のある藤井勘一郎元騎手などと記念撮影に収まった。しかし、WASJの総括を求められると、唇を噛み締め数秒沈黙した。

「いま思うこと……。自分の力のなさにガッカリです」

そう声を絞り出した。とりわけ、第4戦は「窮屈なところに入って、前との距離を詰めながら小出しに脚をチョロチョロ使う形になった」ことで、騎乗馬の良さを引き出せなかったことを悔やんだ。

さらにもう一つ、エキストラ騎乗した第8レースで荻野琢真騎手が最後方にいながら内から3~4頭ぶん外を走り続け、直線一気の末脚で勝った姿に衝撃を受けていた。

「あんなにキレる脚っていうのが正直、僕は分からないんですよね。だから、同じ馬に乗ったとしても今の僕にはあの乗り方はできないです。脚を小出しにしているから直線で余力がなくて、キレないレースを多くしてしまいました。経験や引き出しがないぶん、できませんでした」

また、札幌コースの内は前が詰まりやすいと頭では分かっていても、「ロスなく立ち回る競馬が染みついていました」と、エキストラ騎乗を含め多く見られた内へのコース取りにも繋がっていた。

初出場の5年前より失意のWASJとなった。その後2回も地方全国リーディングに輝き、JRA2勝も挙げたのに、だ。ただ、勢い任せだった5年前に比べ、視野は広くなっている。地元に帰れば、地方復帰した名手・小牧太騎手から受ける刺激もある。

「今年で40歳ですけど、まだのびしろがあるということですね」

苦くて悔しい24年の夏は、次へのステップとなるだろう。


取材・文大恵陽子

写真桂伸也(いちかんぽ)