川崎記念を制しての海外挑戦
2024年の川崎記念JpnIを制し、113というレーティングを得たライトウォーリア。このことが川崎所属馬初の海外遠征を実現させた。レーティング117のクラウンプライド、115のウィルソンテソーロに続き、出走登録していたコリアカップGIIIに選出されたのだ。
コリアカップは、韓国が2016年に国際セリ名簿基準書のパート2国に昇格したのと同時に、初の国際招待競走としてコリアスプリントと共に創設されたレース。新型コロナウイルス感染拡大の影響で2020年から中止されていたが、2022年に再び開催されたタイミングで国際GIIIの格付けが付与された。そして、今年からはブリーダーズカップ・チャレンジシリーズの対象競走に指定され、優勝馬にはブリーダーズカップダートマイルの優先出走権が付与され出走登録料が免除、さらには輸送費用の一部が負担されるようになった。
レースが行われるソウル競馬場は左回り。砂厚はおよそ8センチ。川崎記念JpnIを制したライトウォーリアにとって条件はいい。管理する内田調教師もソウル競馬場のイメージについてこう話した。
「ライトウォーリアはどちらかと言えば左回りの軽い馬場の方がいいので、ソウル競馬場は絶対に合うと思います」
その内田調教師にはコリアカップGIIIに挑戦したいもう1つの思いがあった。
「川崎競馬場から海外のレースを使った馬は、今までに1頭もいなかったと思います。チャンスに恵まれた私達が行かなかったら、次の若い世代の人達も行かなくなってしまうでしょうし、せっかく川崎所属馬から選ばれたのですから」
そんな思いを、結果的にライトウォーリアのオーナーであるキャロットクラブも後押しすることとなった。
「秋競馬の始動戦として複数のレースが候補に挙がっていましたが、コリアカップが施行される韓国・ソウル競馬場はこれまでに結果を残している従来の砂馬場であることから、仮に選出された場合は目標にしていこうという話をしていました。また、ライトウォーリアは4月の川崎記念に勝利しており、この実績に加え、国際グレード競走で好走することは、大目標に据えている同年度のNAR年度代表馬争いで大きなプラスになると考えられることも大きな要因となりました。韓国での騎乗経験もある吉原寛人騎手にはそうした経緯も理解してもらっており、さらにタイトルを積み重ねる走りを見せてくれることに期待しています」
鞍上には吉原寛人騎手
出走が決定したライトウォーリアはノーザンファーム天栄で調整を進めながら検疫を終え、8月30日に韓国へ出発、ソウル競馬場に入厩した。キャロットクラブは2016年のコリアカップをクリソライトで勝利しており、鞍上の吉原騎手もその年にグレープブランデーでソウル競馬場での騎乗経験がある。このことは内田調教師を心強くさせたが、ライトウォーリアのこととなると不安がよぎった。
「初めての海外輸送ですからね。馬の状態がどうなっているか。大丈夫だとは思っているのですが」
だが、その不安は杞憂に終わる。到着後のライトウォーリアの様子をキャロットクラブに伺うと、次のようなコメントを頂いた。
「韓国へ到着した当初は環境の変化に少し戸惑った様子を見せていましたが、時間が経過するごとに慣れてきたようで、与えられたカイバもしっかり食べてくれるようになりました。今回はこれまでのレースと異なり、ミッドウェイファームでの調整を挟まずに進めるなど、手探りなところはありますが、しっかりとケアして頂いていることで状態は日に日に上向いてきているように感じます」
最終追い切りは、翌日に秋桜賞(名古屋)の騎乗がありながらも、その合間を縫って現地に駆け付けた吉原騎手。
「初馬場でも動じず、物見も無くて、いい雰囲気で追い切りができました」
そう話すと4番枠に確定した枠順についても話を続けた。
「頭数も11頭立てなのでどこでもいいなと思っていたのですが、他の日本馬とあまり近い枠だとスタートしてからの競り合いが厳しくなるので、いい感じにバラけてくれましたね。日本馬の中では最内枠ということで競馬はしやすいのかなと思います」
そして地方所属馬と海外に挑戦できることを喜んだ。
「とてもうれしいことですし、光栄なことです。それに乗せて頂けるということですから、何とかいい結果を残せるように頑張りたいです」
レース当日のソウル競馬場は、予想気温32度を遥かに超えているような暑さだった。6階のテラスで取材に応じた内田調教師も「暑いね」と話すと、乾燥した馬場に散水車が水を撒いている様子を指さし、「そのままでいいのにね」と軽い馬場を望むライトウォーリアの話に笑いを添えた。
一方、ソウル競馬場に到着した吉原騎手は、炎天下の中、川田将雅騎手達と馬場に出て砂の感触を確かめた。そして、コリアカップGIIIの1つ前に行われたコリアスプリントGIIIでは、横山武史騎手と訪れていた藤井勘一郎元騎手と共にゴール前で日本馬を応援。川田騎手(リメイク)と団野大成騎手(ジャスパークローネ)のワンツーフィニッシュを見届けると、自身のレースに向けて地下馬道へと消えていった。
その地下馬道ではコリアカップGIIIの出走馬が集まりだしていた。韓国ではすぐにパドックに入らず、地下馬道でしばらく待機する。決して広いとはいえない空間とあって落ち着かない馬も多い中、ライトウォーリアは堂々としていた。
「可愛いだろう?本当に落ち着きがあるんだよ」
内田調教師はそう話すとライトウォーリアの顔を撫でた。しばらくすると出走馬はパドックに入場。その周回中に騎手達も姿を現すと、客席からは声援が飛び交い、その声に吉原騎手も笑顔を見せた。
悔やまれるスタートでの出遅れ
こうしてレースに向けてすべてが順調に進みつつあったが、返し馬を終えてスタート地点に着いた時、その流れを断ち切る出来事が起きた。原因は日本にはいないゲートボーイの存在だ。吉原騎手はその時のことをこう振り返る。
「ゲートボーイのことが気にはなっていたんですが、スタートを切るタイミングと言いますか、ゲートボーイが後ろに移動した時にライトウォーリアもそれを気にしているところがありまして、その分、いつものようなダッシュがつきませんでした」
その様子は内田調教師も気づいていた。
「ゲートに入るところを見ていたら、ライトウォーリアがゲートボーイを気にしているんですよ。出遅れなければいいなと思っていたら、出遅れてしまって。こればかりは仕方のないことなのですが」
韓国ではスタートしてから100メートルを真っすぐに走らなければならない。吉原騎手はこれを利用して出遅れた分をカバーしようとした。そして、その区間が終わるとすぐに待ち構えている1コーナーまでに6番手外側のポジションを確保する。
ハナを奪ったのは昨年の覇者クラウンプライド。1コーナーまでの入りは19秒2と昨年よりも0秒4ほど速く通過したものの、800メートルを50秒3、1000メートルを1分2秒6と徐々に昨年と同じ時計で通過していった。こうなると勝つためにはクラウンプライドを捕まえに行かなければならない。向正面から3コーナーにかかるところでライトウォーリアは動き出した。すると4コーナー手前では2番手に。しかし、ここで外からウィルソンテソーロとグローバルヒットが襲い掛かってくる。そして、直線に入るとその2頭から遅れを取ってしまった。それでも後続馬を振り切って4着でレースを終えたのは、ライトウォーリアの持つ能力の高さだろう
海外遠征の経験を糧に
後日、キャロットクラブからもコメントを頂いた。
「前へ行ってこそ、持ち味を存分に活かせる馬だと考えているだけに、今回は悔いの残るレースになってしまいました。ただ、思惑とは異なるレース運びだったにもかかわらず、大きく崩れなかったあたりは本馬の地力の高さだと思いますし、次走以降で本来の走りを見せてほしいと思います。初めての海外遠征という慣れない環境下でレースへ向けて態勢を整えて頂いた厩舎関係者の皆様、吉原騎手には心より感謝を申し上げたいです。今回の遠征がライトウォーリアにとってプラスとなり、糧となってくれることに期待しています。この後は予定通り、9月10日に日本へ向けて帰国する予定です。地方競馬教養センター、そしてノーザンファーム天栄へ移動して検疫を行い、関係者間で協議し、状態次第で次走を決めていきたく思います」
レース後、韓国馬事会(KRA)のアナウンサーであるジョー・キムさんにも話を伺った。
「私はライトウォーリアがハナを奪うと思っていました。そうはならず、クラウンプライドがハナを奪ってそのまま残りましたね。今日はとても暑い1日でしたが、同じように暑かった昨年のレースを経験しているクラウンプライドに有利となったようにも思います。コース経験をはじめ、色々なことを熟知していたでしょうから。もちろん横山武史騎手の生み出したペースも素晴らしかったですし、クラウンプライドは素晴らしい走りをしました。でも、季節は秋ですし、もう少し涼しくなってほしかったですね」
最近は日本馬の海外競馬での活躍が顕著だが、海外競馬で勝つことは簡単ではない。数々の経験を積んで完璧に準備をしていても負けてしまうことがある。それは何度も挑戦していく中で手に入れることができるものなのだろう。
昨年、大井所属のマンダリンヒーローが米国に挑戦し、今年の春には兵庫所属のイグナイターがドバイに挑戦した。過去にはアジュディミツオーやコスモバルク等の挑戦もあったが、地方所属馬達の海外挑戦はまだスタートしたばかりと言える。今回のライトウォーリアの経験は必ず次に生きてくるだろうし、それを海外のホースマン達も心待ちにしている。
ジョー・キムさんのライトウォーリアに対する第一声もこの言葉だった。
「またソウル競馬場に来て欲しいです」

