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第37回マイルチャンピオンシップ南部杯JpnI

好スタートを決め一騎打ちを制す
  4着ミックファイアは復活の手応え

南部杯の創設は1988年。その2年前、“ダービー馬によるダービー”を夢見て地方全国交流・ダービーグランプリがスタート。各方面から注目を集め、成功したのを受けて創設された。当初は北日本地区(北海道・東北・北関東)交流。理由は非常に明快だった。当時、南関東のレベルが抜けて高く、岩手とは雲泥の差。1着賞金は第4回まで2000万円だった。

しかし2000メートルではなく、マイルにスポットを当てたのがずばり的中。北日本地区の強豪が水沢競馬場へ毎年集結。1年ごとに優勝地区が変わったことも南部杯を盛り上げる一助となり、第6回、第7回は地元トウケイニセイが連覇。南部杯は岩手競馬の看板レースとして成長し続け、“交流元年”と言われた1995年、JRA、全国の地方競馬にも門戸を開放。『北日本マイルチャンピオンシップ南部杯』は『マイルチャンピオンシップ南部杯』へ昇格した。

同年、全国の交流レースで連勝を続けていたライブリマウントが参戦。トウケイニセイは“地方競馬最後の砦”と称され、2頭の対決を見たさに多くのファンが詰めかけ、水沢競馬場は入場者数記録を更新。『天下分け目の決戦』を見守った。

翌1996年、OROパーク(現在の盛岡競馬場)の完成に伴い、マイルチャンピオンシップ南部杯は舞台を盛岡ダート1600メートルへ移行。1997年にはGIに格付けされ、今年で37回目を迎える。

なぜ長々と南部杯の歴史をお伝えしたか。実は今年、第1回の優勝馬グレートサーペン(高崎)を管理した渡邉和泰元調教師が、盛岡競馬場へいらしてくれたからだ。ご存じの方もいるかもしれないが、今年、ミックファイアで参戦した渡邉和雄調教師の父親でもある。

2015年、渡邉和雄調教師はユーロビートで、第19回マーキュリーカップJpnIIIを優勝。その後、電話インタビューをお願いしたが、その雑談の中で「グレートサーペンの南部杯優勝が競馬の世界に入るきっかけだったんですよ」と答えてくれて、びっくりした。

今年のマイルチャンピオンシップ南部杯JpnI、最大の見どころはレモンポップが史上8頭目の連覇を果たせるか否か。昨年はドバイゴールデンシャヒーンGI・10着から帰国初戦にここを選んだ。約6カ月半ぶりの実戦ながら、前年の覇者カフェファラオを抑えて1番人気(単勝1.5倍)に支持され、その期待に応えて圧勝。2着イグナイターにつけた2秒0差は南部杯史上で最大着差だった。

あれから1年が過ぎ、今年はサウジカップGI・12着からさきたま杯JpnIを完勝して参戦。当然のように単勝1.1倍の圧倒的1番人気に支持されたが、不安がない訳ではなかった。最終追い切りで2歳馬に遅れを取った。「相手に合わせる形だったにせよ、不安材料ではありました。それに今回は1番枠でしたからね」(田中博康調教師)

昨年は3番枠から圧勝したが、1995年以降、1番枠の優勝はなし。特に盛岡1600メートルは3コーナーのカーブに入るまでほぼ直線800メートルの攻防。仮に出負けすると外から次々と被せられ、ポジションを取れなくなる危険もはらんでいる。田中調教師の不安も十分理解できた。

しかしレモンポップは絶好のスタートを決め、昨年同様に主導権を握った。これで安泰かと思ったが、外からペプチドナイルが積極的に攻めてレモンポップにプレッシャーをかけた。

去年のラップが前半3ハロン36秒7、上がりが34秒7に対して今年は前半35秒1、上がり36秒6。「去年と同じように4コーナーで引き離そうと考えていたが、なかなか離せなくて苦しいレースになった」(坂井瑠星騎手)が、なんとかしのいで3/4馬身差でゴール。改めてレモンポップの強さにしびれた。

一方、2着ペプチドナイルの藤岡佑介騎手は「真っ向勝負に出て負けたのは悔しいが、いい競馬ができた。どこかで逆転したいと思っています」と敗戦の弁。スタートからゴールまで手に汗を握るマッチレースは、南部杯史上に残る名勝負となった。

レースを終えてレモンポップはウイニングラン。「1年ぶりにファンのみなさんへ“ただいま”という気持ちでウイニングランをしましたが、最高の気分でした」。この日、訪れた1万人近くのファンから大喝采を浴びた。

4着に敗れはしたが、ミックファイアは復活の手ごたえを十分につかんだに違いない。「5カ月ぶりの実戦で体重が増えていたが、たくましくなっていた。しっかり競馬をしての4着だったので納得です。プラス14キロは成長分。次はさらに楽しみです」(吉原寛人騎手)

残念ながらタイミングが合わず渡邉和泰さんとお会いすることができなかったが、いつか聞いてみたいと思っている。「今年の南部杯をご覧になって、去来したのはどんなことでしたか」と。

取材・文松尾康司

写真いちかんぽ(佐藤到、早川範雄)、NAR

Comment

坂井瑠星騎手

ヒヤヒヤしましたが、無事に勝つことができて良かった。1週前の追い切りは問題ありませんでしたが、最終追い切りは田中(博康)調教師から70点と言われていましたが、その点数なら大丈夫。この馬の走りができれば負けないと思っていました。国内でボクはこの馬で負けていない。勝つために乗っています。

田中博康調教師

今回は1番枠でしたから戦法が限られると思っていましたが、うまく先手を取ってくれました。今回は(ペプチドナイルが)負かしにきたので楽はできないと思っていたが、地力で勝ってくれた。中間の感じを踏まえるといい内容だったと思います。今後についてはオーナーと相談して決めます。