直線独走しジーワン初制覇
川田将雅騎手が地元で歓喜
JBCスプリントJpnIとJBCクラシックJpnIのレース間隔は70分。その間に行われたJBC2歳優駿JpnIIIの映像でも場内から熱気が発散されて、時を同じくしてJBCクラシックJpnIの出走馬がパドックに入ってきた。
今年の出走馬は11頭で、単勝の上位人気はJRA所属の4頭に集中。そのなかで1番人気となったのはウィルソンテソーロ。国内のGI/JpnIでは2着3回という実績で、2.1倍の支持を受けた。
続く2番人気は、前走の日本テレビ盃JpnIIを制したウィリアムバローズで3.3倍。今年の佐賀記念JpnIIIを快勝したノットゥルノは3.6倍、JpnIを3勝しているメイショウハリオは6.4倍だった。
ゲートが開くと、日本テレビ盃JpnIIと同じようにウィリアムバローズが先手を主張。2番手には高知のヒロイックテイルが付けた。ノットゥルノは佐賀記念JpnIIIと同じように、馬群の外を回る形で好位を追走。その内側にガルボマンボが入り、ウィルソンテソーロはノットゥルノを左斜め前に見る位置で1周目のゴール板を迎えた。
その流れは見た目にはゆったりしているという印象。しかし2コーナーあたりからペースアップ。ウィリアムバローズを追う争いにメイショウハリオも加わって、2番手グループは5頭。すると3コーナーの手前で内から2頭目を進んでいたウィルソンテソーロが一気に加速。4コーナーに入る前に先頭に立った。
そこからはウィルソンテソーロの独壇場。そのままの勢いで2着に4馬身の差をつける圧勝を飾った。
鞍上の川田将雅騎手は、そのまま馬場をもう1周。スタンド前に戻ってきたところでヘルメットを取って深々と頭を下げ、そのヘルメットを左手に持ったまま検量エリアへと戻ってきた。その姿に場内は「カワダ、カワダ」の大合唱。佐賀競馬場で初めて行われたJBCの象徴的なシーンとなった。
その姿を検量エリアで見守っていた川田騎手の父、川田孝好調教師は「あんなに感情を表に出してウイニングランをするなんて、初めて見ましたよ。本当にうれしかったんでしょうね」と、感無量の様子。その川田騎手は表彰式で「佐賀競馬場で生まれ育ち、地元でジーワンを勝つということが、こんなにも感極まるものなんだな」と涙を見せながら、集まったファンに対して感謝の言葉を発した。
管理する小手川準調教師も「川田さんがあんなガッツポーズをするのを見たのは初めて。こちらもこみ上げてくるものがありました」と感激していた。
2番人気のウィリアムバローズは日本テレビ盃JpnIIに続いての逃げ切りとはならず、6着という結果。3番人気のノットゥルノは5着で、武豊騎手が「2周目の3コーナーから行きっぷりが悪くなりました。勝つときと負けるときの差が……」とコメントを残した。
一方、4番人気のメイショウハリオは2着。昨年のJBCクラシックJpnIで4着に敗れてからいまひとつの結果が続いていたが、この日はパドックで濱中俊騎手が乗った瞬間に、2人曳きでも抑えるのに苦労するほど気合が入っていた。「今回は調教から気配が良かったので、久々にいい手ごたえで競馬に行けるという感じでした。結果は負けましたが、(内容的には)良かったと思います」と、濱中騎手。帝王賞JpnIを2勝している実績馬が、年末の大舞台で再び好走する可能性は十分にありそうだ。
そして2着から3馬身差の3着に入ったのは、兵庫のキリンジ。兵庫の重賞で2戦連続3着だった馬が、ここでも上位入線を果たした。JBCスプリントJpnIに続いて新子雅司調教師からの依頼を受けた笹川翼騎手は「気持ちを途中で切らさないように、馬への当たりを柔らかくすることを心掛けて乗りました。強い馬が先に行ってくれて、その後ろからいい脚を長く使ってくれました」と振り返った。
逆に「3着は欲しかったですが……」と話したのは、キリンジから半馬身差で4着となったシルトプレ鞍上の石川倭騎手。それでも馬主さんは「倭騎手のおかげですよ。本当にすごい」と大喜び。管理する米川昇調教師は「地元だとこの馬にとってはペースが遅いんですよ。だから相手が強いレースのほうが合うんです。今後は佐賀記念を目指すことになるのかなと思いますが、オーナーと相談ですね」と話した。
最終レースの終了後は、内馬場のステージでイベントを開催。そのフィナーレではJBCクラシックJpnIに騎乗した出水拓人騎手と加茂飛翔騎手が登壇し「大きいレースに初めて乗せてもらって、満員のスタンドの前でいつもと違う気持ちになりました。また、こういう舞台で乗りたいと思いました」とあいさつしていた。いろいろな競馬場で開催されるJBCは、そこに所属する騎手にもいい経験を与えるようだ。大ベテランの山口勲騎手も例外ではなかったようで「久しぶりにいつもと違う、楽しい感覚で乗れましたね」と、5勝を挙げた1日を振り返った。
また、佐賀リーディングを快走している真島元徳調教師は「これでどのくらい(馬券が)売れたが、気になりますね」と笑顔。
その数字は、55億9140万3800円。大井競馬場で実施された昨年の78億7500万円あまりには及ばなかったが、いわゆる“コロナ前”の2019年に浦和競馬場で実施されたJBC当日の58億3151万1430円に匹敵する結果を残した。当日の入場者数は12,789名。最終レースからしばらくたっても、新鳥栖駅に向かうバスを待つ列は入場門の前で長く続いていた。
取材・文浅野靖典
写真いちかんぽ(岡田友貴、桂伸也)
Comment
小手川準調教師
これだけの馬を預けていただいて、でも大きいレースを勝てなくて、だからこの中間はなにがなんでも、という思いで調整しました。佐賀の出張馬房でリラックスしていたので、これなら大丈夫だと自信を持ってレースを見ました。担当厩務員もゲート裏で川田さんに「すごいデキですね」と言われたそうです。
川田将雅騎手
なかなか勝ち切ることができず、それでもすばらしい競馬を続けながら、一歩一歩成長してくれました。今日は具合が良かったですし、必ず勝つ競馬をしようと思って臨みました。同じオーナーのウシュバテソーロに追いつけるように、これからもともに精進していきたいと思います。