早めの仕掛けで一騎打ちを制す
新子厩舎2頭は惜しくも3・4着
佐賀県は東京より日没が40分ほど遅いため、JBCスプリントJpnIの出走馬がパドックに姿を現した16時50分頃でも空には明るさが残る状況。身動きを取るのが難しいほどの人に囲まれるなか、出走する12頭は落ち着いた様子で周回を続けていた。
その雰囲気に、ホウオウスクラムを送り出した高知の田中守調教師は「九州の競馬ファンは本当に熱いなあと、改めて思いますね」と感心していた。
そのなかで、ひときわ目立つ気合を見せていたのが3歳馬のチカッパ。コーナー4回のレース経験は4月の兵庫チャンピオンシップJpnIIだけで、そこでは2着。しかし前走の東京盃JpnIIを制したことと、武豊騎手騎乗が評価されたのか、単勝2.4倍の1番人気に支持された。
もう1頭、高い支持を集めたのが2.5倍のシャマル。一昨年のサマーチャンピオンJpnIIIを制したことなどが評価されたのだろう。
ただ、馬場状態の発表は“良”。佐賀競馬場には2日前の早朝に相当な量の雨が降ったのだが、その影響がそれほど残らなかったことは、ダートグレードでの6勝がすべて“不良”または“重”だったシャマルにとっては誤算だったと言えるかもしれない。
それでもシャマルは今年の黒船賞JpnIIIとかしわ記念JpnIと同様に、ゲートが開いた瞬間に先手を取った。しかし今回は2つ隣の枠からスタートしたヘリオスに競られるという形になった。ホームストレッチでは馬体をぴったりと併せる形で、3番手を進んだイグナイターには1馬身ほどの差がついた。前半600メートルは37秒9で、最終レースに行われた2歳重賞・ネクストスター佐賀と同じ。それでもプレッシャーを受けながらの逃げは、シャマルにとっては厳しかったようで、最後の直線で失速して7着。ヘリオスも10着に敗れた。
対照的にうまく流れに乗れたイグナイターだが、3コーナーでの反応はいまひとつに見えた。逆に中団から外を回って追い上げたタガノビューティーは勢い十分。最後の直線に入ったところでまくり切り、そのまま押し切る態勢を作った。
しかしその内側にはチカッパがいた。外を回ったタガノビューティーに対し、インコースの最短距離を通った。良馬場でも通常よりインコースが使えるこの日のコンディションを最大限に生かした武騎手の好判断だった。
残り200メートルからゴールまで2頭のマッチレース。場内から大きな歓声が沸き上がるなか、残り100メートルあたりから馬体を並べての真っ向勝負は、外のタガノビューティーに凱歌が上がった。
着差はわずかにハナ差。“タガノ”の冠名には多くの活躍馬がいるが、GI/JpnIの勝利はこれが初めてとなったのだ。
「かしわ記念で2年連続2着とか、今年のフェブラリーステークスでも突き抜けるかなと思ったら届かなかったりとかでしたが、なんとか勝ってくれて本当によかった」と、管理する西園正都調教師は感激の面持ち。対して、2着に敗れたチカッパの武騎手は「状態はとてもよくて、思ったとおりのレースはだいたいできました。ただ、ベストは1200メートルかな。大きい競馬場のほうが良いと思います」と話した。
続く3着と4着は、兵庫の新子雅司厩舎の2頭。1馬身半差で3着に入ったのは今年のサマーチャンピオンJpnIIIを制したアラジンバローズで、下原理騎手は「佐賀競馬場がいちばん脚を使える舞台だと思っていました。この馬自身も力をつけてきましたね。次は兵庫ゴールドトロフィーと聞いていますが、もう一段階、上に行けることを楽しみにしています」と期待を寄せた。
そして連覇を狙ったイグナイターは3着から半馬身の差。「前回(東京盃)よりは良いと思いましたが、絶好調のときと比べると物足りないかなという感触はありました。それでも力があるところは見せられたと思います」と、笹川翼騎手。こちらはこれから復活を期して、調整されることになるのだろう。
その2馬身後ろで5着を確保したのは、船橋のパワーブローキング。「前走(埼玉新聞栄冠賞3着)がもったいない内容でしたからね。(前走から中11日と)間隔は短くても馬は元気ですし、クラシックよりはスプリントのほうがいいかなと思って」という佐藤裕太調教師の選択が見事に当たった。初コンビを組んだ吉原寛人騎手も「初めての距離でも最後までしっかりと脚を伸ばしてくれて、収獲があったと思います」と、今後への期待を話していた。
取材・文浅野靖典
写真いちかんぽ(岡田友貴、桂伸也)
Comment
西園正都調教師
3コーナー手前からまくって行って、早いんじゃないかと思ったのですが、そこで思い切って行ったことが後続の追撃を許さなかったのだと思います。前走のあと、気配がとても良くなって、これならやれるのではないかと思っていました。7歳馬の頑張りに頭が下がる思いです。
石橋脩騎手
手応えがあるなら思い切って乗ろうと考えていました。今日は前向きで、気持ちを切らさずに走ってくれました。これまでもうまく乗っていれば(大きい)タイトルを獲れていたと思います。それでもずっと、西園先生やオーナーさんが乗せ続けてくれたことには感謝しかないです。