個性的三冠馬の進化と成長
名手を背に盤石の連覇達成
田中守厩舎に入厩した当初のユメノホノオは、「きゅうりに爪楊枝を挿したみたいな馬」と言われていた。胴長で脚長で痩せっぽっちのルックスは、お盆に飾られる精霊馬のようだったという。
13年ぶりに良馬場で行われる高知県知事賞。パワーを要する馬場状態で繰り広げられる2400メートル戦。ユメノホノオにとって厳しいレースになるのでは……?
筆者が立てた仮説は、早くもパドックで揺らぎ始めた。単勝1.3倍の圧倒的1番人気に推されたユメノホノオは、筋肉の張り詰めたトモを艶々に光らせながらパドックを周回している。503キロというデビュー以来最高の馬体重で高知県知事賞連覇を狙う。
2番人気のガルボマンボは、2023年の高知県知事賞でユメノホノオとマッチレースを演じ半馬身差の2着だった。珊瑚冠賞ではユメノホノオを破って戴冠。遠征競馬でも力走を重ねる芦毛のステイヤーは、雪辱を期して大一番に臨む。
大外枠に入ったユメノホノオは、ゲート入りの際に何度か後ずさりをした。3歳時に繰り返した強烈なレースぶり――大出遅れからの大まくりはファンの脳裏に刻まれている。スタンドに緊張が走った。
ところがユメノホノオは好スタートを決めた。4~5番手の位置取りで、内のガルボマンボをマークする形でレースを進める。2周目の向正面、ポケットから抜け出そうとするガルボマンボ。すかさずユメノホノオが蓋をしながらスパートをかけて一気に先頭へ。そのまま加速して後続を突き放し、大歓声に包まれて高知県知事賞を連覇した。スタミナを発揮したロッキーサンダーが3馬身差の2着、直線で鋭く伸びたロードブレスがクビ差の3着に入った。10番人気エイシングラスが4着に健闘。ガルボマンボは5着に敗れた。
ユメノホノオの手綱を取った吉原寛人騎手はこう振り返る。
「ガルボさんだけを見て競馬をしていました」
ガルボマンボを封じ込めた場面は、稀代の名手の真骨頂。勝利の確率を目一杯に高めて、強い馬に強い勝ち方をさせた。年の瀬も各地へ遠征し、前日の30日にはフェブランシェで東京シンデレラマイルを制覇。2日連続で期待馬の手綱を託されたプレッシャーもあったそうで「この2連勝は精神的に助けられました」。安堵の表情を浮かべた金沢の仕事人は、この1年で重賞を28勝した。
4月の二十四万石賞制覇から始まったユメノホノオの4歳シーズン。そのまま連勝街道を突き進むかと思われたが、福永洋一記念と珊瑚冠賞では2着に敗れた。吉原騎手は言う。
「古馬と戦うようになって、『ペースとかに戸惑っているのかな』と思っていたんですけど、どうもそうではなくて。体の成長が追いついていないようにも感じられて、『もうちょっと走れてもいいのになあ』とモヤモヤしていました。放牧先の牧場では体重が増えていても、高知に戻ってきたら萎んでしまったり。なんか身になっていない部分がずっとあったんです」
陣営はユメノホノオが心身共に成長途上であることや、夏負けしやすいことをふまえて、秋に予定していた遠征計画を白紙に戻した。じっくり時間をかけて調整したことが奏功して、調教を担当する山頭信義厩務員いわく「トモの蹴りがよくなっています。これまでで一番いい状態でした」。ユメノホノオのポテンシャル。田中厩舎の馬優先主義。吉原騎手の手綱さばき。なにもかもが噛み合って、進化と連覇に行き着いたのだろう。砂けむり舞う高知競馬場で、進化したユメノホノオに衝撃を受けた大晦日だった。吉原騎手は言う。
「僕はまだ伸び代があると思っています」
※レース後に妹尾将充元騎手が聴き取り、書き起こした騎手のコメントはこちら。
https://www.keiba.or.jp/?postracecomment=2024123107
取材・文井上オークス
写真桂伸也(いちかんぽ)
Comment

田中守調教師
ちょっとずつ成長していますね。もう少し体は増えると思います。この時期としては暖かいとはいえ、かなり発汗していました。ユメノホノオは暑さがこたえるタイプなので、夏場はレースを使わないようにしようと話しています。スタートは決めましたがゲート入りを渋りましたし、遠征はまだまだ先ですね。







吉原寛人騎手
返し馬からいい状態を確認できましたし、自信を持ってレースに臨みました。スタートが改善されつつあり、二の脚もしっかりついて、好位の一番いいところで競馬を進められました。よきライバルのガルボ(マンボ)さんを徹底マークして、早めに勝負に出ました。本当に盤石の競馬だったなと思います。