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第57回ばんえい記念

代打騎乗のプレッシャーを乗り越え
  雪中決戦制し8頭目の1億円ホースに

ばんえい競馬の最高峰レース。今年は開催最終日の第12レースに行われた。

レース前日、衝撃のニュースが入った。大本命のメムロボブサップに騎乗する阿部武臣騎手が、調教中に怪我をして乗り代わりに。昨年2着のリベンジに、と毎日調教を続けてきた阿部騎手と、同じく怪我をした脇本大介厩務員の悔しさを思うとやりきれない。代打騎乗に決まった渡来心路騎手は、意外にもばんえい記念は初騎乗だが、それが現役最強馬。「プレッシャーで心臓がバクバク」だったそうだが、逆に「やるしかないな」と開き直り本番を迎えた。

馬場水分は1.3%だが午後5時半過ぎから降り始めた雪がコース表面にのってスピードの出る馬場に。出走馬の1頭キンツルモリウチは今井千尋騎手が女性騎手初のばんえい記念騎乗となる予定だったが、左前肢跛行のため競走除外となり7頭での競走となった。誘導馬はばん馬のミルキーを含む3頭が登場し、イベントで来場したホッカイドウ競馬の石川倭騎手も騎乗した。

過去の重賞ファンファーレと合わせた新旧ファンファーレの生演奏が響き『世界一長い1ハロン戦』のスタート。

メムロボブサップが最初に第1障害を通過し、その後は各馬が少しずつ刻む、ばんえい記念ならではのレース展開。コマサンエース、インビクタが前に出てメムロボブサップは中団。初挑戦のダイリンファイターが1分17秒で最初に第2障害に到達した。

ほどなく4頭が障害に挑戦し大勢の観客から歓声が上がった。コマサンエースの金田利貴騎手は全身を大きく動かして馬を鼓舞し最初に一腰で障害を越えた。コウテイが続き、メムロボブサップとインビクタが同時に降りた。ほとんどの騎手が激しく馬を追う中、メムロボブサップの渡来騎手だけが手綱を持ったまま。馬の行く気に任せゴール手前30メートルで先頭に立つ。騎手が軽く手綱を引くと、ぐいっと伸びてゴールに突き進んだ。ゴールの瞬間はクールな渡来騎手がガッツポーズ。勝ちタイムの2分17秒5はばんえい記念最速だった。

2着は3番人気コマサンエース、3着はコウテイ、5歳馬タカラキングダムが4着。前日引退式を行ったミノルシャープは、止まりながらも7着でゴールし観客から大きな声援と拍手が送られた。

渡来騎手は「すごくほっとして……うれしいです」とはにかんだ。メムロボブサップについて「完璧な馬。スタートの良さ、1トンでも騎手のいうことを聞く、闘争心、障害力、降りてからの脚、全てそろっている」と褒め称え、「武さん(阿部騎手)がしっかり仕上げてくれていた」と感謝した。馬を信じ、必要以上に馬を追わない渡来騎手らしい騎乗が光った。

坂本東一調教師は、阿部騎手の怪我を聞いた時にはパニックになったそうだが「阿部騎手が(調教で)努力してくれたので感謝しています」と涙。馬主、生産者の竹澤一彦さんは「大きな忘れ物を掴みに来れました」とほっとした表情を見せた。

この勝利でメムロボブサップは収得賞金が1億135万7500円となり、19年ぶり史上8頭目の1億円馬に。スーパーペガサスが2006年に達成後、存続の危機があったばんえい競馬は賞金が下がる時期が続いたこともあって1億円は達成されることがなかった。今年度の発売金額は578億2265万8700円で最高額を11年連続で更新。メムロボブサップの強さと、関係者の努力が紡いだ1億円馬の誕生だった。

取材・文小久保友香

写真浅野一行(いちかんぽ)

Comment

渡来心路騎手

雪が降っても荷物が1トンなので、焦ることなくためていこうと思ってました。スタートを出た瞬間に『完璧な馬だな』というのがわかり、馬に任せて歩きました。障害を降りると勢いがあり、馬にも余裕があったので勝てるなと思いました。すごくうれしく感謝しています。

坂本東一調教師

ボブサップに感謝です。ゲートの出方がいつもとは違ったが、騎手はすごく冷静で素晴らしい勘。昨年の敗戦は馬の経験となりました。来年度は(制覇していない)帯広記念に目標を絞りたいです。私に対してすごく優しい馬。みなさんの応援に応えてくれました。